2020年2月21日金曜日

映画 「Wの悲劇」

1984年 日本。







とお~い昔、夏樹静子の『Wの悲劇』も読んだはずなのだが……。



全く覚えていない!内容を!



製薬会社を営む大富豪の邸宅で、愛憎渦巻く殺人事件が起きる、くらいのボンヤリしたような記憶だけだ。




代わりに印象深く覚えているのは、映画の方だ。


この映画『Wの悲劇』の方は、原作をそのまま映画化しているわけではなく、原作の『Wの悲劇』は、あくまでも劇中劇として取り扱っており、完全なオリジナル作品となっている。




劇団『海』が、演目として選んだ題材が、この小説『Wの悲劇』なのである。(マイナーなミステリー小説を選ぶとは………これにお客が集まるのかねぇ~)



そんな劇団『海』の若い研修生たちは、「これはチャンスだ!」とばかりに、良い役をもらえるよう闘志を燃やす。



その中のひとり、地味な『三田静香』(薬師丸ひろ子)も……。




「初めてだったのか?」

「ええ、だって男を知らないと人間として幅が広がらないというか、女優としても成長できないような気がして……」


そう言って静香は、ある夜、劇団の先輩俳優『五代』(三田村邦彦)と一夜を供にした。(なんて早まった事を!)



1度限りの後腐れのない関係……そして静香は決心する。


(これで前に進めるわ!そして、次こそは必ず大役をつかんでみせる!)




そんな静香が、野外公園のステージで練習していると、見知らぬ男が興味深げに話しかけてきた。


「君、お芝居やってるの?」


男は、『森口昭夫』(世良公則)といい、今は不動産の仕事をしているが、昔、芝居をしていた事もあり、熱心に練習している静香が気になった様子である。



それからも、公園で度々会った二人は次第に打ち解けて話すようになってきた。



やがてオーディションがあり、そして配役の発表日。



静香に与えられた役は、あまりセリフのない女中役(トホホ……)とプロンプター(役者が台詞を忘れた時に裏方でフォローする役目)だった。


そばでは、ライバルとして、しのぎを削っていた同期の『菊地かおり』(高木美保)が、「ヤッター!」と大喜びしている。


『Wの悲劇』の念願だった主役、和辻摩子役を、とうとう手に入れたのだ。



その様子を見て、さらに落ち込む静香。





夜もふけて、静香の足は知らず知らず、あの野外公園のステージに来ていた。


そこで落ち込む静香を見かけた森口は、思わず「結婚しよう!」と言うのだが、静香は女優の道を捨てきれないでいる。


「君が女優として成功した時は、楽屋に花束を送ってやる」

森口なりの励ましに、苦笑いで応える静香なのだった。




そんな静香を劇団の大先輩で大女優の『羽鳥翔』(三田佳子)も慰めてくれる。(お小遣いまでくれちゃう気前のいい翔)



大坂公演の後、静香はお礼がてら、翔のホテルを訪ねると……そこには血相を変えて取り乱した翔の姿が。


「ど、どうしたんですか?翔さん?」

部屋の中では、不倫相手で長年のパトロン『堂原』(仲谷昇)が死んでいた。



行為中の《腹上死》だった。(中年同士で、どんだけ激しいの?(笑))



その死体を見て、静香も、さすがに絶句して後ずさりする。



死体のそばでは、翔が「どうしよう……どうしよう」と言い続けているが、翔は静香の姿を見ると「助けて!助けてちょうだい!」と、いきなり泣きついてきた。


「助けるったって……私にどうしろと?」

「堂原があなたと一緒にいた事にしてちょうだい!」

「そんな………」

「このお礼は必ずするわ!あなたの望みなら何でも叶えてあげる!主役が欲しいんでしょ?その望みを叶えてあげるわよ!!」




こんな中年男の身代わりを、私にしろと?



………でも、これで主役になれるのなら………



翔の悪魔のような囁きと、モラルを天秤にかけて、揺らぐ静香だったが、すぐさま答えは出た。


「分かりました」静香は合意した………。




それからは、警察の取り調べ、マスコミの記者会見などを、全て仕事のように淡々とこなしていく静香。



その後には、最大級の褒美が待っている。



『Wの悲劇』の主役。

静香は、いきなり端役から、主役『和辻摩子』に、ジャンプアップ!

大抜擢されたのだった。




だが、この突然の主役変更に、納得できるはずもなく………劇団員たちは、当然ざわつきはじめた。


(どうして、あの子が?)

(何か汚い手でも使ったんでしょうよ……)なんていう陰口もチラホラ。




代わりに突然、役を降ろされた菊地かおりは、納得できるはずもない。


「翔先生!」

「あなたじゃダメなのよ!摩子役、誰かに変わってもらわなくちゃ、私できないわ!」

かおりは憎悪をむき出しにして去っていった。




それでも、静香は動じる事はない。


(これが自分で選んだ道……どんな手段でも主役は私なんだから……)



静香の舞台『Wの悲劇』の幕が開く……。





この後は、この映画、もう名セリフのオンパレード。



《名セリフ1》そんな汚いやり方で、役を手に入れた静香に激昂する森口に向かっては、


顔ぶたないで!私、女優なんだから!(顔は女優の命ですもんね)





《名セリフ2》『Wの悲劇』の幕開け前に、覚悟をきめたはずなのに、緊張でガクガクの静香に翔が言う言葉も印象深い。



女優!女優!女優!勝つか負けるかよ!(女優のお仕事も大変)





《名セリフ3》さあ、いざ本番、『Wの悲劇』の幕があがると、『摩子』(静香)のセリフが、


私、おじいさまを殺してしまった!おじいさまを刺し殺してしまった!!(この芝居のセリフ、これで掴みはO.K!)





《後、隠れた名セリフ4》別れを決意して去ろうとする静香に、後ろから昭夫が声をかけるのだが……


これが俺たちの千秋楽なのかよ?!


なんてのもある。(こんな臭いセリフも世良公則だから、カッコ良いんだけどね)





現実世界では、到底使わないような言葉が、ポン!ポン!飛び出してきて、まぁ楽しい事!


そして、こんなインパクトがあるセリフは、当時バラエティー番組なんかがあると、こぞって取り上げてマネしたものである。




それまで、薬師丸ひろ子の映画は何となく不得手だった。


でも、この映画に関しては大好きになってしまった。(もちろん名女優、三田佳子さんも)





そして、薬師丸ひろ子の歌の上手さも、この映画で改めて再確認したような気もした。




この映画の主題歌、『 WOMAN~(Wの悲劇より~) 』は、ハッキリ言って、超ムズカシイ難易度の高い曲で、誰でもが簡単に、一朝一夕(いっちょういっせき)で歌えるシロモノではないのだ。


ともすれば、暗く陰鬱そうな、このメロディーラインを、薬師丸ひろ子の伸びやかな声が、救い上げるように、みずみずしく歌いきっている。


作曲は、あの松任谷由実だが、作ったユーミンのダミ声でも、このカバーだけは絶対に不可能。



薬師丸ひろ子だからこそ、歌いこなせる楽曲なのである。




そして、あれから、数十年以上経った今でも、当時と同じキーで歌い上げている彼女の歌唱力は驚異的。


たまにテレビで観ても、スンナリ聞き惚れてしまうくらいだ。



DVDには(レンタルでも)、本編の映画の他にもメイキングや、何と、薬師丸本人の歌唱シーンもあって、超贅沢な気分を味わえる事請け合い。


是非、是非、観るべしである。

星☆☆☆☆☆。