1986年 4月~10月。
「あ~あ、鳥になりてぇ~なぁ~ ………」
『橘りん』(斉藤由貴)は、福島県、相馬の空を見上げながら、ふと言葉を発した。
時は、明治23年。
『りん』は、厳格な父『弘次郎』(小林稔侍)と呑気で気立ての良い母『八重』(樹木希林)や妹の『みつ』。
父方の祖父母と暮らしていた。(兄の『嘉助』(柳沢慎吾)もいるのだが、家を飛び出していて、たまに帰ってくるような放蕩暮らし)
年が明ければ、『りん』には許嫁との結婚が待っている。
(このまま、私、本当にお嫁に行ってしまってもいいの……?)
父親同士が決めた結婚話は、トントン拍子に進んでいく中、漠然とした不安を抱える『りん』。
そんな折、女学校で教師をしている『松浪毅(たけし)』(沢田研二)と偶然知り合ってしまう。
「女性だって、これからの時代は勉強したり、学問を学ぶ自由がある!女性だって、色んな可能性があり、仕事だって、なんだって出来る!」
ガーン!
松浪の言葉は、時代錯誤の父親に育てられてきた『りん』にとっては、目から鱗。
まるで、天地がひっくり返るほどの大ショックだった。
オマケに、この松浪先生が超イケメン(この時のジュリーが、壮絶カッコイイのだ)
「松浪先生~♥」なんて言いながら、『りん』も明らかにホの字。
こうなりゃ、決めた!あたし女学校に行く!と決心した『りん』。
「母ちゃん、あたし女学校に行きたいの!」
「女学校さ、行って何するの?」と飄々とした『八重』に、
「もちろん勉強したいのよ!」(本当は好きな松浪先生の側にいたいんだけどね)
じい様もばあ様も、「おりんがここまで言うのなら、………」と、りんの味方ムード。(このお姑さんたち、二人は本当に人間が出来てる人たちだった)
だが、案の定、厳格な父親、『弘次郎』は大反対!
「おなごは、親の言う事をきいて嫁にいけばいいんだ!」の一点張り。
でも、『りん』も負けてはいない。
土壇場の土壇場で、
「あたし、やっぱり嫁っ子さ、行きたくない!女学校に行きたいんだ!」と先方がいる前で啖呵をきってしまう。
自分の面子を潰されて、ワナワナ、怒りに震える『弘次郎』は、とうとう日本刀まで抜き、『りん』に突きつけるも、
「おとっちぁん!!」と叫び、庇いだてする八重に、なんとか正気を取り戻し、とうとう根負け。
先方に頭を下げて、「勘当!」を宣言した。
そうして、『りん』は晴れて、憧れの松浪先生のいる女学校で奨学生となり、新生活を迎えるのだが………。
斉藤由貴が出演した伝説の朝ドラ『はね駒』である。
当時、『スケバン刑事』の流れと、アイドルとして歌もヒットしていた斉藤由貴は絶好調。
そのまま朝ドラのヒロインの座を勝ち取った。(もう、まるで、全てがお膳立てされているかのように、スターダムの階段を、瞬く間に駆け上がる斉藤由貴)
向かうところ敵なしの完全無双状態である。
そして、驚くなかれ、この『はね駒』、なんと平均視聴率が 40 %以上!
最高視聴率は、49 %なんてのを叩き出しているのだ!!(紅白歌合戦以上の驚異的視聴率)
多分、自分の記憶が確かなら、朝ドラで40%を叩き出したのは、これが最後の作品だったと思う。
この時期になると、一般家庭にもビデオテープが完全に普及していて、録画して観る事が可能になっていた。
高校生だった自分は、学校から帰ってきては録画していたものを必ず観ていたっけ。(あの録画していたVHSどこにいったのだろう、引っ越しの時に紛失してしまったが……トホホ)
ただ、単に斉藤由貴見たさに、見始めた朝ドラだったのだが、他の共演者たちも魅力的で、ドンドン引きずり込まれるように観ていた。
父親役の小林稔侍なんて、この『はね駒』で、やっと認知されて演技派と認められたんじゃなかろうか。
それまで、コツコツと映画やドラマの端役ばかりをこなしていて、今、ひとつ芽が出なかった小林稔侍。
厳格な父親、弘次郎役は、冒頭こそ、怖い印象だが(なんせ、娘相手に日本刀抜くくらいですもん)、徐々に角がとれて温和になっていく。
後に、『りん』の勘当をとき、先方に頭を下げて「許してほしい」と頼み込む弘次郎。(やっぱ娘は可愛いのだ)
次女みつが農家に嫁いで、身体を悪くして亡くなった時は、自分が決めた縁談ゆえ、自分を責めて、自分の古い考えを改めようと悔恨する。
徐々に柔和になっていく弘次郎。
その心の変化を巧みに演じた小林稔侍にとって、この『はね駒』は、まさに役者としてのターニング・ポイントだったはずである。
それは他の共演者たちもしかりだ。
後に、『りん』と結婚する事になる『小野寺源三』を演じた渡辺謙も。
この役が好評で、翌年には、大河ドラマの『独眼竜政宗』の主役に大抜擢。
いまや、世界の『渡辺謙』として呼ばれているのも、この『はね駒』があればこそである。
そして、この『はね駒』で、一番の功労者だったのが元々、演技派だった樹木希林。
樹木希林に関しては、語ると長~くなりそうなので、取り合えず、今回はここまで。
ドラマ・レビューとしては、異例なのだが②へ続くとする。