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2021年8月18日水曜日

人物 「アンリ・ルソー」

(1844~1910年 フランス)





近年、ヘタクソな絵を、誰が名付けたのか、

《ヘタウマ》なんて言葉で表現するのが大流行している。



日本でも俳優の田辺誠一が、バラエティー番組の中でチラッと描いてみた、トンでもなくヘタクソな絵に皆が笑い転げた。


「こんな絵、見たことない!」


「どうすれば、こんなとてつもなく下手くそな絵を描けるのか!」


出演者、みんなが馬鹿にして、笑い転げて………


でも…時間が経つと、妙に脳裏にこびりついてしまって、忘れようったって忘れられなくなってくる。


そんな中毒性のある、ヘタクソな絵には、しまいには《味》や《愛敬》さえも感じてしまうのだ。



もはや、そのキャラクターが一人歩きして、大人気になった田辺誠一の絵。


本人も「人生、何が幸いするのか…」驚いているだろう。(奥さんの大塚寧々もビックリ)



こんな、誰も描けない、独特な感性の絵につけられた名称を、現代では《ヘタウマ》なんて呼び方で表しているんだから、まぁ良い時代になったものである。



だが、大昔には無かった、この《ヘタウマ》の言葉。



普通の画家たちが描く絵と、違ったモノを描いたりすれば、それは安易に《ヘタクソ》呼ばわりされていた時代もあったのだ。


それらの絵が理解されるのも、人生も終盤を過ぎてか、もしくは、当の本人が亡くなってからだったりしたものである。


そんな風に再評価された画家たちは、大勢いる。(だから、「絵描きは儲からない」と、昔は当たり前のように言われていたのだ)



そんな画家たちの中に『アンリ・ルソー』もいる。



ルソーは、元々本業の画家さんではない。


本業は、ちゃんと別にあって、フランス税関の職員をしていたそうだ。(まぁ、お堅そうな仕事)


でも、休みになれば趣味として、自分の好きな絵を描く事に没頭する。(絵だけじゃ食っていけない時代だしね。)


そんなルソーが、やっと描きあげた絵を見て、皆がクスクス笑ったり、「なんだ、コリャ?!」と平気で馬鹿にしたりした。


茶化されたりするのが関の山だったルソーの絵。


それでも、当時のフランスの人たちの気持ちで見ると、これも「しゃ~ないか」とも思ったりする。



ルソーの絵は《平面的》なのだ。

あまり奥行きを感じさせないのである。


それと、絵の人物が、ほぼ真正面を向いている構図ばかり。


オマケに、その人物の描き方も独特で、モデルとなる当人に似せようとする気がないのか……どこかシュールな味わいがして、漫画チックな表現なのである。


オマケに、オマケに、やっぱりどこかなのだ。


このさに、妙な笑いが込み上げてくるのも分かるような気がする。




《 赤ん坊のお祝い(1908)》

この絵なんか、丸々した赤ん坊が正面向いて仁王立ち。妙なオッサンの操り人形を持っている。(このオッサン人形がお祝いのプレゼントなの? (笑) )




《 人形を持つ子供(1908)》

これもパッツン、パッツン!丸々した女の子が変なオッサン人形を抱いている絵。

全然嬉しそうじゃない女の子(だろうな (笑) それにしても凄い体格をした女の子)





《 フットボールをする人々(1908)》


これなんか、もう違和感だらけ。

なぜか?双子のようにそっくりなオッサン2組がフットボールしている絵。


それにフットボールというよりは、まるで阿波おどりでも踊っているようである。

オマケに着ているのが縞模様の水着みたいなの。

オッサンの一人は腹パンチ👊までしてるという (笑)。



こんなヘンテコリンな絵に「ホホォ~」なんて感心するわけがないし、笑いが込み上げてくるのも当たり前なのだ。



それでも、私はルソーの絵が大好き。



ルソーには、もう1つモチーフになるモノがあって、それが緑の木々に囲まれた《密林地帯》や《ジャングル》である。


このルソーの描く《緑》の色使いは、特に至高の出来なのだ。


色鮮やかで、それに奥深い、様々な色の木々の《緑》………そんな色を作り出せる画家をルソー以外に、私は知らない。


笑える人物画は仮の姿で、これらを見ると、一目で、「こやつ只者ではない!」と思ってしまうのである。




《 蛇使いの女(1907)》


ルソーの代表作である。人物が暗くて遠目では分かりにくいが、蛇を肩にかけている女が、笛を吹きながら、こちらをじっと見据えている。

周りの草木は、どれもこれも吸い込まれるような深い緑で、細部にわたるまで丁寧に描かれている。


いつまでも見ていられるし、印象深い一作である。




こんなヘンテコな絵や、立派な絵を描きわけるルソーの実生活はというと、あんまり順風満帆なものではなかったらしい。


最初の妻には早々に先立たれ、子供も7人いたが5人は早死にしている。


ルソーが55歳の時に2度目の結婚したが、4年後に、これまた妻には先立たれてしまう。(つくづく家庭に縁がないのか)


そんはルソーも64歳くらいの時に、やっと作品が評価されだしたりしたのだが、手形詐欺事件の疑いをかけられてしまう。(一応、執行猶予はついたらしいが)


その後、足のケガを放置していたら壊疽(えそ)して、あっさり亡くなってしまった。(66歳没)



最後まで可哀想な、踏んだり蹴ったりの人生を送ったルソー。


もしも生まれた時代が違えば、きっと絵も絶賛されていて、それなりに人生を謳歌できたのに……と思わずにいられない。



こんなルソーの絵を、最近では《ヘタウマの元祖》と呼んでいるらしい。



ゲゲッ!なんかヤダなぁ~



ちゃんと絵の技術があって描く《おかしみ》と、下手くそでも《愛敬》のある絵を同列にするなんて。



死んでからも、尚、《ヘタウマ》なんて冠ではルソーが、あまりにも可哀想過ぎる。



なんせ、今の《ヘタウマ》の代表がコレですもん。


長々、お粗末でございました。