2020年5月8日金曜日

映画 「フォレスト・ガンプ / 一期一会」

1994年 アメリカ。





誰だって、数十年以上生きていれば自分史なるものがある。



『フォレスト・ガンプ』(トム・ハンクス)は、バス停のベンチに腰掛けながら、同じようにバスを待っている、見知らぬ人相手に、勝手に語りだした。



自分が産まれてから、現在に至るまでの出来事を………。






アラバマ州の一軒屋に産まれてから、父の姿を見た事もなく、ずっと母親との二人暮らし。


背中の骨の歪み具合から、歩行困難になり、無理矢理、両足に付けられていた矯正器具。


IQの低さから、周りに馬鹿にされてきたこと。





そんな時、何とか学校に通う事が出来た、フォレストは運命の出会いをする。


スクール・バスの中で、皆が席を譲らない中、彼女だけが、優しく声をかけてくれたのだ。


「隣に座っていいわよ」


美しい『ジェニー』、まるで天使のような『ジェニー』………。



(ジェニーの為だったら、ボクは何だってする!)


それはフォレストにとって、生涯をかけた恋の始まりだった。



フォレストが好きになったように、ジェニーもフォレストを気に入ってくれたようだ。





だが、事は、そう単純に運ばない。




ジェニー自身は、複雑な家庭事情や自分自身が抱える大きなトラウマに、悩み苦しんでいたのだ。



お互いに成長して、フォレストが「愛してるんだ、ジェニー!」と両手を広げて、迎え入れようとしても、どこか単純にとびこめない自分がいる。




(これでいいの?、私がやりたい事って何?、私はこれからどうやって生きていけばいいの?)




こんな疑問や、自分が抱えている苦しみを、フォレストにぶつけられれば、どれだけ気持ちが救われるだろうか………





だが、ジェニーは、そうはしない。


(きっと、彼には理解できないはずだから…………)




自分自身の葛藤から、素直にフォレストの元へとびこめない『ジェニー』(ロビン・ライト)。


だが、そんなジェニーの想いに、フォレストは気づかないし、分からない…………。





フォレスト自身も、また、自分探しの旅へと歩き出していく。


大学を卒業すると軍隊へ。世は、まさにベトナム戦争の時代………。





久しぶりに、何だか観たくなってしまって、しまいこんでいたDVDを取り出した『フォレスト・ガンプ』。


観始めると、グイグイ、フォレストの語りに乗せられて、一気に最後まで観てしまった。



途中、よそ見をする事もなく、ドンドン引き込まれていく物語。



やっぱ傑作だわ、これ。





軍隊で知り合った、大親友『バッバ』との出会い。


「俺の夢は、お金を貯めて、いずれ、エビ取り漁船をする事なんだ!なぁ、一緒にやろうぜ、フォレスト!」


いつでも、どこでもエビの話しかしないバッバ。(頭の中は《エビ》の事だけ。そりゃ、こんな話に耳を傾けてくれる人なんて、そうそう見つからないはずだ)


そんなバッバは、ベトナム戦争で、敵の銃弾に遭い帰らぬ人となる。(可哀想)





同じ軍隊で知り合った上官の『ダン中尉』(ゲイリー・シニーズ)も悲惨だ。


自信に溢れかえっていたダン中尉は、敵との交戦中、フォレストに助け出されるも、負傷した両足は、切断せねばならぬほどの重傷を負ってしまう。


「何で俺を助けたんだ?!あの時、死んでいればよかったのに!………見ろ!この足を! こんな身体で、これからどうやって生きていけばいいんだぁー!!」


どうする事もできない怒りと苦悩で、ただ、泣き崩れるダン中尉。(これも、また残酷な運命である)





こういう場面に遭遇した時、普通の人なら、何て慰めてよいかと、(どうしよう、どうしよう……)頭の中で、グルグルと慰めの言葉を引き出そうと、必死になって考えるだろう。



たとえ、その言葉が見つかっても、それが、「相手を傷つけてしまいやしないか」と尻込みしたりしてしまうかもしれない。




だが、フォレストは、下手な同情の言葉など一切言わないし、そんな先の思考にまで、たどり着く事はないのだ。



『分からない』から。



そんな風に迷い、悩む事もないから、ひとつの事に、限りなく集中する事ができる。



常人とは桁外れの集中力。



「走れ!」と言われれば延々走り続けたりするし、銃の組み立てや分解も集中して出来る。

卓球をやりだせば、延々、何時間でも集中して上達してしまう。



『分からない』事と、ひきかえに、これはフォレストが、神様から授かった特別な《ギフト》のようなモノだ。



でも、フォレストには『分からない』。




ジェニーが子供の頃、父親に性的虐待を受けていて、大人になってからも、そのトラウマに苦しんでいる事も。




ダン中尉の絶望や苦しみも。




『分からない』から、何の偏見もなく、いつも同じように接する事ができる。




そんなフォレストに、ダン中尉も、ジェニーも、最後には救われていくのだけど………。






この映画から数年後、テレビから中森明菜の歌う『オフェリア』という曲が流れてきた。



♪人の心が分からないのと~


♪分かりすぎてしまうのと、どちらが幸せ~?






本当にどちらが幸せなんだろ?



この映画『フォレスト・ガンプ』を観ると、必ず、この曲が頭の中でリンクしてしまう。


アカデミー賞も納得の、ロバート・ゼメキス監督の傑作は、観返す度に、違う表情を見せてくれて、自分に何かを考えさせてしまう一品なのだ。

星☆☆☆☆☆。