2018年11月10日土曜日

映画 「或る夜の出来事」

1934年 アメリカ。





クラーク・ゲーブルは、カッコいいが、この主演女優クローデット・コルベールを、写真で見たとき、ゴメンなさい!、お世辞にも美人に見えなくて、作品は知っていても放置していた映画です。



クローデット・コルベール………眉も細くて、目も離れている、頬骨もでてるし、口は小さい。




アンバランスな造形のそのお顔は、同じ時代の女優たちに比べても、ん~なんだか、見劣りするように見える。



だが、映画の中で、ひとたびしゃべり、動きだすと、全然印象が180度変わるから、不思議だ。






富豪の娘『エリー』(クローデット・コルベール)は、腹をたてていた。



プレイボーイの『キングウェズリー』との結婚を、父親の『アンドリュース』に反対され、海原浮かぶヨットの上に、軟禁されていたからだ。(この父親の強引なやり方も現代では、もちろん犯罪である)


ハンストのエリーの前で、召し使いに食事を運ばせて、目の前で神経逆撫でするように食事してみせる父親。

怒りわめくエリーは、食事をひっくりかえして大喧嘩。



そうして、ヨットの甲板にでて、海にダイブして泳いで逃げた。(スゲー)




アンドリュースの部下が、あわてて追いかけるが、エリーは見つからない。





見事父親から逃げたエリーは、そのままマイアミから、ニューヨークまでの夜行バスに乗り込んだ。





そこで乗り合わせたのが、失業中の新聞記者『ピーター』(クラーク・ゲーブル)だった。


新聞には、デカデカとエリーを探す記事が載っている。



そうして、ピーターの目の前には、令嬢エリーの姿が。

「こりゃ、特ダネのチャンスじゃないか!」






ピーターはエリーに近づくと、自分の捜索願いの記事を見せた。



「何よ?これ?!これじゃ、あたし逃亡犯と同じじゃないの!」


「あんたが駆け落ち相手に会いに行こうと、俺は構わない。その代わりに俺はどこまでも、あんたに付いていって、特ダネを書かせてもらうぜ」




エリーのゴシップ記事目当てに、ピーターは、世間知らずのエリーの逃避行を、付き合う事にしたのだった。


「ふん!何よ!勝手にすれば!」なんて言いながら、あくまでも強気のエリー。





当然、次のバスに乗り込むと、エリーは、ピーターを避けて座っている。




だが、エリーは、バスの中で酔っ払いに絡まれはじめた。


元来、人の良いピーターは、それを黙って見ておられなくなり、お節介で、「妻に何の用ですか?」と、嘘をついてかばいだて。



酔っ払いから守ってやると、自分の隣の席に、エリーを座らせてやるのだった。



(やれ、やれ、世間知らずのお嬢様だな……)

(この人……もしかして、いい人なの?)



お互い、こんな想いがかけめぐる。





そうして、バスは夜の道を進んでいく。

だが、しばらく走ると大雨になり、運行中止。




(こんな大雨に、バスからだされて、今夜、どこで過ごせばいいのよ~?)




途端に不安になりだすエリー。

だが、ピーターが雨の中、一室空いている部屋のモーテルを探してきた。





ずぶ濡れになりながら部屋に駆け込んだ二人。




「助かったけど、わたしに近づかないでよ!」

「もちろんだ!」



部屋の間にカーテンを吊るして、エリーの警戒心を解く。

鼻唄を歌いながら、ピーターは寝てしまった。



そうして、エリーも安心して床に入る。


眠りにつく前、エリーはピーターの気遣いに感謝して、少し微笑むのだった………。






クラーク・ゲーブルが、紳士で(口は悪いが)異常にやさしい人物を演じている。(風と共に去りぬのレッド・バトラーとは大違い)




世間知らずのエリーの為に、エリーが起きる前に、エリーの濡れた服を乾かしてやったり、朝食のスクランブル・エッグをつくってやったり(安いモーテルだから自分で用意するのか)コーヒーまで淹れてやるほどマメな事。



父親の雇った探偵がモーテルを探し回ってくれば、エリーに合わせて演技までしてくれる。



酔っ払いのシェプリーが、新聞の報償金目当てでゆすってくれば、マフィアのボスの演技までして追っ払ってくれる。







だんだんと、二人の心の距離が近くなっていく過程を丁寧に描いていく、フランク・キャプラ監督は流石。




バスを降り、二人歩き、喧嘩しながら、納屋で寝泊まりし、旅は続いていく。






クローデット・コルベールも、世間知らずで、わがままで、でも育ちがよくて、さみしがり屋のエリーを魅力的に演じている。


そして、話が進むと、だんだん可愛らしくみえてくるんだからウマイと唸るしかない。





この映画は、アカデミー賞(作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚本賞)と総なめにした。



納得。

それくらい、主演のふたりは素晴らしいのだ。

CGもない、カラーでもない、映画に資金もそれほどかけられない時代。

演技と脚本だけがすべて。

安易に、パート2、3、4……を繰り返しつくり続けるアメリカ映画に、たまに振り返って思い出してほしい。



この名優、監督たちを。

星☆☆☆☆である。