2019年10月27日日曜日

映画 「クリスタル殺人事件」

1980年 アメリカ、イギリス合作。







1974年に始まったアガサ・クリスティーの映画化シリーズは、『オリエント急行殺人事件』を皮切りにヒットしていた。



ポワロ役を、アルバート・フィニーから、ピーター・ユスチノフに変えての『ナイル殺人事件』、『地中海殺人事件』もヒットする。



クリスティーの謎解きもしかりだが、エジプトやら地中海やらの観光地、有名スターを出演させる事が、その都度、話題になっていた。




そこへ、降ってわいたように、あのエリザベス・テイラーの出演。



ピーター・ユスチノフのポワロシリーズを中断しての『ミス・マープル』もの。



これは、あくまでも自分の推測だが、エリザベス・テイラーの為に、ミス・マープルものに変更されたんじゃないだろうか。



そして、主役のミス・マープルの役をテイラーにさせるつもりではなかったのだろうか……と思うのである。




でも、今まで、美貌を武器にしてきたエリザベス・テイラーが、白髪の老女マープルを演じるはずもない。



そんな事は、テイラーのプライドが絶対に許さないのだ!



そんなわけで、マーブル役は、後に『ジェシカ・アルバおばさん』で有名になるアンジェラ・ランズベリーが引き受ける事になった(アンジェラ当時55歳で、この老けメイク!)







大女優エリザベス・テイラーには、もっと華やかで、ふさわしい役を!




ミス・マープルもので、12作ある長編の原作を調べると、何とかありました。


原作『鏡は横にひび割れて』の悲劇の大女優マリーナ・グレッグ役が。



「これがいい!これに決定!」


なんて具合の舞台裏だったんじゃなかろうかねぇ~(あくまでも推測ですけど)




でも、この原作、トリックはまぁ、まぁ、だけど舞台は、マープルの村、セント・メアリー・ミード村で、とても地味。


まだ、マープルものなら、『カリブ海の秘密』の方が映画ばえしそうな舞台だと思うのだが ……





さて、この原作『鏡は横にひび割れて』だが、後年、ある事を知ってしまってから、この原作が嫌いになってしまった。




※ここからネタバレになるので読みたくない人はスルーしてください。





ミス・マープルの村に、大女優マリーナ・グレッグがやってきて、ここで数年ぶりに映画を撮るという。

マリーナ・グレッグは、昔、妊娠中に風疹にかかり、産まれた子供が障害児だった事で、自分を責め続け、長い間、映画界から遠ざかっていた。


だが、今の夫で映画監督のジェイソン・ラッドと知り合い、再婚して立ち直るきっかけを得たのだった。


マリーナ復帰のパーティーが盛大に行われる。
そこで、マリーナの熱狂的なフアンで、地元の幹事をしている中年女性ヘザー・バドコックが死んでしまう。


ヘザーのグラスには、毒が入っていて、それはマリーナが飲むはずのものだった。


警察はマリーナを狙った犯行だと思うのだが、…………



マリーナに恨みを持つ者や、他の人物たちが現れたりするが、勘のいい人なら分かると思うが、もちろん犯人は、【マリーナ】である。


「昔、私、風疹になって、それでも白粉をつけて、あなたに会いにいったのよ!」


ヘザーは、マリーナの前でぬけぬけと、パーティーの中、昔の出会いを告白したのだ。


それもマリーナが長年、トラウマになっていた過去を嬉しそうに ………

『この女の風疹が、自分に感染した!』

『その為に産まれた子供が障害児となったのだ!』

自分のグラスに毒を入れると、ヘザーにぶつかってヘザーのグラスを、わざとこぼす。


「どうぞ、私のグラスを差し上げるわ」


それを喜んで飲んだヘザー・バドコック。
毒入りとは知らずに ………


これが、ミス・マープルが解きあかした真相である。





こんな話の『鏡は横にひび割れて』だったが、まだ若かった自分は感心して読んだ記憶がある。



でも、それから数年後、ある事を知ってしまった。




それは、有名な実在した女優、ジーン・ティアニーの生涯。



戦時中、大スターだったジーン・ティアニーは、妊娠中だったにもかかわらず、兵士を励ます為に慰問に出かけた。



そこで風疹に感染してしまう。(?)


産まれた子供は、障害児だった。(??)


それから数年後、ティアニーの元に、偶然、ある人物がやってきて、


「あの時、風疹にかかっていたけど、あなたに会う為に出かけていった」と告白されたのだ。



ジーン・ティアニーのショックは、ひどく、段々と演技をする事もかなわなくなっていったという ………





まんまやんけー!





クリスティーが書いたこの小説、まるで、そっくり、同じではないか。


この記事も、当時、有名スターのゴシップ欄をにぎわせたはず。



出版された当初、クリスティーいわく、

「偶然です、全く知らなかった」と言っていたらしいが、どうだか……(真相は闇の中)



この小説をジーン・ティアニー自身が、どう受けとめたのか、もはや知るすべもないが、まるで傷口に塩を塗るようなものである。



こんな背景がある、原作の映画化。



しかも、それをエリザベス・テイラーが、嬉々として演じたのだ。



今や年齢とともに美貌は崩れて、がっしりとドスコイ体形になったテイラーに、か弱さなんて微塵もない。



それでも、頭にはスミレ色の花をたくさん載せた帽子を被り、アイラインを濃く、お化けのように塗って、化粧はバッチリ。(これを見た時、正気か?と思ったくらい。まるで仮装である。)



エリザベス・テイラー演じるマリーナ・グレッグが、ヘザー・バドコックの話を聞いていると、段々と顔色が変わってくる。


階段の上にある、子供を抱いた母親の肖像画を見つめるマリーナ。(出たー!目を見開いてのワナワナ演技(笑))




映画は、案の定、失敗した。(それ見たことか)



クリスティーの映画化シリーズは、ここで一旦終了となる。


その後、テイラーは、『フリント・ストーン』なるコメディー映画に出演するも、パッとせず消えていった。(アカデミー賞まで取った人の最後が、これとはね)




あれから数年たって、もはや、エリザベス・テイラーの映画を語る人すらも少なくなってきた。


いくら時が過ぎようが、名作は残るが、そうでないものは消えていく。(あ~無情)



そして教訓。

風疹になったら、家でジッとしてなさい!】って事で。

おしまい。