1945年 イギリス。
建築家の『ウォルター・クレイグ』(マーヴィン・ジョンズ)は、ある屋敷の改装工事を頼まれた。
そして打ち合わせを兼ねて、初めて訪れた屋敷は、どこか見覚えのある場所。
さらに、出迎えてくれたフォークナー家の子息に案内されて屋敷の中に入って行くと、大広間に集まっている客たちにも全て見覚えがあるのだ。
「思い出した!私は夢の中で、この屋敷や貴方たち全員に会っているのです!」
「そんな馬鹿な!」
何人かは口々にそんな言葉を吐いたが、一人が「そういえば……私もクレイグさんのような不思議な体験をした事ありますよ」と言い出した。
「私もあるわ」と更に次の声も。
客の精神科医は、そんな話をまるで一介にしないのだが、他の者たちは、クレイグの夢の話に刺激されてか、それぞれ自分の身に起きた《不思議体験》を語りだすのだった………
こんな感じで始まる『夢の中の恐怖』である。
客たちの話が全部で5本……そう、コレも5話を繋げたオムニバス・ホラー映画となっております。
オムニバス自体、苦手なジャンルなので、当然つまづきながら観るだろうな、と思っていたら、1話1話が数分で終わる小話なので、思いの外サクサクっと観終われました。(ホッ)
第1話『死の運転手』。
負傷したレーサーの命拾いした不気味な体験談。(ラストは当時としては、けっこう大掛かり)
第2話『クリスマス・パーティー』。
ある広い屋敷のパーティーで、大勢集まった子供たちが隠れんぼして遊んでいると……隠れた部屋には見知らぬ男の子の姿が……。
第3話『お化け鏡』。
骨董品店で見つけた中古だが立派な鏡。女性は愛する恋人にプレゼントするのだが、……その鏡には見知らぬ情景が映し出される。
やがて、恋人の様子もドンドン変わっていき……いわく付きの鏡には御用心ってお話。
そうして、ジャジャアァ〜ン!
第4話『ゴルフ狂物語』。
あの『バルカン超特急』や『ミュンヘンへの夜行列車』で活躍した凸凹コンビ、ノーントン・ウェインとベイジル・ラドフォードが、満を持して登場する。(このコンビ、私、大好きである。それにしても↑写真右のベイジルは、オッサンのくせに、なんか乙女チックで、この画像だけでも笑えてくる)
『ジョージ・パラット』(ベイジル)と『ラリー・ポッター』(ノーントン)は、二人とも美女の『メアリー・リー』にメロメロ。
メアリーの方も、どちらにも好意を持っていて一人に決められない様子だ。
「こうなりゃ、《ゴルフ》で決着をつけようじゃないか!勝った方がメアリーと結婚する!恨みっこなしだ!」
お互い同意して、結婚を賭けたゴルフ対決が始まるのだが………さて、軍配はどちらに挙がったのか?
勝ったのは『ジョージ』(ベイジル)の方。(ズルをして)
それを知らない『ラリー』(ノーントン)の方は(ガ~ン)大ショック!
ゴルフ場の沼に、そのまま入水自殺する。(ちょっと可哀想過ぎる)
さぁ、これで邪魔者はいなくなった。
晴れてジョージはメアリーと付き合いはじめ、ウキウキ気分だが………そこへ、なんと!幽霊の姿でラリーが、ひょっこり現れたのだ。(ゲゲッ!)
「何だ?お前は死んだはずだろう!今頃何の用なんだ?!」
「うるさい!天国に行って分かったんだ!お前ズルして勝っただろう?メアリーの事は諦めろ!じゃないと、こうやってお前の周りで一生まとわりついてやる!!」
「冗談じゃない!さっさと消えてくれ!!」
幽霊と人間の押し問答は延々続き、とうとうジョージも根負けしてきた。
「分かったよ、メアリーの事は諦める。だから、さっさと目の前から消えてくれ」
「最初から、そう素直ならいいんだ。じゃあな!」
ラリーは、後ろを向くと腕で十字をきったり、なんやかんや、妙なジェスチャーをしはじめた。
そして、「おっかしいなぁ~、こうだったっけか?」とブツブツ独り言を言っている。
「お前何をブツクサ言ってるんだ?」
「ヤバい!天国で教えてもらった《消え方》のジェスチャーを忘れてもうたぁーー!」
「ぬあぁ〜にぃ〜?!」
かくしてメアリーにこんな状況を説明できないジョージであるからして、結婚話はあれよあれよという間に、トントン拍子で進んでいく。
そうして、ジョージの横には、ジョージにしか見えない幽霊のラリーが、消える事もできず、常にチョロチョロしているのだった………。
ある意味、この4話が一番の異色作かも。
ノーントン・ウェインとベイジル・ラドフォードの力もあるだろうが、笑える幽霊話なんてのを、ぶっこんでくるのも、また珍しい。(他の話が全部「怖がらせよう!怖がらせよう!」とするモノばかりなんですもん。俄然目立ってしまう)
贔屓かもしれないが、5話の内で私は一番コレが好きである。
そして、この映画『夢の中の恐怖』で、1番評価が高いのが、次の5話目。
第5話『腹話術の腹話術』。
『フレル』(マイケル・レッドグレーヴ)は、大人気の腹話術師。
人形『ヒューゴ』を操って、その人形のあまりにも巧みな話術は、連夜、観客たちを賑わせていた。
そんな同業者である『キー』が、たまたま舞台を観ていると、人形の『ヒューゴ』に気に入られて楽屋を訪ねる事に。
だが、操っていた『フレル』の方はというと、完全に無愛想な態度。
どっちも同じフレルの意志のはずなのに、訳のわからないキーは、とっとと追い出されてしまう。
フレルは二重人格なのか?
だが、操る人形の部分がしまいには肥大化していくと、最後には………
マイケル・レッドグレーヴの名演技で、とっても不気味な印象を残す一編である。
同じような腹話術師の映画『マジック』(1978年 / 主演アンソニー・ホプキンス)の方を先に観ていたせいか、何となく結末も予想していたら、やっぱりその通りでした。(こっちの方が年代的には先なので、『マジック』の方が、だいぶ影響をうけてるはずである)
こんな風に、客たちが奇妙な話を全て語り終えると、舞台はフォークナー家の広間に戻る。
だが、突然に広間は暗闇に包まれて、とんでもない結末へと流れこんでいく。
まるでメビウスの迷宮にのまれていくような……(けっこうインパクトのある結末なので、ここはボカしておこうと思う)
それにしても、それぞれ監督が違うのに、よくまとめてあるよ。
脚本がしっかりしているのか……まるで最後までブレる事もないんだから。(『ワンダとダイヤと優しい奴ら』で有名なチャールズ・クライトン監督も参加しておりますよ)
見た目で驚かすアメリカ映画とは、やっぱりひと味違う。
ホラー映画にしても、イギリス映画は、緻密な脚本、緻密な構成、緻密な計算で成り立っているのだ。(完璧で、少しのスキもない)
日本人も充分に几帳面なんだけど、ともすれば目移りして流されやすいのが日本人。
イギリス映画を観る時は、やはり襟を正せねば!ウン!
星☆☆☆☆。