1999年 アメリカ。
マフィアの首領『ミスターZ』のところから大金を盗んだ若いチンピラの青年、『レイモンド』。
追っ手の手下に追われながらも、必死で逃げきり、恋人の娼婦『アンバー』のいるアパートまで、何とかたどり着いた。
そこは、色々な事情を抱えた多様な人々が暮らす場所。
3階には、元刑事の『ウォルト』(ロバート・デ・ニーロ)が住んでいる。
昼間は、町中で友人とスカッシュで汗を流し、夜はダンスホールでタンゴを踊る。(イキな趣味)
そんなウォルトが自分の部屋に帰って来ると、今日も斜め上の5階からは、また、《アイツら》の歌声が。
「うるせぇーぞ!窓を閉めて歌いやがれ!このオカマ野郎!!」
奇抜な格好をしたドラッグ・クイーンたちが大声でステージの練習の為に歌っているのだ。
「なにさ!そっちこそ窓を閉めなさいよ!」太ったドラッグ・クイーン、『ラスティー』(フィリップ・シーモア・ホフマン)がウォルトめがけて叫ぶ。
「黙れ!貴様もゲイもくそくらえだ!」
「そっちこそ、くそくらえよ!!」
こんな応酬が毎日続く。
そんなアパートに夜半、銃声がこだました。
ミスターZの手下たちが、とうとう、レイモンドとアンバーを探しだして、襲ってきたのだ。
「金はどこにある?!」
二人は頑として口を割らずに、手下共に殺された。
そんな銃声を聞いて、元刑事のウォルトは銃を片手に階段をのぼって駆けつけようとするのだが、………何故か?フラフラして足に力が入らずに、そのまま崩れ倒れた。
(おかしい……いったいどうしたんだ……お、俺は………)
警察が駆けつけて、レイモンドとアンバーの死体を発見すると、階段下で倒れているウォルトにも気がついた。
ウォルトは、そのまま救急車へ。
気がつくと、病院のベッドの上だった。
うっすら、目を開くと医者と刑事の姿が。
「ウォルトさん、あなたは脳卒中をおこしたんです。右半身に少しばかり麻痺が残りました」
ウォルトは絶望する。
杖をつき、言葉も上手く出てこない。
あんなに楽しかったスカッシュやタンゴも踊れない。
「う、う、う………」ウォルトは一人涙する。(可哀想なデ・ニーロに観ているこちらもウルウル)
一方、アンバーの親友ラスティーも落ち込んでいた。
殺されたアンバーの遺灰を持ち帰って、トボトボ帰宅すると、あのミスターZの手下たちが待ち構えていた。
「おい!金が見つからないぞ!お前がアンバーから預かっているんだろう?!」
「そんなもの、知らないわよ!」
手下は大事そうに持っているラスティーの箱に目をつけて、「その箱は何だ!よこせ!」と奪った。
「アンバーの遺灰よ!」
「ウェッ!気持ち悪りぃ~」
「しばらく見張っているからな!覚えていろよ!」手下は遺灰を投げ捨てて出ていった。
「あたしのケツでも見張ってなさいよ!」
ラスティーは、暗い部屋で遺灰を集めると蝋燭を立てて、アンバーを弔った。
そして、数日がたち、アパートに閉じ籠って出てこないウォルトを心配して、病院から親切な医者が訪ねてきた。
「ウォルトさん、ちゃんとリハビリすれば回復するし、気持ちも明るくなるのよ。病院に来るのが嫌ならリハビリ要員に来てもらう事も出来るんですよ」
ウォルトは無言だ。そんな声を窓からラスティーが偶然聞いていた。
こんな不具な体のウォルトだが、とにかく毎日の日常の事は自分でこなさなくてはならない。
だが、とにもかくにも、やはり上手くいかず、洗濯しようとするもランドリーの前で倒れこんでしまう。
そこへ通りかかったラスティー。
「まぁ、ウォルト大丈夫?手を貸すわ」と、ラスティーが起こそうとするも、その手を払いのける。
「フガ、フガ……、あっちに行け!、近寄るな!フガ……、オ、オカマ野郎ぉ~!」
こんな体になっても我の強いウォルトに、ラスティーも、ついにカチン!
「なにさ!触ればゲイが移るとでも思っているの?この石頭!」
やはり、会えばこの繰り返しである。
だが、次の日、ラスティーの部屋をノックするウォルトがいた。
昨日の出来事にウンザリしているラスティーは無愛想に、「何の用なの?」とつっけんどん。
「歌のレッスンをしてくれ、……フガ、フガ……か、金は払う」ウォルトの申し出にラスティーは、一瞬ポカ~ン顔。
「あんたに教えるくらいならヒトラーにフェラした方がマシよ」
ラスティーは無情にもドアを閉めたが、諦めてトボトボと、頼りない杖をついて帰っていくウォルトの後ろ姿に、なぜか後ろ髪をひかれて……
「お、お金をくれるなら明日、レッスンするわ!」と、つい声をかけてしまった。
(そうよ!ラスティー、私は『奇跡の人』のアン・バンクラフトのように、彼を救うのよ……)
そう言い聞かせるラスティー。
かくして、ドラッグ・クイーン、ラスティーを先生に、ウォルトの歌のレッスン(リハビリ)が始まるのである ………
名優ロバート・デ・ニーロと演技派フィリップ・シーモア・ホフマンの丁々発止のハート・ウォーミング・アクション・コメディーである。
介護人と患者の人種を越えた友情を描いた『最強のふたり』を以前、ここでも取り上げたが、こちらは、同じような主題でも性差別の壁。
そして、自分の感想としては、こちらの方が「断然、面白い!」と、軍配をあげたい。
デ・ニーロは流石で名演技。
ラスティーでなくても、このデニーロの演技には、観ているこちらも「助けてやりたい、何とかしてやりたい」と思ってしまう。
石頭で偏見の塊。素直じゃなくてへそ曲がり。
でも、寂しがりやなのに、それを気持ちに上手く表せない。
そんな複雑なウォルトを、上手く演じている。
そんなデ・ニーロに対するラスティー役のフィリップ・シーモア・ホフマンも負けてはいない。
普段は口八丁でも、オカマさんの悲哀が充分伝わってくる。(そして極度のお節介やき)
もう、とにかく、この二人のやり取りが楽しい。
「このオカマ野郎!」
「なにさ!威張りん棒!でくのぼう!」
レッスン中も喧嘩したり、なだめたり、また、喧嘩したりの繰り返し。
それと、消えた『金』はどこにあるのか?の謎と平行して物語は進んでいく。
残念ながら、興行的には、この映画、成功しなかったらしいが、私は俄然評価したい。
こちらを観ると、『最強のふたり』なんかよりも、ずっと楽しめるはずだ。
レンタル店の棚から偶然、見つけた1本だったが、こちらも「ビビッ!」と何かの感がはたらいた。
星☆☆☆☆である。
※映画好きには、ラスティーが、色々な場面で、独り言のようにつぶやく映画の数々に、きっとニンヤリするはずである。