1961年 イギリス。
この顔………何かを見て恐怖して叫んでいるような『顔』。
ふと、何かの検索をしていた時、偶然、このインパクトのある『顔』に遭遇したのだ。
調べてみると、『恐怖』という、いかにもなタイトルの映画らしいのだが、こんな映画がある事さえ自分は知らなかった。
叫んでいるのは『スーザン・ストラスバーグ』という女優さん。(この人の存在も全く知らなかった)
この叫び顔、まるで往年の楳図かずお先生が漫画の扉絵にでも描きそうな『顔』である。
ホラーなんだろうか?
何かが自分のアンテナに、ビビッ!と引っかかった。
そして、観ることができた。(知人N氏のおかげで。いつもいつもありがとう。この場を借りて)
そうして、観た感想………
こりゃ、傑作だ!!
冒頭、船頭と警察が広大な湖の真ん中まで舟を漕いでいて、何やら水の中を散策している。
そして………
「あったぞ!」
警察官は、水の中から女性の遺体を引き揚げた。
場面は変わって空港。
『ペニー』(スーザン・ストラスバーグ)は10年ぶりにフランスはリビエラに帰国した。
10年前に両親が離婚すると、ペニーの人生は、もう踏んだり蹴ったり。
母親は亡くなり、自身も9年前に落馬による事故で下半身麻痺。
ずっとイタリアで、仲の良い世話係の看護師マギーと暮らしていたが、その看護師も亡くなってしまったという。
そんなペニーに、1通の手紙が届く。
「フランスで一緒に暮らさないか?」と。
差出人は父親からで、既に再婚していた。
車椅子のペニーは、こうしてフランスに帰ってきたのだ。
空港に着いたペニーを出迎えてくれたのは、運転手の『ロバート』(ロナルド・ルイス)だった。
「父は来ないの?」
「あいにく出張中です」
力のあるロバートは、ペニーを軽々と抱き抱えると、車に乗せて、自宅の屋敷を目指した。
しばらくすると、車は、海が見える断崖のクネクネした道路を走りぬけ、その上には広大な屋敷が見えてきた。
資産家らしく、広い庭には、近くに海があるにも関わらず、プールまで備え付けられている。
ペニーを玄関で出迎えてくれたのは、初めて見る義母の『ジェーン』(アン・トッド)だった。
「ようこそ、ペニー。歓迎するわ」
ジェーンは明るくペニーを部屋に招き入れた。
「父はいないの?」
「あいにく、仕事でね。止めたんだけど」
「10年ぶりなんですもの、父の顔もうら覚えなのよ」
「安心して」ジェーンは、そう言うとペニーのベッドサイドに立て掛けてある写真を差し出した。
(これが、父……)
深い皺の刻まれた顔……太い眉には威厳と厳しさが伺われる。
その夜、ジェーンと二人で寂しい夕食を済ませると、ペニーは自分の部屋で床についた。
だが、初めて寝る部屋は居心地が悪く、外のコオロギが鳴く声もうるさく響き、中々眠りに引き込まれない。
しょうがなく起き上がって、自力で何とか車椅子に座ったペニー。
ふと、窓の外を見ると、真向かいの納屋に明かりが灯っている。
(何かしら……誰かいるの?)
外に出て、車椅子を滑らせながら、ペニーはプールのそばを通って、納屋まで近づいた。
納屋のドアは開いていて、中には骨董品やガラクタが散乱している。
そこには、中央に蝋燭の明かりが灯されていて、暗闇の影を不安定に揺らしている。
その真ん中に椅子があり、誰かが腰掛けているようだ。
「誰?誰かいるの?」
たまらず、ペニーが呼び掛けると、明かりは、その人物をとらえた。
そこには、
「キャアアアーーーッ!!」
ペニーは屋敷中に響くような絶叫をあげた。(この『顔』のスチール写真だったのね)
ペニーは車椅子を反転させると、急いで納屋を後にして、自分の部屋に戻ろうと、必死に車輪を漕いだ。
だが、車椅子はバランスを崩して、そのまま近くのプールにドボン!
「た、助けて………」
水の中で、もがき苦しみながら、ペニーの意識はなくなっていった………。
しばらくすると、ペニーは自分のベッドの上で意識を取り戻した。
そばには、ジェーンと、すぐさま駆けつけてくれた医者の『ジェラード』(クリストファー・リー)の姿がある。
「お父様が、………お父様が納屋で死んでいたのよ!!」
「そんな馬鹿な!出張中なのよ」唖然とするジェーンに、ペニーはなおも叫び続ける。
「君はきっと幻覚を見たんだろう、納屋には何もないし、ロバートが君をプールから引き揚げてくれたんだよ」
ジェラード医師は、いさめるようにペニーに言い聞かせるが、ペニーはまるで納得しない。
仕方なく、ペニーを納屋に連れていくと、中にはガラクタや骨董品が転がっているだけで、さっき見た父親の遺体は無くなっていた。
(ウソよ………確かにこの目で見たのに………)
「これで納得したかね?君は疲れているんだ」
スゴスゴ、自分の部屋に帰ってくると、ペニーはジェラードの処方した薬を飲んで深い眠りに落ちていった。
明くる日になると、昨日の出来事は、益々自信がなくなってくる。
(本当に幻覚を見たのかしら………)
不安そうなペニーの様子………だが、これは、まだまだ『恐怖』への入り口に他ならないのだった…………。
良くできた脚本に独特なカメラ・アングル。
主演のスーザン・ストラスバーグの可憐さ。
不気味な屋敷の雰囲気と、そこに登場する一癖も二癖もあるような人物たち。
二転三転するどんでん返し。(これが本当に凄い)
やっぱり自分の予感は当たった!
超、面白かった!!
面白かったし、久々に観た良質なサスペンス映画の傑作じゃないか、これ!
何で、この映画が、今の今まで評価されなかったのか不思議だし、謎である。
どんでん返しモノでは、あのビリー・ワイルダーの『情婦』もあるが、それにも、全くひけをとらないほど。
そのくらい見終わって感心してしまった。(ここでネタバレできないのが、ウ~ン、悔しい。とにかく初めて観る人は、超ラッキーな映画である!)
監督の『セス・ホルト』は、他にも、べティ・ディヴィス主演で『妖婆の家』(スゲェ~、タイトル)の映画も撮っているらしいが、そちらも是非観てみたいと思ったほどである。
何だか、金鉱でも堀り当てたような気分にさせられる………近年観ることができた映画でも、稀な傑作である。
さぁ、本当に父親の遺体はあるのか、それとも、ただの幻覚なのか………
《誰かが嘘をついている? 》
《いったい誰を信用すればいいのか?!》
どこに行くにも車椅子のペニー。
思うようにいかない身体のペニーの気持ちになって、終始ハラハラドキドキ。
これは死ぬまでに、必ず観てほしいほどの超オススメ映画である。
文句無しの星☆☆☆☆☆。