1986年 アメリカ。
時代が70年代から~80年代に移り変わった頃、俳優たちにも微妙な世代交代の波が押し寄せてくる。
70年代に、あれだけ活躍していた俳優たちの人気に、徐々に陰りが見えはじめてきたのだ。
チャールズ・ブロンソンは、あまりにも奥さまのジル・アイアランドとの共演作を連発し過ぎて、すっかり観客たちに飽きられてくる。
セクシー・アクション俳優の看板スターだったバート・レイノルズも衰退していく。(私、この人の魅力が今でも分からん)
リー・マーヴィンも若い頃からの不摂生(飲酒)で、元々老けていた風貌は、さらに衰えて、わずか63歳で他界する。(1987年没)
こんな感じで、70年代組の俳優たちは横へ、横へと追いやられていく。
代わりに出てきたのが、皆もご存知のスターたち。
シルベスター・スタローンやアーノルド・シュワルツェネッガーの二大巨頭が突出し、後を追うようにブルース・ウィリスたちなどの新進アクション俳優たちが続々と現れだしたのだ。
まさに、時代は新世代にバトンタッチして、変わりはじめていく……もう、時計の針は巻き戻せない。
こんな中で、あのクリント・イーストウッドも、どんどん焦りを感じはじめてくる。
70年代、あれほど猛威をふるって、イケイケだったイーストウッド映画にも、少しずつ陰りが見えはじめてきたのだ。
『ダーティハリー』シリーズは、続ければ続けるほど、どんどん興行収入がガタ落ちしてくる。
起死回生ではじめた『ダーティ・ファイター』も、2作目では1作目を下回る収益。
『ファイヤー・フォックス』、『ブロンコ・ビリー』、『センチメンタル・アドベンチャー』などなども、そこそこの収益を挙げても、中々、大ヒットにはならず、あまりパッとしない。
ならば!と原点回帰で作った西部劇『ペイルライダー』も、そこそこの小ヒット。
焦りはじめるイーストウッド……
刑事モノも西部劇もダメなら、どうすりゃいい?何を撮ればいいんだー?!
自分みたいなオッサンは、もはや過去の遺物なのかー!
なんだい!なんだい!今の若い奴らときたら、チャラチャラ、ナヨナヨしやがって!!
あんな若いだけの奴らに、まだまだ、この俺が負けてたまるかー!
………なんて思ったか、どうかは知らないが、この映画『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』は、そんな当時のイーストウッドの本音が、ズバリぶつけられているようなキャラクターであり、ストーリーなのである。
根っからの戦争馬鹿『トム・ハイウェイ軍曹』(クリント・イーストウッド)は、時代が移り変わっても、昔の戦地の興奮が忘れられずに、「是非、最前線への移動を!」なんて希望するような変わり者。
こんなハイウェイ軍曹に、やっと移動命令が下る。
「やったー!やっと戦地へ行けるぞー!」
喜んだのも束の間、ハイウェイの仕事は、彼の古巣である、第二海兵師団第二偵察大隊・第二偵察小隊(ノースカロライナ州キャンプ・レジューン)へ戻って、若い兵士たちの指導にあたるモノだった。
(なんだ、戦地に行くんじゃなくて、若い奴らの子守りかよ……まぁ、いいさ。俺が立派な兵士に育ててやる!!)
だが、いざ現場に行ってみると、想像を越えるようなダラけきった奴らの吹き溜まり。
ロックン・ロール、男のくせにチャラチャラしたピアス、ビリヤード………
そんな若い兵士たちは、ハイウェイ軍曹を見ても、物怖じせずもせずに、こんな風に吐き捨てるように言う。
「何だよ、オッサン?お呼びじゃねぇんだよ、とっとと出ていきな!」
ハイウェイは、イライラして、ムカムカして、ドッカーン!とうとう爆発した!!
「お前ら、表に出て整列だ!!」
歯向かってくる若い兵士たちを簡単に力でねじ伏せてしまうハイウェイ。
若い兵士たちも、「ゲゲッ!マジかよ! こんなオッサンに、こんな力が?!」と思って、ビックリ仰天。
鬼軍曹ハイウェイは、本領を発揮して、ダラけきった兵士たちを一人前にするよう特訓を開始するのだった……
こんなのが『ハートブレイク・リッジ…』のあらすじなのだが………
この映画は大当たりした。
なんと製作費の10倍以上の興行収益をあげたのだ!
何がそんなにウケたのか?
それは、イーストウッドと同じように歳を重ねてきた同世代の男たちが、こぞって支持したのだ。
日々の日常、若者たちに抱いている不満を代わりに代弁してくれて、一人でも、負けじと気概を吐くイーストウッドにシンパシーを感じたのだ。
「古いモノには古いモノの良さがある。たとえ古くても、その精神(スピリット)には、敬意をはらい、見習わなければならないのだ!」
こんな主題を、真っ向から打ち出してくるんですもん。(そりゃ、オッサンたちは大歓喜して熱狂するはずだわ)
これ以降、イーストウッドの映画の方向性も、完全に決まっていく。
客層のターゲットを大人の男性たちに絞りこみ、決して若者たちには媚びない映画作り……
アカデミー賞を獲った『許されざる者』も、その後の作品も、全てが、
「歳をとっても、まだまだやれる!年寄りの意地と誇りを見せつけてやる!」
裏テーマとして、こんな主題を掲げているモノばかりである。
なんにせよ、この『ハートブレイク・リッジ…』があったからこそ、イーストウッドだけが80年代を生き残り、90年代へと進めたような気がする。
まさに、イーストウッドにとって、この映画は大事であり、ターニング・ポイント的なモノになったんじゃないかな?
今、現在、オッサンになった自分なんか、特に、このハイウェイ軍曹の気持ちになって、肩入れして観てしまうのである。
星☆☆☆☆。