1946年 アメリカ。
「今朝、掃除に行ったら先生が床に倒れていたの」
高名な医師ベラルタは、背中を短剣で刺されて、自宅の部屋で絶命していたのだ。
清掃員やアパートの住人たち、秘書の証言では、どうも《コリンズ》という若い女性が怪しそうである。
捜査にあたった『スティーヴンソン警部』(トーマス・ミッチェル)は、早速、その問題の女性『テリー・コリンズ』(オリヴィア・デ・ハヴィランド)が働いている医療ビルの売店へと向かいながらも、
(この事件は簡単だ。犯人はきっと彼女のはず。これで事件は万事解決だ!)と、一人ほくそ笑む。
だが、そう上手くいくのかな?
ベラルタ医師が殺された頃、テリーには現場から7キロも離れた場所での完全なアリバイがあったのだ。
(どうなってるんだ?!目撃者の証言も全て彼女に一致するのに……)
ベラルタの事件を警部から聞くと、失神して倒れる彼女。
それを見て、その場にいた人たちがテリーの介抱の為に次々と駆けつけてくる。(なんせ医療ビルだし医者もいる。それに彼女は美人なのだ。)
(ヤレヤレ……どうも演技くさいが。ここはひとまず出直すか……)
警官にテリー・コリンズのアパートを見張らせておいて、その夜、スティーヴンソン警部は再度訪問してみると……
ゲゲッ!
同じ顔の女が二人?!
そう、テリーには一卵性双生児の『ルース』(オリヴィア・デ・ハヴィランド二役)がいて、二人は一緒に暮らしながらも、チョイチョイ入れ代わって、誰にも気づかれないように職場でも働いていたのだ!
「どっちがベラルタを殺したんだ?!」
「さぁ、どちらかしらね」ひとりが警部を、鼻で笑いながら微笑む。
「と、とにかく、どっちかが犯人なんだ!二人とも逮捕する!」
だが、逮捕してみて、目撃者に面通しをしてもまるで判別出来ない様子。
「無理です!コレじゃ、どちらがどちらだか分かりません!」
折角しょっ引いてきてもお手上げ状態。
「警部、これでは裁判にすらかけられない。二人を開放するしかないのだ」
「そんな?!どちらか一方が、絶対に犯人のはずなんだ!」
苦渋の決断で、警察はテリーとルースの姉妹を、あっさり釈放するのだった。
だが、どうしても諦めきれないスティーヴンソン警部。
警部は、テリーが働いていた医療ビルで心理療法を営む若い医者『スコット・エリオット博士』(リュー・エアーズ)に助けを求めた。
「頼む!あんたなら二人を見分けられるかもしれない。どちらが犯人なのか突き止めてくれ!」
気が進まないスコットなのだが、警部の熱心さに、とうとう折れて、様々な心理テストを試みてみようと約束する。
そうして、しばらくすると、姉妹の性格も徐々に区別がつくようになってきた。
ハキハキ物事を言う《テリー》に、少し気弱な《ルース》。
だが、どちらかが残酷な殺人犯であり、《真犯人》なのだ!
やっと念願の『暗い鏡』を観れました。
この日をどれだけ待ったことか………
監督は、私が目下、ご贔屓にしているロバート・シオドマクなので、これも傑作だろうと思っていたら、案の定、傑作でございました。(『らせん階段』、『幻の女』、『真紅の盗賊』もご覧あれ。どれもこれも見応えあり)
《テリー》が犯人なのか?、《ルース》が犯人なのか?……この映画は、この一点だけに絞り込んだ本格ミステリーになっている。(なのでネタバレは控えておきます。これから観る人の為にもね)
それにしても、………
どう撮影してるんだろ?コレ?!
1946年ゆえ、まだそんなに合成技術も発達していないはずなのに、まるで違和感がない!
もちろん、実際のオリヴィア・デ・ハヴィランドは双子じゃないのはご承知。(妹で同じような女優さんのジョーン・フォンティンはいるけど)
冒頭に貼り付けてある画像なんて、皆さんどう思います?
オリヴィアをオリヴィアが抱いてる絵面なんて、ハッキリ言って「もう、訳が分かんない!」の一言です。(似た人がいた?まさかね~)
コレが撮影なら、当時としてはトンデモない高度な技術である。(さすがロバート・シオドマク監督!恐るべしである)
そして、シオドマク監督も凄いが、その撮影方法に合わせて演技しているオリヴィア・デ・ハヴィランドも、これまた凄い!
姿は同じでも、その中身は全く違うテリーとルースを完璧に演じ分けている。
それを観ている人に違和感なく見せてるのだから、本当に大した女優さんである。
話は変わるが、つい最近(2020年7月)、オリヴィア・デ・ハヴィランドが亡くなった。
104歳の大往生だった。(スゲ~!)
このニュースは世界各地に飛び交い、日本でも、その訃報を伝えたのだが……私は少々気になったこともあった。
どのニュースでも、
「『風と共に去りぬ』のメラニー役で有名なオリヴィア・デ・ハヴィランドさんがお亡くなりになりました……」
こんな具合なのである。
もちろん、『風と共に去りぬ』は有名だけど、『メラニー』は主役じゃない。
死んでも尚、貞淑な妻、心優しいメラニー役ばかりをクローズアップされてるのを、本人が知れば、あの世で(プンプン!)憤慨してそうな気がしてくる。
妹のジョーン・フォンティンに、先にアカデミー賞をとられて、嫉妬の炎をメラメラと燃やしながらも、生涯「女優としてやりがいの役を!」と、求め続けたオリヴィア。
そんな、本来は勝ち気でいて、負けん気の強いオリヴィアは、実際はメラニーとは真逆の性格だったと思うのだ。
「私にはアカデミー賞を受賞した『女相続人』や『遥かなる我が子』だってある!『蛇の穴』だって有名だ!私の他の作品を観なさいよ!」
こんな声があの世から聴こえてきそうである。(ゴメンなさい!私観てませんでした!これから、ゆっくり追いかけますので (-_-;) ハイ!)
『暗い鏡』は、そんなオリヴィアが残した、演技派としての良質な一本。
診察する若いスコット医師をはさんで、仲の良かった姉妹にも、微妙な恋愛感情や亀裂がうまれてくる様子は、中々の迫力で見応えあり!
オススメしとく。
星☆☆☆☆。
※《追記》映画のオリヴィアを観ながら気づいたこともあった。
このオリヴィアの髪形、なにかを連想しません?
トップをリーゼントのようにボリュームをもたせて、両サイドはクルンとはね上げて巻いたような髪。
あの、漫画の《サザエさん》にそっくりなのだ!(笑)
漫画のサザエさんの連載が始まったのが昭和21年(1946年)。
この映画だって1946年だ。
案外、作者の長谷川町子は、こんな当時のオリヴィアたちがやっていた髪形に影響を受けてたのかもしれない。
でも、これが当時としては最先端のオシャレな髪形だったのかねぇ~?
いや、いや!
やっぱりヘンテコリンな髪形である (笑)