1993年 アメリカ。
母親を亡くしたばかりの幼い少年『マーク』(イライジャ・ウッド)。
そんなマークを心配する父親だが、出張で、どうしても東京に行かなければならない。
「しばらくの間、従兄弟の家で待っていてくれ」
父親の弟の家は、メイン州の雪深い田舎町。
でも、家族は暖かくマークを迎えてくれた。
「ようこそ、マーク!」
叔父のウォレスも、叔母のスーザンも優しそうな人だ。
側には小さな女の子コニーの姿もある。
一見、幸せそうに見える、この家庭だが、数年前に家族はリチャードという男の子を、不慮の事故で亡くしていた。
「もう一人いるのよ。ヘンリー!」
その声に、2階の階段上から、白い石膏のマスクを被った顔が、下を覗いてきた。
それに、ギョッ!と驚くマーク。
少年は、階段を降りてくると、マスクを外した。
そこには、マークと同じ歳の少年『ヘンリー』(マコーレー・カルキン)の笑顔があったのだった。
預けられたマークが、邪悪な少年ヘンリーに翻弄されるサイコ・サスペンス。
公開当時、この映画は劇場に足を運んだものである。
『ホームアローン』、『ホームアローン2』とメガヒットを叩き出して、世の中はまさにマコーレー・カルキン一色だった。
どこへ行っても、
「キャー!可愛い!こっち向いて!」
の黄色い声が飛び交い、出演すればするほど、ギャラはうなぎ登りに何百倍にも羽上がっていく。
そんな状況に天使の笑顔で、ニッコリ応えるマコーレー・カルキン。
一方、イライジャ・ウッドも子役からスタートしていたが、ちょっとずつ知名度が上がってきた状態。
1990年の『わが心のボルチモア』で初主演を果たしたばかり。
クリクリした大きな瞳で女の子のような可愛さもあり、こちらも上場株の子役スターだった。
そんな同世代の二人が共演する。
マスコミや映画関係者たちは、
「今、注目の子役スター同士の対決!」
なんて書き立てて、大いに煽ったものである。
で、結果は、どちらに軍配があがったのか………。
イライジャ・ウッドが勝った!
若手ながらも、この映画で『サターン賞若手男優賞』を受賞したのだった。
このイライジャの受賞を子供ながら、マコーレーはイライラして見おくっただろう。
(何で? 僕の方が人気があるのに……それに僕が主役なのに……)
映画のクレジットも、もちろんマコーレー・カルキンが先。
あくまでも、イライジャは準主役だと思っていたから、マコーレーの不満は相当なものだったろうと思う。
それで自分が観た公平な感想だが、やはり、『イライジャ・ウッド』の勝ち。
マコーレーには悪いが演技力が違いすぎた。
自分の母親を亡くした悲しみや寂しさを巧みに表現していて、それを預けられた家、ヘンリーの母親スーザンに重ねるという難しい演技。
一方では、マコーレー演じるヘンリーの残酷な行動に恐怖して、立ち向かおうとする少年の勇気。
クレジットは後でも、物語を観る人たちは、イライジャ演じるマークの気持ちに自然に同化してゆくのである。
「こりゃ、マコーレー・カルキン分が悪いわ」
と、劇場で観てても、そう思ったくらいだった。
一方のマコーレー・カルキンだが、やっている事はいつもと同じ。
『ホームアローン』と全く変わらないのである。
ケビンと同じ笑顔で、毒々しい行動をしているのも一緒だが、特にこれといった違いのない凡庸な芝居。
思えば、『ホームアローン2』から、マコーレー・カルキンには何か違和感を感じていた。
最初の『ホームアローン』では、本当に天使のような笑顔のケビンに、子供ながらの純真さを見ていたが、『2』を観たとき、ふと、思った事がある。
あまりにも《技巧的》になりすぎていやしないかと……。
それは、まるで、自分自身がどうすれば、世間に可愛らしく見えるかを、最大限に知りぬいているようでもあった。
「こんな風に口角を上げて笑えばいい」とか、
「こんな風にポーズをとればいい」と。
そう、まるで、鏡でも見ながら練習したような………。
マコーレーに限らず、これは子役の誰もが陥るような危険な落とし穴。
子供の頃から、世間の求めるものに敏感になりすぎて、無意識のうちに、それに無理に応えようとしていき、その型にハマっていくパターン。
このパターンに1度、ハマってしまえば子役から大人への脱皮は、とても難しくなる。
そうやって消えていった子役たちは、数多くいる。
パターンから抜け出せなくても、体は、どんどん成長していくからだ。
やがてそれは、観ている側には奇妙な違和感となってゆくのだ。
イライジャ・ウッドは幸運にも、このパターンにハマらなかった例。
どこで習ったのか……、内面で、気持ちで役に成りきる事に成功したのである。
その後は、皆さんもご存じのとおり。
イライジャ・ウッドは、大人になっても順調に演技を続けていき、『ロード・オブ・ザ・リング』3部作で、主役の座を勝ち取る。
そして、またもや、この作品で『サターン賞主演男優賞』を受賞した。(オメデトウ!)
近年はゲーム会社や映画会社の設立などで、幅広く活躍中。
一方、マコーレー・カルキンは坂道を転げ落ちるように転落し続けていき、両親がギャラで揉めて裁判沙汰騒ぎ。
自身も映画界から、そっと退いた。
一時期は、ドラッグや麻薬に溺れて激ヤセしたマコーレーの姿をメディアが取り上げていたが、その後どうなったのか………。
現在の姿を見ると、何となく元には戻った感もあるが、いい歳をして何をやりたいのやら相変わらずの暗中模索。
名前を『マコーレー・マコーレー・カルキン・カルキン』にしたとか。(この『マコーレー』と『カルキン』を増やした事に、いったい何の意味があるのやら………)
二人のその後を知っている我々にとって、この映画は、まるで子役スターたちの未来を『明』と『暗』に分けるようなもの。
そんな境界線に位置するような映画なのである。
星☆☆☆
(※たま~に真面目な事も書いてみる。長々と失礼しました。)