2018年 アメリカ。
時は1969年……
ネバダ州とカリフォルニア州の境界線をまたぐように、平屋のコテージを繋げて建てられた不思議なホテル、《エルロワイヤル》。
一台の車が駐車場に停まると、そこからは、黒人の女性『ダーリーン』(シンシア・エリヴォ)が降りてきた。
大きな荷物を抱えて歩くダーリーンの目の前には、年老いた神父の姿が見えた。
「どうしたんですか?道にでも迷ったの?」
ダーリーンが声をかけると、神父の『ダニエル・フリン』(ジェフ・ブリッジス)は、振り返り、にこやかに笑った。
「いや、迷ってないよ。ところで、こっちはネバダだ、何だか雨が降りそうだな。そっちのカリフォルニアはどうだい?」
「カリフォルニアはまだ晴れているわ」
すぐそばで、向かい合わせに立った二人。
その間を境界線の赤い線が、延々、伸びるように引いてあるのだ。
ダーリーンもフリン神父も、何だかおかしくなって、お互いに笑いあった。
二人がホテルに入っていくと、玄関の中までも、ネバダとカリフォルニアを分ける線は続いている。
ホールに人の姿はない。
その時、バーのカウンター下から一人の男が立ち上がった。
「私が一番乗りだ!」
セールスマンを名乗る『ララミー』(ジョン・ハム)は、客として来ているのに、無人のホールをいいことに、勝手にコーヒーを淹れてフリン神父とダーリーンに強引に押し付けた。
どこか調子のよさそうなララミーは、一人でベラベラと喋りまくっている。
ダーリーンは無視して、フロント室のドアを叩いた。
フロント室から、制服を慌てて着込みながら、若い男が飛び出てきた。
「も、申し訳ございません…」
ちょっとオドオドした、その男は『マイルズ・ミラー』(ルイス・プルマン)。
このホテルには、このマイルズしかいないのだ。
清掃もフロント係も、全てこのマイルズがひとりで請け負っている。(食事はサンドイッチなどの自販機が備え付けられている)
「あ、あの、その、チェックインのサインを……」
相変わらず、オドオドした様子で宿帳を取り出すマイルズに、ダーリーンはサインした。
「1号室は私だぞ!私が一番乗りだったんだからな!」とララミーが、遠くで叫んでいる。
しばらく悩んだダーリーンは、「いいわ、私は5号室でも…」と選んだ。
フリン神父には4号室を。
その後、また別の客が玄関ホールに、ズカズカ入ってきた。
若いサングラスをかけた女だ。
女はララミーをチラッと見ると、フロントのマイルズのそばまで一目散にやって来た。
「チェックインをお願い」
すると、また遠くで「1号室は私だぞ!」とララミーのウザイ声が響き渡った。
「じゃ、壁沿いの部屋ならどこでもいいわよ」
女『エミリー』(ダコタ・ジョンソン)は、宿帳には、サラサラと「クソッタレ!」とだけ書きなぐった。
全員がチェックインを済ませ、各部屋へと引き上げていく。
外は暗雲がせまり、ポツリポツリと降りだした雨は、やがて勢いを増していく。
州の境界線の間に建つ閑散としたホテルには、こんな風に客がやってくるのも、稀なのに今日に限ってはどうしたことか。
いきなりの続々の来訪者たち。
だが、彼らの抱えている事情は複雑で、やがて《エルロワイヤル》では、惨劇の夜がはじまるのである………。
年齢も素性も違う人々が集まり事件が起こる……この手の映画を久しぶりに見かけると、おおいに期待してしまう。
そして自分は気に入った。
中々、面白いじゃないですか。
ジェフ・ブリッジスは老いても、尚もいい味をだしているし、他にも感心したのは無名の俳優たち。
黒人女性ダーリーンを演じるシンシア・エリヴォ。
ダーリーンの職業が歌手なので、当たり前の事なのだが、歌が強烈にウマイ!
透き通るような歌声。
そして、この人の、何だかずっと潤んだ瞳で、半分泣きだしそうな……自信なさげな雰囲気は何なんだろう………。
とにかく、近年の荒々しく闘う勇ましい、常に男と張り合ってばかりいるハリウッド女性とは正反対。
真逆のキャラクターで印象に残ってしまった。
シンシア・エリヴォ………忘れないで覚えておこうと思う。
それと、フロント係のマイルズ・ミラー役のルイス・プルマンもだ。
この人のオドオドした演技も堂にいっているが、でも後半で………おっと!、これも詳しくは語ってしまいたくはない。
とにかく、この人の演技も印象的だった。
ルイス・プルマンは、この後、あの『トップガン2』の出演が控えているらしい。
この人も、今後注目の若手になるに違いないだろう。
ホテルにそれぞれ集まった人々も魅力的だが、謎のカラクリ通路なんてのもあって、それだけでワクワクする。
そんな中に、新たにやってくる粗暴な男……『ビリー』(クリス・ヘムズワース)。(こっからが怒濤の展開が待ち受ける)
142分は、長いかなぁ~と思っていたが、そんな事、気にならないくらいだった。
近年のハリウッド映画にしては、珍しく及第点を越えたかな。
星☆☆☆。
※監督は、ドリューゴダードという人。この映画では、監督はもとより制作と脚本も手がけている天才肌。
そして、このゴダードは、J・J・エイブラムスの下で、テレビシリーズ『エイリアス』や『LOST』の脚本も書いていたのだ。
………どうりでお話がよくできてる。
脚本が書ける監督の映画は、「まず成功する」というのが、自分の考えである。
これからの活躍に、おおいに期待したい。