2021年8月26日木曜日

映画 「ナイアガラ」

1953年 アメリカ。




『ポリー・カトラー』(ジーン・ピーターズ)は、夫の『レイ』と一緒に新婚旅行で《ナイアガラ》にやって来た。



「思う存分、このナイアガラ・ツアーを楽しまなくちゃ!!」


浮き浮き気分で、俄然、張りきるカトラー夫婦。



地上からエレベーターを下に降りていき、暗いトンネルを抜けていくと、そこはナイアガラの滝の、ちょうど真裏に出てくる。


そして、目の前に広がるのは、絶景スポットの展望台。(1950年代にこんな場所が完成されている事に、今更ながらに驚く)


そんなナイアガラを背景に、夫のレイは妻のポリーを写真におさめたいのだ。


「もっと後ろに下がって!」


夫の掛け声に笑いながら後ずさりするポリー。



すると、真横の岩陰で熱烈なキスをしている男女の姿が、突然ポリーの目にとびこんできた。



(あれは隣のロッジにいるルーミス夫人だわ!……相手の若い男は………どう見てもご主人じゃなさそうね……)



バツの悪い場面を偶然見てしまったポリー。



美人で派手な『ローズ』(マリリン・モンロー)は、地味で根暗な男『ジョージ・ルーミス』(ジョセフ・コットン)と結婚していた。


この夫婦もポリーたちと同じように、ナイアガラの側のロッジに宿泊していたのだが……さわやかなカトラー夫婦とは、まるで真逆で、常に淀んだ空気が流れている。



夫のジョージが、あまりにも嫉妬深すぎるのだ。



熱烈に愛しすぎるがゆえに、

「ローズが外に出れば他の男に奪われてしまう!」

こんな疑念でイッパイになり、結婚してからというもの、片時も心休まる暇がないときている。(ある意味、ジョージの疑念は当たっているんだけど)


こんなジョージの嫉妬は、とうとう仕事にまで影響して、事業は失敗続き。

オマケに、お国の為に朝鮮戦争に行くと、ズタボロの精神状態で、ジョージは帰国してきたのだった。


ますます、陰気臭くなったジョージの性格。



こんな男と暮らしていて、毎日が楽しいはずがない。



妻のローズは、こっそり若い男を手玉にとってメロメロにしてしまうと、ある企みを、今まさに、実行しようとしていたのだった。


「夫を殺してちょうだい……」


こんな痴情のもつれで、お互いに殺伐としだしたルーミス夫妻。


偶然、三角関係を見てしまったポリーは、そんないざこざの渦に巻き込まれて………





急に、この映画『ナイアガラ』を思い出して、40数年ぶりに観てみた。


コロナ蔓延の中、家の中にこもりっきりで、鬱々とした気持ちで限界にキテる人も多いはず。


そんな時に、多少、観光気分を味わえるのなら、こんな映画もいいかもしれないと思ったのだ。



この《ナイアガラの滝》は、数十年経った今、観ても、中々のド迫力で見応え充分である。




物語の内容はというと…スッカリ忘れていた。


この映画『ナイアガラ』について書かれている幾多の記述なんかを読むと、


「マリリン・モンローの初めてのカラー映画」だとか、


「マリリンが魅せる華麗なモンロー・ウォーク」なんてモノばかり。



たまにジョセフ・コットン演じる根暗なダメ夫について書いているのを見つけても、ほぼ、内容にふれたのを見かけた事がない。



何でだろう?と不思議に思い、今回新たに観直してみると、その疑問も分かった気がする。



この映画のクレジットには、一番最初の画面に3人の名前が一気に並ぶ。


画面左上にマリリン・モンロー、その右横にジョセフ・コットン

そして、二人の下、中央にはジーン・ピーターズの名前。



もう、お分かりだろう?


冒頭に書いてみた、多少のあらすじを読んでみても分かるだろうが、この映画の実質上の主役はジーン・ピーターズ演じる『ポリー』なのだ。



主役はマリリン・モンローでも、ジョセフ・コットンでもない。



観客が感情移入して、ハラハラ、ドキドキすべき人物は、若妻『ポリー』(ジーン・ピーターズ)なのである。




古い映画だから、思いきって書いてしまうが、


『ローズ』(マリリン・モンロー)と愛人の若い男が計画した《夫ジョージ殺し》は失敗に終わる。


ナイアガラの滝で突き落として殺す計画だったのだが、逆に『ジョージ』(ジョセフ・コットン)に殺されたのは若い愛人の方だったのだ。



オマケに、ジョージは、《ローズが愛人と共謀して、自分を殺そうとした》事に気づいてしまうのだ。



可愛さあまって憎さ百倍……


ローズを憎むジョージは、とうとう追いつめて、ローズの首を絞めて殺してしまう。



そう、映画の半分を過ぎたあたりで、『ローズ』(マリリン・モンロー)は、殺されてしまうのだ!



断言する!


こんな役で、主役であるはずがない!



こうして、殺人犯として逃亡を続けるジョージ……


そして、それを知ってしまったポリーは、事件に巻き込まれながらも、壮大なナイアガラで、ジョージと最後の対決をするのである。(もちろん、主役ゆえ、ラストはヘリコプターで救助されるポリー)



こんな話が、映画『ナイアガラ』の本当の姿なのだ。



それなのに、どういうわけか、この映画は、数十年経った今でも、マリリン・モンローが主役の映画として、ずっと勘違いされ続けている。


映画の宣伝も、評論も、なんならDVDなどのパッケージなんかを見ても、マリリン・モンローを押し出して、「ババァーーン!」と見出しにしたものばかりが目立つ。


これでは観てない人には、「マリリン・モンローが主役の映画なんだろう!」と思われるのも当たり前なのである。



どうしてこんな風になってしまったのか?


それはマリリン・モンローが、この映画で演じた『ローズ』という役柄のインパクトが非常に大きいのだ、と推測する。



自分が目立つように、セクシーで派手なショッキング・ピンクのドレスに身を包んでいるローズ。(周りから一人だけ浮いてる格好に、今、観ればドン引きして、笑ってしまう (笑) )


恋愛に奔放でいて、旦那がいても関係なし。


気軽に男と浮き名を流す、ふしだらな女ローズ。


そうして、最後は自業自得で殺されてしまうローズ……



マリリン・モンローの実生活と重ねて、人々は、この『ローズ』のキャラクターを見てしまったのだ。



実際のマリリン・モンローも結婚離婚を繰り返し、共演者とも浮き名を流す恋愛体質。


オマケに36歳の若さで亡くなった謎の死。(事実は自殺だったらしいが)


でも、この『ローズ』の役柄が影響しているのか、今でも《他殺説》の憶測や噂を信じる者は後を絶たない。



マリリン・モンロー》=《ローズ》のイメージは、マリリンの死によって、決定的に刻印のごとく印象つけられてしまったのである。



なるほどねぇ~……


でも、その勘違いや虚飾も、そろそろ幕を下ろしてもいいんじゃないの?(もう70年も経つし)



映画を観れば分かるはずだが、ジーン・ピーターズは、理知的で美しく、確かな演技力をみせてくれる女優さんである。(私は彼女の方が好き)


着ているファッションも、ケバいマリリン・モンローとは比較にならないくらいセンスが良い。(クール・ビューティーを存分に引き立てている)





ナイアガラの濁流の中、流されまいと岩場に必死につかまる彼女。


上空を飛ぶヘリコプターからロープで降ろされた椅子を、たぐり寄せて、必死で掴まる彼女。



ジーン・ピーターズは体を張った体当たりの演技を見せて、映画のラストを飾っている。(ボンド・ガールも真っ青)


この映画を久しぶりに観て、ナイアガラの見事さを堪能した私は、マリリンにかぶされた虚飾の王冠をおろして、ジーン・ピーターズの頭に、その王冠をかぶしてあげたくなってしまった。


どうだろうか?

星☆☆☆☆。