1952年 アメリカ。
石のように広くて固そうな額。
両目は極端に離れていて、暗い影ができるほどの碧眼。
その間からスーッと伸びている大きくて長い鼻。
口は、これまた横に広がるほど、かなり大きい。
こんな独特な顔を持つ《バート・ランカスター》。
子供の頃に初めて写真で見た、こんなランカスターの顔は、ハッキリいって超怖かった。
顔のインパクトが凄すぎて、写真だけでも、こちら側に迫ってくるような妙な圧迫感を感じた覚えがある。
(こんな顔の人が向こうでは人気あるのか…)
イケメンとも思えず、ただ怖い顔のランカスターには、なんだか近よりがたい気がして、たまに映画雑誌に載っていても、なるべくスルーする事にした。(なんせ子供なもので)
バート・ランカスターの映画を初めて観たのは二十歳の頃だったか……。
レンタルビデオ全盛の時代に、なにかの間違いで、ランカスターの『泳ぐ人』を借りてしまったのだ。
予備知識もなく観た『泳ぐ人』は、ハッキリいって「???」とクエスチョン・マークが並ぶくらい訳がわからなかった。
なんせ、海パン一丁のランカスターが、あちこちにあるプールというプールを泳ぎ渡るという、珍妙な映画である。
「これ、面白いか?…」ってな感じで「バート・ランカスターはもういいや……」とあっさり退散したのだった。(なんせ、二十歳なもので。訳のわからないモノは、即スルーする)
そして、時が流れて数十年……
50代になって、久しぶりに観たランカスターの映画が《真紅の盗賊》なのである。
18世紀初頭、スペインでは現総督と、そのやり方に抵抗する共和派の反乱軍との闘いで、まさに一触即発状態だった。
そして、反乱軍のリーダー《エル・リブレ》には多額の賞金が政府によってかけられている。
そんな折、《真紅の盗賊》こと『バロー』(バート・ランカスター)は、仲間の海賊たちと協力して、航海中のスペイン船を襲った。
だが、襲った船には銃や弾薬ばかりで金目当てのモノすらない。
他の海賊たちからはブーイングの嵐。(ブーブー)
なんとか部下たちを鎮めようと、船長バローは考えた。
「そうだ!反乱軍たちに銃や弾薬を売りつければいい!ついでにエル・リブレを捕まえて引き渡せば賞金がもらえるはずだ!!ウッシッシ……」(そうそう上手くいくのかねぇ~)
海賊船とスペイン船を交換して、リブレがいるという《コブラ島》を目指した海賊一行。
コブラ島では反乱軍たちに警戒して、港では、衛兵たちが厳戒体制で待ち構えている。
「オマエらはここで待機していてくれ!俺はオホーを連れて二人でリブレを見つけてくるから。」
沖合いにスペイン船を停めると、口のきけない手下『オホー』(ニック・クラヴァット)だけをつれて小舟に乗り込むバロー。
二人を乗せた船は、静かに静かに、見つからないように、コブラ島へと進んでいくのであった……。
こんな冒頭で始まる『真紅の盗賊』。
一応、簡単に書いてみたけど……ここまでが、すごく単調。
途中でやめようかな~とも思ったくらいで「やっぱりランカスターの映画とはソリが合わないかも……」なんて考えもチラホラ。
それでも、辛抱して観続けていると、バローとオホーがコブラ島についてから、映画は様相をガラリと変える。
まるで急にエンジンがかかったように、俄然面白くなりはじめるのだ。
バローとオホーは島に上陸すると、はて?考えた。
どうやって共和党の反乱軍に近づけばいい?(なんだ、何も考えてないのかよ)
ええーい!出たとこ勝負よ!!
衛兵たちのいる前でいきなりバローは叫んだのだ!!
「俺たちは共和党だぁー!!」と。
その言葉を聞いた衛兵たちは、途端に顔色を変えて、「なぁにぃ~!!」とばかりに二人を捕らえようと、全速力で追いかけてきた。
バローもオホーも、(こっちの作戦どおり)と余裕綽々。
とうとう衛兵たちによって防波堤まで追いつめられた二人。
どうするか?と思っていたら、
なんと!!真下の砂浜(ゆうに高さは3m以上はあるだろうか)に、ポーン!とバック転。
そのまま着地すると、平気で走り去る二人。(もちろん、スタントマンではなく本人たち。時代ゆえCGなどない)
今度は街中に逃げてきた二人は衛兵の集団たちと、グルグル周りながら追いかけっこ。
スコップを見つけば衛兵たちに砂をかけて、階段まで上がってきた衛兵たちには、「えい!やぁー!」とばかりに槍を向けて、衛兵の集団をなぎ倒す。
街の店先の屋根のテントは、まるで二人には遊びのトランポリン。
ピョンピョン跳ね回り、追ってきた衛兵がいれば、剣でビリビリと屋根を切り裂いて、哀れ、衛兵たちは地面へと真っ逆さま。
もう、ビルとビルに掛けられた洗濯物を干しているロープなんて、二人には格好の遊び道具だ。
あっちのビルへ、こっちのビルへと、ロープウェイの如く、自由自在に移動する。
そして、今度は、ビルに突き出た鉄棒(多分、旗をかけるモノじゃないか)に、飛び上がる『バロー』(バート・ランカスター)。
それにぶらさがり、華麗に回転すると、手を離して、さらに真上にある鉄棒を「ガシッ!」と、つかんだ。
そのまま、またもや、勢いをつけて、ぐるりと回転。
そして、その鉄棒の上に、ピタッ!と立ったのだ。(やってることは、もはや体操の段違い平行棒と一緒である。)
『オホー』(ニック・クラヴァット)もバローの後を追うように、それに悠々と付いてくる。
そんな二人の所へ屋上から、スルスルと下りてきたロープ。
二人がロープを楽々昇っていくと、騒ぎを聞きつけた反乱軍たちが、二人を助けにやってきたのだった。
反乱軍たちのアジトまでたどり着くと、匿(かくま)われた二人。
やっと衛兵たちをやり過ごした二人は、反乱軍に合流する事が出来たのだった………。
ここまで書いてみて、観ていない人にも上手く伝わっただろうか?
本当に何者なのだ?!《バート・ランカスター》、君は!!(笑)
とても既存の俳優たちが持っているような身体能力なんかじゃない!
そんなモノなんかを遥かに凌駕している運動神経である。(オリンピックに出れば確実にメダルが取れるはず)
このオホー役のニック・クラヴァットにしても、並の運動神経じゃないのは確かだ。(もう、どっちも「化け物か!」ってくらい凄すぎる)
多少調べてみると、バート・ランカスターは元サーカスの花形だったみたいで、アクロバットなんてのはお手のものなのだ。
ニック・クラヴァットはその時の相棒なのである。(なるほど、それでこの運動神経……それにしても、もう見事としか言いようがない)
映画は、この後も、もちろん続いていき、リブレの娘コンスエロに恋してしまったバローの葛藤や、手下の裏切りなど……次から次へとストーリーは進んでいく。
それでも、活劇重視のこの映画は、決して深刻なムードにはならない。
「皆でこの映画を成功させるんだー!」みたいな、その時代の大きな熱気みたいなモノに満ち溢れているのだ。
これだけの人数を集めて、次から次へと繰り出す大迫力な活劇に、ただ圧倒されて、いつしか冒頭に感じた単調さなんかも、すっかり忘れてしまった。
もう、それくらい夢中になっていく自分に驚いてしまう。(それにしても、当時としてどれだけ巨額な制作費がかかっているんだろう? 知ると恐ろしい気もするが……)
なんせ帆船は破壊されるわ、城壁は大砲や爆薬で木っ端微塵にするわ。
そのうえ熱気球は出てくるわ、潜水艇は出てくるわ、の、まるでヤリタイ放題なんですもん。
監督は『らせん階段』や『幻の女』などフィルム・ノワールで成らしたロバート・シオドマク。(こんな監督が、なぜ海賊映画を?と思って、観た理由がそれだったのだが……)
映画も中盤をすぎれば、バート・ランカスターとニック・クラヴァットに、もはや目は釘付け。(バート・ランカスターも格好よく見えてくるし、頼もしい相棒ニック・クラヴァットのひょうきんさも大好きになってしまった)
ラスト、船上での対決シーンは、一歩間違えれば本当に命をおとすかも…と思わせるほど、これまた凄い迫力だぞ~。
本当に人は見かけによらない。
私の中では、一気に株が急上昇したランカスターである。
こんなモノを観てしまった日には、あの『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジョニー・デップなんて、ただのコスプレ好きの木偶(でく)の坊にしか見えてこない。
バート・ランカスターに酔いしれて……星☆☆☆☆ってところにしときましょうかね。
長々、お粗末さまでした。