1957年 アメリカ。
『アリアーヌ』(オードリー・ヘプバーン)は、フランスの国立音楽院でチェロを学ぶ音楽院生。
父親『クロード・シャヴァス』は、パリで探偵事務所を構えている。
父と娘の二人暮らしで、アリアーヌの楽しみは、父親の事件ファイルをこっそり覗く事。
父親のシャヴァスには、「私の事件を見てはいかん!」ときつく言われているが、アリアーヌには、それがたまらなく刺激的。
(だって、ロマンティックなんですもん)ってな具合。
父親の依頼人『X氏』が、妻の不倫相手の調査結果を知るためにやってくると、アリアーヌは隣の部屋で興味津々、聞き耳をたてていた。
「奥さまは、スイーツの14号室で、不倫してますな。お相手はアメリカ人の大富豪フラナガン氏」
X氏はカンカンになって、ポケットから取り出したピストルに、弾をつめこみはじめた。
「アイツをぶっ殺してやる!」
鼻息荒く出ていくX氏。
それを聞いていたアリアーヌは、「大変!何とかしなくちゃ!」とホテルに急いで先回り。
フラナガン氏とX夫人に出会うと、
「急いで逃げて!旦那さんがピストルを持ってやってくるわ!」と夫人を逃がした。
代わりに、アリアーヌは黒いヴェールを被ってフラナガンの相手を演じていると、そこへX氏。
自分の妻じゃない女性、アリアーヌの姿に、「こりゃ、失礼しました」と、慌てて退散していった。
「フゥ~、君のおかげで助かったよ」
お礼を言う『フラナガン』(ゲーリー・クーパー)に、アリアーヌはうっとり。
(この人、父の隠し撮りした写真よりも、実物はもっとハンサムだわ……)
たちまち、メロメロになるアリアーヌ。(中年の色気ってやつですか)
「こうなったら、プレイボーイのフラナガンを自分に惚れさせたい!」、と願うアリアーヌは、父親の事件ファイルの色恋沙汰の知識をフル活用して、フラナガンの前で、プレイガールを演じるのだが………。
オードリー・ヘプバーンとゲーリー・クーパーのロマンティック・コメディー。
監督は、もちろん、ビリー・ワイルダー。
この『フラナガン』役、最初はケーリー・グラントやユル・ブリンナーに打診があったらしいが、自分としては、このゲーリー・クーパーで良かった気がする。
ケーリー・グラントが、プレイボーイの役なら、それなりに、そつなくこなしそうであるが、そこまで小娘のオードリーにのめり込む感じがしない。(まぁ、後年、『シャレード』で共演してますがね)
ユル・ブリンナー?何だか気難しそうで、全然プレイボーイってイメージじゃないのだが………ユル・ブリンナーなら、オードリーもビクビクして気後れしそう。
やっぱり、この映画には、ゲーリー・クーパーで、ちょうどいいのだ。
ゲーリー・クーパーなら、プレイボーイを演じていても、1度好きになったら、一途にまっしぐら、って感じがする。(映画『モロッコ』でも、そんな感じをうけたので)
初めは、プレイボーイ然として、恋のさや当てゲームの感覚だったフラナガンは、まんまとアリアーヌの策略にハマって、どんどん、この小娘アリアーヌにのめり込んでいく。
「その脚にはめているのは何だ?」
昼下がり、アリアーヌとピクニックをしているフラナガンは、アリアーヌの脚にキラリ!と光るアンクレットを目にしてたまげる。
「あ~、これ?スペインの闘牛士からのプレゼントかしら?」
こんな物を目にしたフラナガン氏、中年男の嫉妬がメラメラ。
全てを語らずに、秘密の香りを匂わせるアリアーヌにいつしか夢中になっていた。
(これじゃ、身がもたん!彼女はいったい、どこの誰なんだ?彼女の全てが知りたい!)
フラナガン氏が身元調査を頼んだのは、なんと、父親のシャヴァス氏。
シャヴァスは、娘の行動に唖然として、フラナガンに全てを打ち明けた。
そして、
「ここを立ち去ってください。彼女はプレイガールでも何でもない。それは私が事件で扱った知識をあなたに対して利用しただけだ。そして、彼女は本気であなたに恋している。それは生まれてはじめての『恋』なのだ。娘を傷つけないで、黙ってここを立ち去ってください。」
フラナガンは無言で同意した。
そして、別れの時。
「駅まで見送るわ」と言うアリアーヌ。
列車が動きだしても、ここを立ち去れないアリアーヌは、走りながらも、まだ懸命に嘘のプレイガールの話をする。
「私は平気よ、また忙しくなるわ。別な彼が、また誘ってくれるから」
涙目で、嘘を言いながら列車を追いかけてくるアリアーヌ。
そんなアリアーヌから、フラナガンは、片時も目が離せない。
まるで心臓をキュッ!と掴まれた感じ。
無意識に手を伸ばすと、アリアーヌを引き上げて、列車に乗せてしまったフラナガン。
「どうするつもり?」
「もう、黙ってくれ。アリアーヌ……」
列車は、幸せな二人を乗せて去っていく………。
まるで、恋愛指南の教科書のような映画である。
初めは、相手に対して、どう興味を持ってもらえるか。
それに成功したら、どれだけ興味を繋ぎ止められるように、押したり引いたりの恋愛の駆け引き。
最後は、決して押し付けでない「好き」という気持ちの表現の仕方。
これさえ、出来ればあなたも明日から、『恋愛マスター』である。(でも現実は、こんな風にオードリーのように上手くいくか分からないが……)
オードリーが、今でも愛されるのは、全ての女性の夢、「こんな風になりたい!」という夢を映画の中で叶えているから。
そして、それは何十年、時代が移り変わっても決して色褪せない事はないのである。
星☆☆☆☆である。