2020年4月25日土曜日

映画 「ゆりかごを揺らす手」

1992年 アメリカ。





『クレア・バーテル』(アナベラ・シオラ)と『マイケル』、幼い娘『エマ』は郊外に、一軒家を持っていて、それなりに幸せな生活。



庭の柵を直しにきた『ソロモン』(体の大きな精神未発達な黒人。でも人は良い)は、障害者の社会復帰のために、バーテル家に雇われた。



「ぼ、ぼ、ぼ、………ぼく、一生懸命に、が、が、が、頑張ります!」(山下清かよ)



クレアは、二人目の子を妊娠していて、その安全の為の柵つくりだった。






そして、そんなクレアの診察日がやって来る。



「さあ、気を楽にしてくださいね」


前の診察医ではなく、初めて診察した『モット医師』は、クレアの身体を触りまくって、その反応を楽しんだ。(あきらかにセクハラ目的)



喘息の発作を抑えながら、やっと帰宅したクレアは、夫マイケルの前で泣きじゃくる。



「あの医者、変態よ!!」


「その医者を勇気をだして訴えるんだ!!」


マイケルの説得に、クレアは裁判をおこした。(この辺り、本当にアメリカらしい。何でもかんでも裁判沙汰である)





案の定、モット医師の被害者はクレアだけではなかった。


名乗りをあげた被害者は、次々と現れて、モットを訴えはじめた。




医師免許は剥奪されて、モットはピストル自殺。(自業自得)




だが、そんな変態モットには、同じように妊娠中の妻、『ペイトン・モット夫人』(レベッカ・デモーネイ)がいたのだ。




夫は自殺、家や財産は裁判の訴訟で全て取り上げられるとペイトンは大ショック。



子供は流産してしまい、子宮まで失う大手術で、もう、踏んだり蹴ったり。


(何で………私だけがこんな目にあうのよぉ~!………)



どこに持っていきようのない恨みに押し潰されそうになりながら、ベッドに横たわっていた。


そんなペイトンの目の前に、夫を訴えたクレアの姿がテレビ画面に映し出される。



(あの女が訴えたせいで、夫は自殺したんだ!………この怨み、はらさずにおくものかぁぁぁ~!)



同じように妊娠しているクレアは、今の自分とは真逆。

まるで幸せの絶頂そうだ。



異常な憎しみの炎を瞳に宿したペイトン。


ペイトンの復讐がはじまる………。





この映画も久しぶりに観た、カーティス・ハンソン監督(『激流』、『L.A.コンフィデンシャル』など)の傑作である。




これも、前回の『氷の微笑』と、同じ1992年公開作品。




セックス満載のポール・バーホーベン監督の『氷の微笑』とは、同じサイコ・サスペンスを扱っていても、まるで違う印象。




大味なコッテリ料理が『氷の微笑』なら、こちらの『ゆりかごを揺らす手』は、次々とゆっくり出されてくる、フランス料理のフルコースを味わうようである。



何もかもが緻密に計算されていて、細部まで気を配るような、見事な脚本と演出には、素直に「アッパレ!」と賞賛したい。






『ペイトン』(レベッカ・デモーネイ)が、ベビー・シッターとして潜り込んでからが、この映画の本領発揮。


優しさの陰に、憎悪を隠しながら、復讐は静かに、静かに、……………真綿で首を締めるように進まれていく。



「この幸せな家庭に、ちょっとの亀裂を作ってやればいい………そうすれば人は人を疑いはじめ、巨大な不信感になっていく…………」



人の心を操る術を、全て心得ているペイトン。



ペイトンの策略で、クレアは疑心暗鬼になりはじめ、まんまと孤立していく。(逆恨みもここまでいくと怖いねぇ~)




「なんでこうなるのよぉぉー!」( by クレア)





ともすれば、こんな不幸のデパートのペイトンに同情してしまいがちになるが、人の良い黒人『ソロモン』の存在が、ここでは活きている。



人の良いソロモンまでも、おとしめるような計画をたてるのだから、同情なんてものは、もはや無理。




「ソロモンの様子が変なんです。エマに接する態度が……」なんて、ペイトンが、コッソリと耳打ちすると、


「何ですって!」とクレアも簡単に逆上。




ソロモンを呼び出しては、「あなたには残念だけど辞めてもらうわ!」とピシャリ。



哀れ、ソロモンは、「ぼ、ぼ、ぼ、ぼくは何もしてません」と、言うばかりで弁解の言葉すら思いつかない。(可哀想に………心は純粋な子供そのモノなんですもんね。ペイトンに太刀打ちできるはずもない)





(フフッ………馬鹿な女。これからゆっくり苦しめてやるわ………)




声には出さなくても、こんな悪女ペイトンの心の声が聴こえてきそうである。




こんな復讐のためなら、どんな非情さも躊躇わないペイトン。




観客には、ペイトンへの多少の同情なんてものを、一切、許さない。




無名の俳優、女優たちを集めても、脚本と演出が優れていれば、映画は莫大な予算をかけなくても、こんなに素晴らしい映画になるというような、まるでお手本のような映画である。




観ていない人は、是非!観るべき。



オススメ!


星☆☆☆☆☆。

※あ、最近にしては真面目な批評を書いたみたい。(笑)