2022年5月1日日曜日

映画 「わが谷は緑なりき」

 1941年  アメリカ。





オッ!誰だ?この可愛らしい少年は?!


知る人ぞ知る ……

『猿の惑星』や『ポセイドン・アドベンチャー』、『処刑教室』、『地中海殺人事件』などなど …… 名脇役として晩年まで活躍した、あの、ロディ・マクドウォールの子役時代のお姿なのであ〜る。

ロディ・マクドウォール


とにかく浮き沈みの多い映画界。


子役スターで大ブレイクしても、その後は鳴かず飛ばずになるのが、ほとんど。


そうして、その後の人生、悲惨な末路を辿るのが、ほぼお決まりのコースである。(それぞれ思い描く人物がいるだろう)



この人くらいじゃないのかな?


子役でデビューしても、その後も上手く青年期を乗りきって、重鎮な脇役として、生涯無事に活躍された俳優って。(ハリウッドでは稀な成功例なのかも)



こんな、マコーレー・カルキンにも似たような(んん?(笑))可愛らしさを持つロディ・マクドウォール少年は、映画界にデビューすると、早速、あの巨匠からお声がかかる。


西部劇でならしたジョン・フォード監督である。


この『わが谷は緑なりき』は、フォード監督にしては、珍しく西部劇ではない。


19世紀末のイギリスはウェールズ地方、山あいにある、小さな炭坑町で働く人々の生活を描いている。


そして、ロディ演じるヒュー・モーガン少年の目を通して全編が描かれているのだ。(幼い頃の自分の思い出を回想しながら、語り部として。実質上、影の主役なのである)



丘の上にある炭坑工場には、毎朝、大勢の男たちが、日々の糧となる賃金を稼ぐ為、出勤していく。


男たちは煤(すす)だらけで、全身真っ黒になりながらも黙々と働いている。


そんな男たちが家路に着くと、女たちは薄汚れた身体を洗ってあげながら、美味しい手料理で精一杯もてなすのが、毎日の日課なのである。



もちろん、モーガン家でもソレにならって生活している。


一家の家長『ギルム・モーガン』(ドナルド・クリスプ)。

成人した立派な体躯をした五人の息子たちも、皆、同じ工場で働いている。



そんな夫と息子を支える妻の『ベス』。

一人娘の『アンハード』(モーリン・オハラ)は、母親の手助けしながらクルクルと働く。



そんな一家に、もう一人。

歳の離れた末っ子の『ヒュー』(ロディ・マクドウォール)がいて、皆に溺愛されながら育っていた。


父も母も、五人の兄たちや姉のアンハードも、幼いヒューには特別に優しい。(末っ子って得だ)




大家族モーガン家の暮らしぶりは、日々、こんな具合である。



そんな折、長男であるイヴォールの結婚式が町の教会で盛大に挙げられた。



結婚式を執り行うのは、着任したばかりの若い牧師『グリュフィード』(ウォルター・ビジョン)である。




そんなグリュフィード牧師に(一目惚れして)熱い視線をおくるアンハード。(あらあら)



その夜、町の人々が大勢集まり、モーガン家では賑やかな宴が行われる。



こんな幸せな日々が延々続くと信じて、全く疑わなかった人々 ………

だが、次の日から町は不穏な空気に包まれはじめるのだ。




工場のいきなりの賃金値下げ ……(ゲゲッ)



もちろん、コレに納得出来るはずもなく、男たちは、全員で大ブーイング!(ブー!ブー!)


「組合を作って、断固闘おうじゃないか!エイエイオー!!」



全員一致の意見の中、モーガン家の家長であるギルムだけが、なぜか一人だけ反対する。


町の人々は、そんなギルムを疎んじはじめ、息子たちにもソッポを向かれてしまう始末。



だが、妻のベスや娘のアンハード、幼いヒューの気持ちは変わらない。


いつだってギルムは、尊敬する立派な父親像なのである ……





小さな炭坑町の衰退、時代とともに変わりゆく人々の生活を、映画は淡々と描いている。



やってる内容は、けっこうシビアでハードなのだけど、なぜか?この映画に限ってはドヨ〜ンと暗くならずに、カラッ!としていて、逆に晴れやかな気分になるのだから不思議だ。




暗い内容の話を、そのまま暗く描く事は、誰でも思いつくような凡庸な事。



ソレを、反対に《明るく》、《晴れやか》に観せているところに、巨匠ジョン・フォード監督の非凡な才能がキラリと光っている。(この辺りが、現代の監督との埋められない《才能の差》なのかもしれない)



まるで、ソレを、そのまま暗く描く事は《芸無しの仕事》とでも言ってるようである。(コホン!心してよく聞いておくように(笑))




オマケに、この映画も止め絵にして、そのまま額縁に入れて飾りたいほどの、美しい構図のショットがバンバン!映像として映し出される。



本当に綺麗。ほとんど絵画である》




これぞ、天才職人のなせる技。


満場一致でアカデミー作品賞受賞も納得の出来栄えなのである。(この頃のアカデミー賞は権威があったなぁ~。今じゃ選ぶ人間たちが節穴だらけで、ダメダメだけど)





そうして、もちろん、幼いヒュー少年にも、ちゃんとしたドラマが用意されている。




真冬の川に足を滑らせた母親を助けるため、あわや凍傷で下半身麻痺。(寒そう〜!何とか回復してホッ!)



学校ではイジメっ子に《炭坑町から来た田舎モン》呼ばわりされて、ズタボロで帰宅する。



見かねた兄たちがボクシングを伝授して、イジメっ子には勝てるようになるも、今度は意地悪な鬼教師に失神するほど鞭打たれたりもする。(もう、この子も次から次に災難続き。踏んだり蹴ったりだ)




でも、「大の大人が子供を、ここまでいたぶるなんて、とても許せん!!」と、クズな鬼教師には、自ら出向いて行き、正義の鉄拳をお見舞いする炭坑町の仲間たち。(この部分、最高にスカッ!とするぜ)




一方では、美しい姉の『アンハード』(モーリン・オハラ)と牧師の叶わぬ恋を描きながらも、変わりゆく炭坑町の日々は、ゆっくりと過ぎてゆく ……





この映画を観たのは数十年ぶりだったが、やっぱり色褪せない傑作で面白かった。



未見の方には是非オススメしとく。


偉大な監督ジョン・フォードを語る上で見過ごせない、至極の一本である。


星は、当然!☆☆☆☆☆。(映画『船乗りシンドバッドの冒険』の頃よりも若い、モーリン・オハラも特別綺麗だよ~)