1980年1月~9月。(続ぬかるみの女 1981年9月~12月。)
『花登筐(はなと こばこ)』という方をご存じだろうか?
この名前を知っているのも、もはや自分のような50代が最後、ギリギリかもしれない。
戦後、小説や脚本家として特に有名だった方で、書けば、必ずドラマ化や映画化されて、それらはいずれも大ヒットした。
昭和ブームの立役者……『細うで繁盛記』、『どてらい男(やつ)』、『あかんたれ』などは特に有名である。(これも知らない人も昨今では増えてるんだろうなぁ~)
アニメでは、『アパッチ野球軍』の脚本を書いたり、漫画では水島新司の『銭っ子』の原作者でもある。
歌の作詞だってしちゃう。
とにかく幅広い創作意欲に生涯、長けた稀なお方だったのである。
そんな『花登筐』先生の原作で、自分がよく観ていたドラマが、これ!
《ぬかるみの女》なのだ。
♪ネオンが映るぬかるみを~避けて通れる女なら、甘い~誘いも~見抜けます
♪そんな自信があったのに~、うっかりハマる嘘の罠
♪女ひとり、女ひとり、いつまで続く~
この主題歌(もちろん作詞も花登先生)を、しっとりと歌い上げるのが、若き日の石川さゆり。
この曲、何気に名曲なので紅白で歌ってくれないかなぁ~(『津軽海峡』と『天城越え』のリピート、もう、いい加減飽きた (笑) )
この歌詞を見れば分かるように、このドラマは、水商売の世界に身を投じた女性の物語。
主役は、とても水商売なんて世界とは縁遠い、和服が似合う清楚な美人『星由里子』さん。
下関で女学校を出た『文子』(星由里子)は、戦後のドサクサで、博多で結婚し、1女2男の子供をもうけるが、亭主が根っからのダメ人間。
キャバレーのダンサーにのめり込んで、家も土地も手放してしまうという、スッカラカン状態に。
とうとう、そんな亭主に愛想を尽かした文子は離婚を決意する。
幼い子供たちの手をひいて、見知らぬ町、大阪へ……時は昭和28年。
(大阪には下関時代に父の知り合いだった桐山のおじ様がいるはず……優しかった桐山のおじ様……きっと私の力になってくれるはずだわ……)
だが現実は厳しく……そんな文子を『桐山』(三橋直也)は冷たく突き放す。
「今の時代、女が一人で生きていくには《水商売》しかない!君はキャバレーで働くダンサー(今の時代ではホステス)になるんだ!」
ガーン!!( ̄▽ ̄;)
あれほど、意味嫌っていたダンサーを!この私にやれ!と?!
嫌よ!イヤイヤ!!
すっかり当てがハズレた文子……でも、振り返ればお腹を空かせた3人の子供たちがいる。
桐山は、当座の生活の為に、資金を貸してはくれたが、「後は自力で何とかしろ!」の一点張り。
安アパートをやっと探すも、電球もない、ちゃぶ台もない、食べるものもない。
無い無い尽くしの貧乏生活。
そんな生活に追い討ちをかけるように、月末になればアパートの大家が家賃を取り立てにやって来る。(この大家が、またスゴい見た目。総金歯で、アパートの住人からは『緑獅子』なんて呼ばれてる)
「ちょっとアンタ!払うもん、ちゃんと払ってや!!払わんなら、とっとと出てってもらうで!!」(コッテコテの大阪弁)
文子も、とうとう決心する。
「もう、やるしかない!!子供たちのために!生活の為に!!」
キャバレー《メトロ》のダンサー(ホステス)として働く事になった文子。
店での源氏名は《準子》という名前を与えられた。
働くためには、店で着るドレスが必要なのだが……(トホホ……お金が無いので1着しか買えない)、散々迷って、文子は白いドレスに決めた。
「せめて心だけは、このドレスのように純白でいたいから……」(白いドレスなんて、汚れも目立つのにねぇ~)
それを毎日せっせと洗濯して、一張羅で頑張り続ける文子なのであった……。
こんな感じで始まる《ぬかるみの女》なのだが、私、本放送を残念ながら観ていない。(だって当時、月曜から金曜のお昼13時ですもん。さすがに学校行ってました)
そう、このドラマは、あの『真珠夫人』や『牡丹と薔薇』など名作を産んだ東海テレビの枠なのである。
このドラマ、よっぽど評判だったのか何度も再放送されており、私が観たのは早朝やっていた再放送。
その再放送をたまたま観てしまい、見事にハマってしまったのでした。
この主人公『文子』を演じている星由里子さんが、あまりにも清純そのものそう。(子供が3人もいるのに)
はかなげなお嬢様風で、突然、こんな境遇に置かれてしまった文子に、「大丈夫か?」と観ながらも、心配して毎回ハラハラ。
なんせ、文子以外のキャラクターが、見た目も中身もドギツイ人間たちばかりなんですもん。
「金歯がうずくぅ~」が口癖の総金歯の大家もだが、メトロのNo.1ホステス『アケミ』なんか、見た目も中身も超イジワル。(こんなにイジワルそうなのに、こんなのがNo.1だなんて、どんな店?( 笑 ) )
「ちょっと準子!!アンタ、よくもあたしの客に色目なんか使って奪ってくれたわね!! 許さないから!!🔥🔥🔥」
白いドレスは、案の定、アケミの意地悪で汚されてしまい、家に持ち帰って洗濯するも、「取れないわ……どうしよう……」(ほれ、みたことか)
でも、こんな準子(文子)にも、とりあえず味方ができた。
先輩ダンサーで、接客のプロ。
店やお客にも信頼されていて、人間性にも優れた女性『清美さん』(水野久美)である。
「準子、お客さまの気持ちになって、《どんな接客をされたら、居心地が良いか》……それを、まず考えなさい。あなたなりの接客方法を探すのよ」
「上に上がっていくためには、まず《目標》をお持ちなさい」
人生の先輩として、ベテラン・ホステスとしての経験を踏まえた上で、決して押しつけがましくもなく、時折、助言してくれる清美さん。(なぜ?この人が、店ではナンバー3か4に甘んじているのか分からないけど……影のNo.1ホステスは、実質上この人である)
「私なりの接客方法……」
『準子』(文子)は、考えはじめ、自分なりの接客方法を実行してみては、どんどん店の中で頭角をあらわしていく。
客にお礼状を書いて送ってみたり、
店に来た客には、床に膝をついて両手を合わせて「いらっしゃいませ」と挨拶してみたり……
やがて準子の接客方法は大勢の客たちを呼び込むくらいの評判になり、同じアパートに暮らす、メトロの落ちこぼれダンサーたちも巻き込んで、その輪は次第に広がっていくのだ。(落ちこぼれダンサーの中には、あの漫才トリオ『かしまし娘』もいたりする)
そんな準子(文子)の活躍にアケミの嫉妬が、またもやメラメラ
「おのれ~準子! 生意気な…今にみてなさいよ!!🔥🔥🔥」
(お~怖っ((( ;゚Д゚)))ガクガク、ブルブル…)
清美は清美で「やっぱり私の見込んだとおり……」と、ひとりほくそ笑む。
博多からは、前の旦那の弟『正和』(三波豊和)までやって来て、準子の店でボーイとして働きはじめたりもする。
「バッテン!義姉さん、なんとか助けてくだっさい!」(大阪でも一人、博多弁のコイツ。もはや赤の他人なのに、前の義理の姉に泣きついてくるなんてねぇ~)
それでも、懐の広いところを見せる『準子』(文子)。
「頑張りましょう、正和さん!一緒に、この《メトロ》で!!」
接客術の成功は、いつしか準子に、人間としての懐の広さまでをみせるような、大きな《自信》をつけていたのである。
やがて、紆余曲折ありながらも、自分の店までも持つようになっていく準子のサクセス・ストーリーにいつの間にかグイグイ引き込まれていく……。
お客さまをもてなす《気遣い》や《心遣い》……接客業に携わる人間なら、こんな昔のドラマでも、『準子』のような考え方を参考にしてはいかがだろうか?
星由里子さんに、星☆☆☆☆。
観はじめるとハマるぞ~!