1995年 アメリカ。
メキシコ国境の町、サンタセシリア。
酒場にぶらりと、一人の男が入ってきた。
バーテンや馴染みの客たちは、よそ者の男をジロリと睨みつけ、明らかに歓迎ムードではない。
そんな空気には、お構い無しに、その男『ブシェミ』(スティーヴ・ブシェミ)は、カウンターに座りこむとビールを注文した。(役名も本名も一緒とは)
ヘラヘラした様子のブシェミは、バーテンや客たちに愛想をふりまくと、聞かれもしないのに、となり町の酒場であった事件を話しだした。(聞いていようが関係ない。話したくてウズウズしている様子だ)
ブシェミがとなり町の酒場で、他の客たちと飲んでいると、一人のマリアッチ(アントニオ・バンデラス)が、ギターケースを抱えて、フラリと入ってきたのだ。
異様な闇に包まれた様子のその男は、バーテンのそばに来ると、
「ブチョという男を探している……」
とだけ囁いた。
客たちは、その名前を聞くと途端に殺気立つ。
皆がピストルを取り出すと、銃口をマリアッチに向けて定めた。
だが、マリアッチの方が反応が早かった。
一瞬で、ギターケースの中にしまいこんでいた銃を取り出すと、直ぐさま乱射し始めたのだった……
「そ、それで……どうなったんだ?!」
いつの間にか、ブシェミの話に引き込まれていたバーテンが続きを促すと、
「そりゃ、辺りは一瞬で血の海よ」
と、ブシェミは得意気に、自分の手柄話のように続ける。
「マリアッチは、息絶え絶えの男から、ブチョの事を聞き出すと、奴にとどめの一発をお見舞いしたんだ」
「バーテンは?バーテンは助かるんだろう?、なぁ、バーテンは生き残るんだよな?!」
「それが、バーテンが一番ひどかった。出ていくマリアッチにカウンター下からライフルを出そうとした時、顔面に向けてズドンッ!よ!」
ブシェミの話しを聞き終えた客たちは、静まりかえっている。
「俺の話は終わりだ。じゃあな! せいぜい気をつけてくれよ!」
ブシェミは、話すだけ話すと、スキップでもするように、(ラン!ラン!)酒場から揚々と出ていった。
「なんなんだ~?…あの野郎はよぉ……」
バーテンは一言もらすと、他の客たちと、またシーンと静まりかえるのだった………
20数年ぶりに観た『デスペラード』の内容を、ほとんど忘れていたのだが、観ているうちに、どんどん引き込まれて思い出してきた。
冒頭から、いきなりスティーヴ・ブシェミが登場!(この顔、すばらしい独創的な顔、これでほとんど、つかみはO.K.!)
そしてオープニング。
アントニオ・バンデラスが、ギターを奏でながら、魂をこめて歌い上げる『我が心のモレーナ』♪
ギターの音色は、最初、ゆるやかに♪………
寂しく、悲しく、心に響いていき♪、
やがて、どんどん激しさを増してくる。
あ~思い出した、こんな感じ。
話のスジは至って簡単。
愛する女性を殺されたエル・マリアッチ(ギター弾きの男)が、ブチョと手下たちに復讐するお話である。
なのだが……これでもか!、これでもか!、というくらいに、サービス精神旺盛なくらい見せ場が盛り沢山。
ブシェミが帰った後、その酒場に、ブラリとやって来たマリアッチ(アントニオ・バンデラス)。
当然、バーテンから客たちは先程の話を聞いているので、ギターケースを担いだマリアッチを警戒している。
「おい!ギターケースを置いて手を上げろ!!
」
と、360度客たちに包囲されたマリアッチは、まさに絶体絶命。
ギターケースを開けると中には、只のギターが入っていた。
だが、運悪く、そのギターが、ギギギィィーーッ!と音をたてて、さらに開いていくと……
これは《ダミーのギター》じゃないか!
中には、大量の武器が入っているのだ!!
「殺せーーっ!」
ブチョの手下の客たちが、一斉に引き金をかまえる。
だが、両手を上げていたマリアッチの黒い背広の手首から、ピストルがヒョイと持ち上がり、つかんだと思ったら、2丁拳銃で、ズドン!ズドン!!
あっという間に、客たちは仕留められ、その場に倒れこむのだった。
カ、カッコイイ~!!
監督はロバート・ロドリゲス。
最初は、低予算のたった7000ドルで撮った「エル・マリアッチ」が評価された。
そして、ハリウッドに呼ばれて製作費も700万ドルに羽上がった、この「デスペラード」。
だが、それでも他の映画に比べれば、まだまだ全然安いような製作費…(普通は何千万ドル)。
だが、ロドリゲスの「工夫次第で面白い映画は、絶対に撮れるのだ!」という情熱は様々な人を揺り動かしたのだった。
製作費のほとんどを、弾薬や武器に使ったロドリゲスの手許には、全くといっていいほどお金が残っていない。(もう、スッカラカン)
俳優たちは、ほぼノーギャラだったのだ。
それでも、
アントニオ・バンデラスしかり、
美女のサルマ・ハエックしかり、
変顔のスティーヴ・ブシェミしかり(顔の事ばかりでスミマセン)、
クェンティン・タランティーノが端役として出演したりと、色々な仲間たちが集まってくれた。
ロドリゲスの映画にかける情熱は、伝染病のように俳優たちに伝わったのだ。
「たとえ、ギャラがなくても、面白い映画が撮りたい!!」
たった、その気持ちだけで……
映画は大ヒットする!!
だからこそ、こんな映画がつまらないわけがない。
普段は長い髪を束ねたバンデラスが、いざ闘いになると髪を振り乱し、悪党たちを一撃で倒していく。
ラテン男の情熱的な生きざまを、とくとご覧あれ。
面白いよ。
星☆☆☆☆☆。