スッゴク良くできた映画である。
良くできた映画だと思ったら、またまた、監督は『ビリーワイルダー』でした。(この人は本当に凄い。コメディーでもサスペンスでも、何でもござれだ)
このオープニグから、もう惹き付けられる。
二つの松葉杖をついた男の影が、画面の遠くから、こちらに向けて迫ってくる。
何だ?
何かはじまったの?
かと思ったら、深夜の町中を猛スピードで駆けてゆく車。
車が停まると、出てきたのは保険外交員の『ウォルター・ネフ』(フレッド・マクマレイ)。
着いた場所は、彼が働いているビルのオフィスだった。
そうして、同僚のキーズが使っている録音機の前に座ると、ウォルターはひとり、話し始める。
それは罪の告白。
「殺したのは俺だ……」
いったい誰を殺したというのか?
時は、さかのぼっていく。
それは半年前の事………
保険外交員のウォルター・ネフは、顧客で抱えている実業家のディートリクソンを訪ねた。
期限が迫っている自動車保険の更新の為だったのだが、生憎本人は留守。
そうして、代わりに応対した妻はというと……。
美人、セクシーな色気妻『フィリス』(バーバラ・スタンウィック)。
ソファに腰掛けながら、組んでいる綺麗な足には、キラキラ光るアンクレットなんてのをはめている。
足フェチのウォルターには、もうたまらない刺激。
人妻だろうが、何だろうが、口説きにかかった。
でも妻フィリスも、まんざら悪い気もしないのか、妖しい笑みで誘いに乗ってきた。
でも、次第に表れてくるフィリスの本性。
「ねえ、主人の保険額を上げられないかしら?」(でたー!)
なんて提案をしてきたのだ。
そうして、ウォルターが身も心もフィリスに、ベタぼれになってくると、今だ!とばかりにフィリスは言い出した。
「主人を殺して保険金を奪いましょう!」と。
この映画が、後々、数多く作られる『保険金』を題材にした、映画やドラマの元祖なんだとか。
でも保険金をかけてから、直ぐ様殺せば、すぐに怪しまれるんじゃないのかねぇ~普通は(笑)。
こんなウォルターは、足を骨折した旦那のディートリクソンを、上手く列車に誘い込むと、最後尾から突き落として殺してしまう。
その後は、自分がディートリクソンのように振る舞いながら、松葉杖をついてアリバイ工作なんてことをしてしまうのだ。(冒頭の画像はソレだったのか)
完璧な計画。
警察さえも騙す事ができた。
誰も疑わない。 ただ一人を除いては……。
それは、同じ保険外交員でクレーム処理係の『キーズ』(エドワード・G・ロビンソン)である。
トラックの運転手が嘘の保険請求をしても一発で見破る、敏腕外交員なのだ。
「帰れ!保険なんか下りるか!」で一喝するキーズ。
そんなキーズは、当然、ディートリクソンの死にも疑問をもつ。
この映画の脚本に、あの『長いお別れ』や『さらば愛しき女よ』のレイモンド・チャンドラーが参加しているが、例によってケチョン、ケチョン。
「馬鹿馬鹿しい!くだらない!」
と、原作者を罵倒したり、ビリー・ワイルダーにも罵詈雑言だったらしい。(この人、ヒッチコックの『見知らぬ乗客』の時にも参加しているが、いつもこんな感じだ)
気難し屋ののハードボイルド作家。
当時、小説だけでは生活出来なくて、やむなく脚本も書いていたらしいが、どうも柄じゃない気がする。(どこでも、誰とでも揉めている)
でも、そんなチャンドラーが、馬鹿にする映画は、逆にヒットするんだけどね。(笑)
これが、文章を書く小説家と映像作家との、埋められないような感覚の違い?なんだろうか。
そのうち酒に溺れて、若くして亡くなってしまったチャンドラー。(あ~合掌)
ビリー・ワイルダーもアルフレッド・ヒッチコックも映画つくりを、充分楽しんでいた。
悩んで苦しみぬいて、やっと産まれた作品も良いモノはあるだろうが、物つくりを楽しむ事ができない人は、なんだか可哀想な人に見えてしまう。
我々、観る側は楽しみたい。
最後までハラハラ、ドキドキ。
観ていない方は、ワイルダーの手腕に、ただ身を委ねて、楽しんでほしいと思う。
星☆☆☆☆。