2021年12月19日日曜日

映画 「ぼくらの七日間戦争」

 1988年  日本。





80年代、時はバブル真っ只中!


猛勢を誇る角川事務所は、この時期、向かうところ敵なしの無双状態である。



とうとう小説だけでは飽き足らず、1985年には漫画雑誌まで刊行してしまう。



それが、少女漫画雑誌『月刊 ASUKA』。



その創刊号から、ドドーン!と看板作品に持ってきたのが、雑誌名をタイトルに入れて、しかも主人公の名前を『あすか』にするという、『花のあすか組』である。(あらためて凄い戦略)



白泉社から漫画家『高口里純』を引っ張ってきて、中学生同士の不良抗争漫画を描かせる。


80年代といえば、世はまさに、《不良ブーム》なのだ。


漫画でも、ドラマでも、映画でも……とにかく《不良》を題材にしとけば、必ず大当たりする!(安易だと思うが事実そうだったのだ)


スケバン刑事』や『ビー・バップ・ハイスクール』、『不良少女と呼ばれて』、『ヤヌスの鏡』などなど……



特に、少女が日常にある武器で闘うという『スケバン刑事』は、一歩抜きん出ていた感があり、主人公『九楽あすか』も《金貨》を武器に闘いを繰り広げる。(だいぶ『スケバン刑事』に影響されている感じだなぁ~)



でも、この武器の《金貨》、一回投げつけたらそれっきりである(笑) 


銭形平次のように何枚も持ってるわけではないのだ。

たった1枚きりの《金貨》の武器。


なので、その後は急にワタワタするという (笑) 。(その後、金貨に穴を空けて長いチェーンを取り付けて、なんとか手元に返ってくるようにするのだけどね)



とにかく戦略は、なんとか成功して、『花のあすか組』は漫画作品として、徐々にヒットしはじめた。


こうなると、「待ってました!」とばかりに、映像化に踏み切る角川事務所。


それも《ドラマ》と《映画》の同時進行という、かつて無い戦略を打ち立ててきたのだった。


ドラマでは、小高恵美を、映画では、つみきみほを、それぞれ主役にする。


もちろん、角川春樹が俄然期待をよせているのは《映画》の方である。


ひとまず、映画は冬からじっくりと撮影に入り、その年の夏休み、8月公開となった。



そんな時、太っ腹な角川春樹は、急にこんな事を思いつく。


「『花のあすか組』と同時上映で、もう一本映画を作ろうか?」と。



ただ、同時上映に選ばれた作品『ぼくらの七日間戦争』には、特に期待もしていなければ、たいした想い入れもなかったはずである。


「まぁ、戦車は高くつくが、撮影は、ほぼ廃工場と学校で済むし、普通の映画制作費よりも安上がりで済むだろうさ」


現実は、こんな算段だったろうと思うのだ。



冬服を着ている『花のあすか組』のつみきみほと、涼しそうなタンクトップを着ている『七日間戦争』の宮沢りえを見比べれば、それは一目瞭然である。(『七日間戦争』の方は撮影期間も短かったはずだ。8月公開前に合わせてバタバタと撮り終えたのだろう、と推測する)




こんな風に準備は整えられて、映画よりも、ひと足早くに、ドラマ『花のあすか組』はスタートしたのだが……



全く人気がでない、ドラマ『花のあすか組』。(笑)



『スケバン刑事』の田中秀夫監督まで連れてきて、主題歌はBaBeが歌ってるのに。



とにかく、主役『あすか』を演じている小高恵美の人気が、どうにもこうにもサッパリなのだ。(「脇役の石田ひかりの方が可愛いのに……」という声もチラホラ)



オマケに、あすかの敵であるお嬢様『ひばり』役には、あの!『アリエスの乙女たち』に出ていた、佐倉しおりである。(出た~!)




小高恵美佐倉しおり……ともに 眼の下の《隈(くま)》が、もの凄いことになっている二人😱



ドラマを観ながらも、

「疲れてるの?疲労が溜まってるんじゃないの?」って、視聴者が心配してしまうくらい、二人の形相はヒドイのである。



こんな風で人気が出るはずもなく……ドラマは当時としては、最短の23話で早々に打ち切りが決まってしまうのだった。(この時代、二人の《隈》をカバーするようなメイク技術は無かったのか?)



「こ、こうなりゃ映画の宣伝だけでも…(-_-;)」



中盤から、このドラマはあり得ない展開をみせる。



なんと!未来からタイムスリップして来た、もう一人の『あすか』(つみきみほ)がドラマに登場して、『九楽あすか』(小高恵美)と対峙するのだ。(原作無視。ドラマ展開も無視。これはSF? もう、ムチャクチャである)



とにかく、後はテレビやイベント、雑誌で、映画『花のあすか組』の宣伝につぐ、宣伝!




そうして、映画が公開されると………



見事に映画『花のあすか組』はコケた。(ハハハ (笑) )


原作を無視して、舞台を未来に変えて、『あすか』の人物設定も大幅に変えている映画版は、あまりにもマニアック過ぎた。(なんと!《金貨》ではなく、銃を持つあすか)


原作フアンからは全く相手にされず、大ブーイングの嵐!である。(だろうな)


映画は3億超えの収益を挙げながらも、大赤字となる。



ドラマと映画で主役を演じた、小高恵美つみきみほも、その後は尻すぼみに消えていく……(可哀想に)



代わりに、世間の注目を浴びたのが、全く期待されていなかったぼくらの七日間戦争だった。



たいした宣伝もされず、制作費もかなり安上がりに作られた『七日間戦争』は、次第に口コミで伝わり、大人気となる。


「面白いーー!」


宮沢りえ、可愛いーー!」(ムチムチ)


宮沢りえはアイドル的な人気を得る。(まぁ、宮沢りえの演技も、かなり下手くそなんだけど、群像劇ゆえに粗(あら)が目立たない。ラッキーといえばラッキーな幸スタートである)




原作の宗田理(そうだおさむ)の文庫本も飛ぶようにバカ売れし始めて、ロングセラーとなり、『ぼくらの……』は続々とシリーズ化されていく。


主題歌のTMネットワークが歌う『seven days war』も大ヒット。


テレビ放送も何度かされると、上々の視聴率を得る。



生徒たちが決起して、大人たちに反乱を起こす物語なのだが、子供も大人も殺伐としたモノにならないよう、充分に配慮されている。(なんせ中学生だし)


《戦争》なのに、安心して観られるという、稀な仕上がり具合。


それに、ジメジメした雰囲気にもならずにカラッとしていて、最後には妙な爽快感まであったりする。(夜空に打ち上がる花火に、皆が心洗われる)



それまで《学校からハミ出した不良》といえば、《壮絶な闘いや抗争》になるのがお決まり。


どちらかというと、ダーク・サイドに堕ちていくイメージである。



それの真逆にして、ライト感覚にしたのが、この『ぼくらの七日間戦争』なのである。(本当に、世の中、何が当たるか分からんよね~)



もちろん、『ぼくらの……』は、今観ても面白いし、名作だと思うのだが、当時はこんな事も思ってしまった。


「これで《不良》を題材にした映画やドラマも終わりかも……」とも………



そんな自分の勘が当たるように、学園不良ドラマや映画などは姿を消していき、徐々に衰退してゆく。



そうして、この時から角川春樹の直感も少しずつ、世間が求めるモノとズレが生まれてきたような気がするのだ。



80年代は終わり、90年代へ……


ちょうど、そんなターニング・ポイントに位置するような映画なのかも、この映画は。


星☆☆☆☆。


※なんだか読み返すと、『ぼくらの……』よりも、だいぶ『花のあすか組』の割合が多いような……まぁ、笑って許してくだされませ ( (~_~;) 汗 )