1956年 フランス、イタリア合作。
南フランスはサン・トロぺの港町。
燦々とした太陽を浴びて、今日も『ジュリエット』(ブリジット・バルドー)は洗濯したシーツの蔭で全裸で日光浴だ。
町の有力者で金持ち、酒場やカジノと手広くやっている『エリック・カラディンヌ』(クルト・ユルゲンス)は、そんな奔放な娘ジュリエットにメロメロ。(オッサンのくせにね)
日光浴中のジュリエットに近づくと、
「君にプレゼントだ」
おもちゃのミニカーを手渡した。(娘におもちゃ?)
ジュリエットは「フフッ」と笑いながら受け取る。
「その可愛い唇が、私のものになるなら、本物を買ってやろう」(ヤレヤレ、まわりくどい口説き方)
「私はお金のかかる女よ」
中年紳士相手に18歳のジュリエットは、まるで怯む様子もない。
その態度は、まるで数多くの恋愛経験を積み重ねてきて、その都度つねに勝利者だった者の言い草だ。
そこへ、ジュリエットを孤児院から引き取ったモラン夫人が、もの凄い剣幕でやって来た。
「男の前で、素っ裸で平気なんて……、なんて、ふしだらな娘なんだ!!」
痛風のモラン氏とモラン夫人に子供はなく、仕方なく孤児院から、この娘ジュリエットを引き取ったのだが、今ではすっかり後悔していたモラン夫人。
何てハレンチな小娘!
「本屋の勤めもいい加減で、男の前でもふしだら。そんな態度じゃ孤児院に返してしまうよ!」
モラン夫人の言葉に、ジュリエットは慌てて洋服を着ると、自転車に乗って職場に向かった。
横で癇癪をおこしながら、まだプンプン怒っているモラン夫人の横で、エリックは笑って見送っている。
「魅力的な娘だ……」(ダメだ、コリャ)
ボリュームのある金髪の長い髪、それにポテッとした分厚い唇。
こんなジュリエットに町の男たちが、ほおっておくはずもない。
内気で気弱な『ミシェル』(ジャン・ルイ・トランティニャン)は、遠くからジュリエットを眺めながら悶々する日々。
でも、目下、ジュリエットが関心があるのは、ミシェルの兄で美青年の『アントワーヌ』(クリスチャン・マルカン)なのだ。(よくあるパターンだ)
ダンス・パーティーで精悍なアントワーヌと踊りながら、ジュリエットはうっとり。
キスしてきたアントワーヌは、「君を『ツーロン』の町に連れていきたいよ」と切り出す。
来週、仕事でツーロンに行くのだ。
突然の誘いに、驚いたジュリエットだったが、嬉しさを隠すと笑いながら化粧室に入った。
(私もアントワーヌが好き、アントワーヌも……)
そこへ隣の男子トイレから、アントワーヌが男友達と話す声が、まる聞こえ。(何て迂闊な)
「お前、あの女と本当にツーロンに行くのか?」
「冗談!あの手の女は一晩寝たら、サヨナラさ!」
ジュリエットは怒りながら、ワナワナと震えている。
すっかり女のプライドをズタズタにされたジュリエット。
たまらず化粧室を抜け出し、夜の町をさ迷うと、いつしかジュリエットの足は、エリックが所有するヨットのパーティー開場へと向かっていたのだった………。
『お熱いのがお好き』のマリリン・モンローが『M・M』。
『SOS北極…赤いテント』のクラウディア・カルディナーレが『C・C』。
ご存じ、名前と名字の頭文字が同じという、イニシャル3人娘の大トリは、ブリジット・バルドー『B・B』である。
ブリジット・バルドーの映画を何十年ぶりに観たのだが、こりゃ本当に可愛いわ。
可愛いんだけど、騙す男も、騙される方のブリジットも、どっちもどっちって感じで、全然同情する気にもなれないんだけどさ。
監督は、ブリジット・バルドーと当時、公私ともにパートナーだったロジェ・ヴァディム。
監督や脚本など多才なヴァディムは、性の開発者であり解放者。
独特なエロティックな考えを持っていて、それを実践するような変わり者の男だった。
こんな男とブリジットが知り合ったのが、ブリジットが16歳の時。
ヴァディムの第1印象を見て、ブリジットの両親は「この男は危険だ…」と危惧し、交際には猛反対だった。
「イギリスに行って勉強するんだ!」
「嫌よ!」
だが、時、既に遅し。
内面まで、すっかりヴァディムに感化されたブリジットは激しく抵抗した。
そうして、ガスをひねって自殺未遂まで行ったのだ。
これには、さすがの両親もホトホトこたえて、「18歳になるまでは結婚しない事!」を条件に渋々承諾した。
そして、18歳になると、二人はすぐに籍を入れた。
この映画の冒頭、ブリジットが全裸でうつぶせになりながら、脚をふっている映像があるが、1956年の当時は、これにフランスは大騒ぎ。
フランスでは、検閲に引っかかったが、アメリカが、逆に「画期的」だと後押ししたのだ。
そして、たちまち大ヒット!(ヒットすると、うるさ方の連中たちも、とたんにシュンと黙りこむから不思議だ)
今観ると、たいしたヌードでもなさそうだが、当時としては、度肝を抜かれるようなセンセーションを巻き起こしたのたのだろう。
でも、こんなのはブリジットにとっては、何でもない事なのだ。
だって、日常が、ほぼ全裸で過ごしているんですもん(笑)。
ロジェ・ヴァディムと暮らし始めたブリジットに、ヴァディムは下着を着けさせる事を禁じた。
「下着を着けると、女性本来のセクシーさを解放できなくなる」というのがヴァディムの一風変わった考え方だった。
洋服を着ても下着をつけない。
しまいには、家の中をブリジットは、喜んで全裸でうろつきまわって過ごすようになった。
でも、こんな生活をしていくと、いったいどうなるのか……。
人間というよりは、動物のメスに近づいていくのだ。
そして本能のままに生きて、本能のままにセックスまでしちゃう。
案の定、この映画で知り合ったミシェル役のジャン・ルイ・トランティニャンとデキちゃったブリジット。(兄役の方じゃないのか?)
恥じらいもなく、堂々とした、不倫関係 の始まりである。
そして、ブリジッドとヴァディムはあっさり離婚する。(自殺未遂までして結婚したのに)
その後……
ヴァディムはヴァディムで、離婚してからも、次々、カトリーヌ・ドヌーヴやらジェーン・フォンダなどと浮き名を流しながら映画を作っていく。
ブリジッド・バルドーも負けてない。
離婚の原因になったジャン・ルイ・トランティニャンなんか、簡単にポイ捨て。
次から次へと、男を取っ替えては捨て去る生活。
動物として目覚めたメスの本能は、『ビ、ビ、ビ!』と来たら、猪突猛進。
ただ突き進むだけなのだ。
映画の後半、アントワーヌにフラれて、ヤケクソで結婚したミシェルとの結婚生活に閉塞感を感じて、狂ったようにマンボのリズムにノッて踊りまくる『ジュリエット』(ブリジット・バルドー)。
裸足で、髪を振り乱し腰をフリフリ!
全身をつかって踊るジュリエットは、まるで何かに憑依されたようである。
そんなジュリエットを男たちは、微動だにせず、唖然とした表情で遠目に見ているだけ。
狂い踊るジュリエットは、まるで動物的なメスの本能を、すべて解放しているよう。
そして、それを見るエリック(クルト・ユルゲンス)の目には、
「無理だ!オッサンには、とてもじゃないが、ついていけない……」
と、いうように尻込みしてしまう。
こういう女性は、ガラス越しに、いや、スクリーン越しに観るに限ると思う。
げに、恐ろしや~、ブリジット・バルドー(笑)
バルドーの可愛らしさと同居する怖さを、1度はご覧あれ。
星☆☆☆。