2019年7月12日金曜日

映画 「ホテル・エルロワイヤル」

2018年 アメリカ。






時は1969年……



ネバダ州とカリフォルニア州の境界線をまたぐように、平屋のコテージを繋げて建てられた不思議なホテル、《エルロワイヤル》。



一台の車が駐車場に停まると、そこからは、黒人の女性『ダーリーン』(シンシア・エリヴォ)が降りてきた。


大きな荷物を抱えて歩くダーリーンの目の前には、年老いた神父の姿が見えた。



「どうしたんですか?道にでも迷ったの?」


ダーリーンが声をかけると、神父の『ダニエル・フリン』(ジェフ・ブリッジス)は、振り返り、にこやかに笑った。


「いや、迷ってないよ。ところで、こっちはネバダだ、何だか雨が降りそうだな。そっちのカリフォルニアはどうだい?」


「カリフォルニアはまだ晴れているわ」


すぐそばで、向かい合わせに立った二人。

その間を境界線の赤い線が、延々、伸びるように引いてあるのだ。



ダーリーンもフリン神父も、何だかおかしくなって、お互いに笑いあった。



二人がホテルに入っていくと、玄関の中までも、ネバダとカリフォルニアを分ける線は続いている。


ホールに人の姿はない。

その時、バーのカウンター下から一人の男が立ち上がった。


「私が一番乗りだ!」


セールスマンを名乗る『ララミー』(ジョン・ハム)は、客として来ているのに、無人のホールをいいことに、勝手にコーヒーを淹れてフリン神父とダーリーンに強引に押し付けた。


どこか調子のよさそうなララミーは、一人でベラベラと喋りまくっている。


ダーリーンは無視して、フロント室のドアを叩いた。


フロント室から、制服を慌てて着込みながら、若い男が飛び出てきた。


「も、申し訳ございません…」

ちょっとオドオドした、その男は『マイルズ・ミラー』(ルイス・プルマン)。



このホテルには、このマイルズしかいないのだ。


清掃もフロント係も、全てこのマイルズがひとりで請け負っている。(食事はサンドイッチなどの自販機が備え付けられている)


「あ、あの、その、チェックインのサインを……」

相変わらず、オドオドした様子で宿帳を取り出すマイルズに、ダーリーンはサインした。


「1号室は私だぞ!私が一番乗りだったんだからな!」とララミーが、遠くで叫んでいる。


しばらく悩んだダーリーンは、「いいわ、私は5号室でも…」と選んだ。

フリン神父には4号室を。




その後、また別の客が玄関ホールに、ズカズカ入ってきた。

若いサングラスをかけた女だ。

女はララミーをチラッと見ると、フロントのマイルズのそばまで一目散にやって来た。


「チェックインをお願い」


すると、また遠くで「1号室は私だぞ!」とララミーのウザイ声が響き渡った。


「じゃ、壁沿いの部屋ならどこでもいいわよ」


女『エミリー』(ダコタ・ジョンソン)は、宿帳には、サラサラと「クソッタレ!」とだけ書きなぐった。




全員がチェックインを済ませ、各部屋へと引き上げていく。


外は暗雲がせまり、ポツリポツリと降りだした雨は、やがて勢いを増していく。


州の境界線の間に建つ閑散としたホテルには、こんな風に客がやってくるのも、稀なのに今日に限ってはどうしたことか。


いきなりの続々の来訪者たち。


だが、彼らの抱えている事情は複雑で、やがて《エルロワイヤル》では、惨劇の夜がはじまるのである………。





年齢も素性も違う人々が集まり事件が起こる……この手の映画を久しぶりに見かけると、おおいに期待してしまう。



そして自分は気に入った。

中々、面白いじゃないですか。



ジェフ・ブリッジスは老いても、尚もいい味をだしているし、他にも感心したのは無名の俳優たち。




黒人女性ダーリーンを演じるシンシア・エリヴォ


ダーリーンの職業が歌手なので、当たり前の事なのだが、歌が強烈にウマイ!



透き通るような歌声。


そして、この人の、何だかずっと潤んだ瞳で、半分泣きだしそうな……自信なさげな雰囲気は何なんだろう………。



とにかく、近年の荒々しく闘う勇ましい、常に男と張り合ってばかりいるハリウッド女性とは正反対。


真逆のキャラクターで印象に残ってしまった。


シンシア・エリヴォ………忘れないで覚えておこうと思う。




それと、フロント係のマイルズ・ミラー役のルイス・プルマンもだ。


この人のオドオドした演技も堂にいっているが、でも後半で………おっと!、これも詳しくは語ってしまいたくはない。


とにかく、この人の演技も印象的だった。

ルイス・プルマンは、この後、あの『トップガン2』の出演が控えているらしい。


この人も、今後注目の若手になるに違いないだろう。




ホテルにそれぞれ集まった人々も魅力的だが、謎のカラクリ通路なんてのもあって、それだけでワクワクする。



そんな中に、新たにやってくる粗暴な男……『ビリー』(クリス・ヘムズワース)。(こっからが怒濤の展開が待ち受ける)




142分は、長いかなぁ~と思っていたが、そんな事、気にならないくらいだった。



近年のハリウッド映画にしては、珍しく及第点を越えたかな。


星☆☆☆。


※監督は、ドリューゴダードという人。この映画では、監督はもとより制作と脚本も手がけている天才肌。

そして、このゴダードは、J・J・エイブラムスの下で、テレビシリーズ『エイリアス』や『LOST』の脚本も書いていたのだ。


………どうりでお話がよくできてる。


脚本が書ける監督の映画は、「まず成功する」というのが、自分の考えである。

これからの活躍に、おおいに期待したい。