(1844~1910年 フランス)
近年、ヘタクソな絵を、誰が名付けたのか、
《ヘタウマ》なんて言葉で表現するのが大流行している。
日本でも俳優の田辺誠一が、バラエティー番組の中でチラッと描いてみた、トンでもなくヘタクソな絵に皆が笑い転げた。
「こんな絵、見たことない!」
「どうすれば、こんなとてつもなく下手くそな絵を描けるのか!」
出演者、みんなが馬鹿にして、笑い転げて………
でも…時間が経つと、妙に脳裏にこびりついてしまって、忘れようったって忘れられなくなってくる。
そんな中毒性のある、ヘタクソな絵には、しまいには《味》や《愛敬》さえも感じてしまうのだ。
もはや、そのキャラクターが一人歩きして、大人気になった田辺誠一の絵。
本人も「人生、何が幸いするのか…」驚いているだろう。(奥さんの大塚寧々もビックリ)
こんな、誰も描けない、独特な感性の絵につけられた名称を、現代では《ヘタウマ》なんて呼び方で表しているんだから、まぁ良い時代になったものである。
だが、大昔には無かった、この《ヘタウマ》の言葉。
普通の画家たちが描く絵と、違ったモノを描いたりすれば、それは安易に《ヘタクソ》呼ばわりされていた時代もあったのだ。
それらの絵が理解されるのも、人生も終盤を過ぎてか、もしくは、当の本人が亡くなってからだったりしたものである。
そんな風に再評価された画家たちは、大勢いる。(だから、「絵描きは儲からない」と、昔は当たり前のように言われていたのだ)
そんな画家たちの中に『アンリ・ルソー』もいる。
ルソーは、元々本業の画家さんではない。
本業は、ちゃんと別にあって、フランス税関の職員をしていたそうだ。(まぁ、お堅そうな仕事)
でも、休みになれば趣味として、自分の好きな絵を描く事に没頭する。(絵だけじゃ食っていけない時代だしね。)
そんなルソーが、やっと描きあげた絵を見て、皆がクスクス笑ったり、「なんだ、コリャ?!」と平気で馬鹿にしたりした。
茶化されたりするのが関の山だったルソーの絵。
それでも、当時のフランスの人たちの気持ちで見ると、これも「しゃ~ないか」とも思ったりする。
ルソーの絵は《平面的》なのだ。
あまり奥行きを感じさせないのである。
それと、絵の人物が、ほぼ真正面を向いている構図ばかり。
オマケに、その人物の描き方も独特で、モデルとなる当人に似せようとする気がないのか……どこかシュールな味わいがして、漫画チックな表現なのである。
オマケに、オマケに、やっぱりどこか《変》なのだ。
この《変》さに、妙な笑いが込み上げてくるのも分かるような気がする。
この絵なんか、丸々した赤ん坊が正面向いて仁王立ち。妙なオッサンの操り人形を持っている。(このオッサン人形がお祝いのプレゼントなの? (笑) )
これもパッツン、パッツン!丸々した女の子が変なオッサン人形を抱いている絵。
全然嬉しそうじゃない女の子(だろうな (笑) それにしても凄い体格をした女の子)
これなんか、もう違和感だらけ。
なぜか?双子のようにそっくりなオッサン2組がフットボールしている絵。
それにフットボールというよりは、まるで阿波おどりでも踊っているようである。
オマケに着ているのが縞模様の水着みたいなの。
オッサンの一人は腹パンチ👊までしてるという (笑)。
こんなヘンテコリンな絵に「ホホォ~」なんて感心するわけがないし、笑いが込み上げてくるのも当たり前なのだ。
それでも、私はルソーの絵が大好き。
ルソーには、もう1つモチーフになるモノがあって、それが緑の木々に囲まれた《密林地帯》や《ジャングル》である。
このルソーの描く《緑》の色使いは、特に至高の出来なのだ。
色鮮やかで、それに奥深い、様々な色の木々の《緑》………そんな色を作り出せる画家をルソー以外に、私は知らない。
笑える人物画は仮の姿で、これらを見ると、一目で、「こやつ只者ではない!」と思ってしまうのである。
ルソーの代表作である。人物が暗くて遠目では分かりにくいが、蛇を肩にかけている女が、笛を吹きながら、こちらをじっと見据えている。
周りの草木は、どれもこれも吸い込まれるような深い緑で、細部にわたるまで丁寧に描かれている。
いつまでも見ていられるし、印象深い一作である。
こんなヘンテコな絵や、立派な絵を描きわけるルソーの実生活はというと、あんまり順風満帆なものではなかったらしい。
最初の妻には早々に先立たれ、子供も7人いたが5人は早死にしている。
ルソーが55歳の時に2度目の結婚したが、4年後に、これまた妻には先立たれてしまう。(つくづく家庭に縁がないのか)
そんはルソーも64歳くらいの時に、やっと作品が評価されだしたりしたのだが、手形詐欺事件の疑いをかけられてしまう。(一応、執行猶予はついたらしいが)
その後、足のケガを放置していたら壊疽(えそ)して、あっさり亡くなってしまった。(66歳没)
最後まで可哀想な、踏んだり蹴ったりの人生を送ったルソー。
もしも生まれた時代が違えば、きっと絵も絶賛されていて、それなりに人生を謳歌できたのに……と思わずにいられない。
こんなルソーの絵を、最近では《ヘタウマの元祖》と呼んでいるらしい。
ゲゲッ!なんかヤダなぁ~
ちゃんと絵の技術があって描く《おかしみ》と、下手くそでも《愛敬》のある絵を同列にするなんて。
死んでからも、尚、《ヘタウマ》なんて冠ではルソーが、あまりにも可哀想過ぎる。
なんせ、今の《ヘタウマ》の代表がコレですもん。
長々、お粗末でございました。