1958年 イギリス。
『ハマー・フィルム・プロダクション』といえば、戦後、クラシック・ホラー映画を専門にやってきた名門中の名門。
『フランケンシュタイン』シリーズ、
『ミイラ』シリーズ。
そして、この『吸血鬼ドラキュラ』に始まる『ドラキュラ』シリーズ。
実は白状すると、この手の映画は自分にとって大の苦手なジャンルだし、観る前から相当馬鹿にしていた。
それでも、名優クリストファー・リーの出世作となる、この映画を「1度は観ておかなければ」と思った次第なのだが………
1885年、『ジョナサン・ハーカー』は司書としてドラキュラ城にやってきた。(本当の目的はドラキュラ退治。たった一人で?大丈夫なのか?)
誰も人気がないドラキュラ城に、勝手に入って、用意されている食事に手をのばすハーカー。
「助けて!私を助けてちょうだい!」
そこへ、『ドラキュラ伯爵』(クリストファー・リー)が来ると、女は血相をかえて逃げていく。
「ようこそ、ハーカー君。部屋は用意出来ているよ」
伯爵はハーカーを部屋に案内すると「ガチャリ!」、外の廊下から鍵をかけた。
やがて、数時間が経ち、またもや外から鍵を回す音。
(開いてるのか?)
ハーカーが廊下を出て階段を降りると、さっきの女が、また出てきた。
「助けて!私を助けてちょうだい!」
そう言うと、女はハーカーにしがみついてきたのだ。
だが、その口元には 吸血鬼の恐ろしい牙が!
女はハーカーの喉元に噛みついた。
「しまった!この女も、すでに吸血鬼だったのか!私もこのままでは吸血鬼にされてしまう!」(何故?助けを求めながらも吸血鬼にしてしまうんだろうね?)
ハーカーは気を失った。
女の方は伯爵が抱えて、どこかへと連れていったようだ。
そうして数時間が経ち、意識を取り戻したハーカー。
(何としても、私が完全に吸血鬼になってしまう前に、伯爵とあの女を退治しなくては ……… )
朦朧としながらも、地下室にある棺を、やっと探し当てたハーカー。
棺は二つあり、ドラキュラ伯爵と女が、それぞれに眠っている。
ハーカーはまず、女の胸元に杭を押し当てると、それをトンカチで思いっきり叩いた。
「ギャアアアーー!」
響き渡る断末魔の悲鳴。
女の容貌は無惨なものになり、朽ち果てて灰となり絶命した。
(次は伯爵だ!)
だが、さっきまで棺の中にいた伯爵がいない。
振り向くと、地下の階段に上に立っているドラキュラ伯爵。
伯爵の目がキラリと光ったかと思うと、地下室の灯りは一瞬で消されて、辺りは暗闇に包まれたのだった ………
それから数日が経ち、ハーカーの親友で医者の『ヴァン・ヘルシング』(ピーター・カッシング)は、親友から何の連絡も来ない事を心配して、近くの村までやってきた。
村では、家々にニンニクを吊り下げている。
ヘルシングがハーカーの事を尋ねてみても、皆が知らぬ存ぜぬ。
たった一人、ハーカーの事を知っていた女性が、ヘルシングにドラキュラ城への道のりを教えてくれた。
そうして、しばらく歩いていくと、目の間に見えてきたドラキュラ城。
ヘルシングは臆することなく門をくぐって、ズンズン先に進んでいく。(誰でも出入り自由。セキュリティはガバガバなドラキュラ城(笑))
そうして、あの地下室への階段を見つけたのだ。
地下にたどり着き、例の棺も見つけたヘルシング。そのフタを開けてみると …………
そこには吸血鬼の牙をのぞかせている親友ハーカーが安らかに眠っていたのだった ……
……… と、あらすじはここまで。
この後はお察しのとおり、
ドラキュラ伯爵とヴァン・ヘルシング医師の一騎打ちになっていくのだが、「んん?」、「う〜ん …… 」なんて、首をひねりたくなるような荒唐無稽な展開が、「これでもか!これでもか!」という具合に繰り広げられていく。
でも、全然、怖くないんだけどさ。(あっ、言っちゃった!(笑))
この映画から半世紀以上が経って、もはや色々なホラー映画を観てきて、すっかり肥えた目をもつ現代の我々には、全く怖さなんて感じない。
昭和、平成が終わり、令和となった時代に、これに驚いて泣き叫ぶのは3~5歳児くらいのものだろう。
でも、当時は暗い映画館で、これに、「ギャアアアー!」だの「ワァーッ!」だの悲鳴をあげながら観ていたのだから、何て純朴な青年たちや淑女たちだったんだろう。
それだからこそ、この映画は大ヒットしたし、次々と続編が作られたのだ。(なんと9作もあるらしい)
第1作目が、この『吸血鬼ドラキュラ』。
『吸血鬼ドラキュラの花嫁』(1960年)、
『凶人ドラキュラ』(1966年)、
『帰ってきたドラキュラ』(1968年)、
( 段々とおかしくなってきたぞ …………… )
『ドラキュラ血の味』(1969年)、
『血のエクソシズム ドラキュラの復活』(1970年)、
『ドラキュラ´72』(1972年)、
『新ドラキュラ 悪魔の儀式』(1973年)、
そして、最後、9作目は、なんと!
『ドラゴン VS 7人の吸血鬼』(1974年)でトドメ。
最後の映画なんて、ドラキュラが中国に渡って、カンフー使いと闘うというのだから、もはや、完全にホラーじゃなくなってる(笑)。
主演を務めたクリストファー・リーもここまで、本当に御苦労様でした。
姿かたちの異形で怖がらせようとする恐怖って、所詮、時間の流れには勝てないのだ。
フランケンシュタインでも、ミイラでも、ドラキュラでも、エイリアンでも、フレディーでも、ジェイソンでも 怖いのは最初だけ。
最初だけは驚いても、時間が経って繰り返し観ていれば、人は慣れてくる。
ホラー映画は時の流れには勝てない難しいジャンルなのだ。
どんなホラーでも、シリーズを長く続けていけばいくほど、行き着く先は《お笑い》になってしまう。
この『吸血鬼ドラキュラ』でも、ホラー映画の哀しい性(さが)を見た気がしてならないのでした。