1947年 アメリカ。
ヒッチコックにとっては珍しい法廷メロドラマ。
前回、『汚名』でも少し語っていたように、ここから暗黒期ともいうべき長~いスランプ状態が続く………のだが、この映画に限っては、失敗の全責任を、ヒッチコックだけに擦り付けては、いけないような気がする。
問題は、そう……あの、プロデューサーの『デヴィッド・O・セルズニック』にあると思われるからだ。
《デヴィッド・O・セルズニック》
デヴィッド・O・セルズニックが製作した映画は、有名なモノばかり。
『キングコング』、『アンナ・カレーニナ』、そして『風と共に去りぬ』、『第三の男』、『終着駅』などなど……有名どころの作品が並ぶ。(あくまでも、これは製作である)
戦前、ヒッチコックをイギリスからアメリカへと導いたセルズニック。
その恩はあるにしても、このセルズニックは大いに問題ありな人物なのだ。
とにかく、何でもかんでも、ことごとく口出ししなければ気がすまない、面倒くさい性分。
「あ~しろ!」、「こ~しろ!」始終、口をはさんでくる。(あ~ウルサイ!プロデューサーは資金だけ出してくれればいいのに(笑))
その性格ゆえに、有名監督たちからは、次々、嫌がられて敬遠されてしまうのだが……
この『パラダイン夫人の恋』では、もはや、それが最高潮だったかもしれぬ。
製作ばかりか、とうとう、
「俺が脚本も書く!」と言い出したのだ。
(やれやれ……)ため息が漏れるヒッチコックの姿が想像してならない。
オマケに映画は125分。(長い)
で、取りあえずは、この映画に関する、こんな知識を横に置いといて、観たのだけど………。
観た感想………ゲゲッ!!おっそろしく!つまらなかった!!
法廷モノとしては、大傑作、ビリー・ワイルダー『情婦』の足元すらにも及ばない。
有名な俳優、女優たちが、これだけ揃っているのに、この映画は、やはり脚本がダメダメだ!
目の不自由なパラダイン大佐が毒殺された。
大佐の妻『パラダイン夫人』(アリダ・ヴァリ)に容疑がかかり、やがて裁判となる。
パラダイン夫人の弁護を引き受けた『アンソニー・キーン』(グレゴリー・ペック)は、妻がいるにもかかわらず、パラダイン夫人の美しさに、どんどん惹かれていき、無罪を証明しようと躍起になるのだが……。
こんな出だしで、始まる『パラダイン夫人の恋』なのだけど……役者たちも、自分たちの役を演じながら、(何だかヘンテコな話……)と思わなかったのかねぇ~。
有名俳優、女優たちが数多く出ているので、順を追って、その《 ヘンテコリンさ 》を語っていこうと思う。
まず、
★グレゴリー・ペック(弁護士アンソニー・キーン)
クソ真面目すぎるといえば、このグレゴリー・ペックしかいない。
真面目なので、『パラダイン夫人』(アリダ・ヴァリ)に惚れても、ストレートに愛の言葉を吐くなんて出来やしない。
その代わりに、「ヨッシャ!私が夫人の無罪を証明してやる!!」と、そちらの方に躍起になる。
で、無罪にするには、別の真犯人が必要だ。
『アンソニー』(グレゴリー・ペック)が目をつけたのは、目の不自由なパラダイン大佐の部下だった男で、世話人の『アンドレ』(ルイ・ジュールダン)。
裁判で証人として呼び出すと、
「あなたがパラダイン大佐を殺したんでしょう!!」と執拗に、アンドレに罪をなすりつけはじめる。
「あなたがパラダイン大佐を殺したんでしょう!!」と執拗に、アンドレに罪をなすりつけはじめる。
「私は殺してなどいない!」
「嘘だ!」
こんな応酬が続き、ひとまず休廷。
(やったー!形勢はこちらに傾いているぞ、ウシシッ………これでパラダイン夫人に誉められるかも……)と悦び勇んで夫人の謁見に行くと、
「この馬鹿!!何でアンドレに罪を擦り付けるようなマネをするのよ!!」と大激怒。
?????、頭の中がクエスチョン・マークだらけのアンソニーなのだった。
★ルイ・ジュールダン(パラダイン大佐の世話人・アンドレ)
ルイ・ジュールダンがこんな映画に出てたのか。
ジュールダンといえば、我々世代には、『007 オクトパシー』の悪役カマル・カーンが印象深い。(※これblogで書いてるので暇な人は参照してね)
裁判で執拗に責められた『アンドレ』(ルイ・ジュールダン)は、ある秘密を抱えていた。
目の不自由なパラダイン大佐を尊敬しながらも、何と!夫人と《 不倫 》してしまっていたのだ。
良心の呵責で苦しんでいたアンドレ。
オマケに裁判に出れば、アンソニーにコテンパンにやられてしまう。
「もう限界だ……」
そして、とうとう自殺してしまう。
そして、そして、
★アリダ・ヴァリ(パラダイン夫人)である。
「アンドレが自殺ですって?!」
裁判中、急にとびこんできた、この知らせに、パラダイン夫人は一時、放心状態だったが、少しずつ皆の前で語りだす。
「もう、おしまいよ。もう、どうでもいいわ………私が主人を殺しました……」とペラペラ白状しはじめたのだ。
(?????????)
(えっ?何これ?)
(こんなアッサリ?)
(この人が真犯人って、結局、何のヒネリもなし?!)
(だったら、何で最初から白状しないの?!)
今まで長い間、我慢して観ていて、この告白には、さすがに胸がムカついてきた。
自分で殺しておいて、アンソニーに弁護まで頼んでおいて、あわよくば、無罪を勝ち取れるとでも思っていたのか?
この馬鹿女は!!
でも、この後が、また最悪なセリフを吐く『パラダイン夫人』(アリダ・ヴァリ)である。
法廷で、目の前のアンソニーをキッ!と見据えると、
「あなたがアンドレを殺したのよ!あなたのせいでアンドレは死んだのよ!!」と、なじりだしたのだ。(オイオイ)
「私の残りの生涯はね、………あなたをずっと憎み、うらみ続ける事だわ……」
うなだれる『アンソニー』(グレゴリー・ペック)………そんな風にして映画は終わるのである。
勝手なクソ女!!
自分勝手な理屈で、逆ギレして、他人をなじり、しまいには、八つ当たりまでしてしまうとは………もう、どこまで性根が腐っているのやら。
同情の余地なし!
こんな最悪な女には、お目にかかった事がない。
でも、アリダ・ヴァリは、いつも、こんな役ばっかりだ。(※後年、『第三の男』でも同じ感じ。今度の八つ当たりの相手はジョセフ・コットンである。これも詳しく書いているので参照下さいませ)
アリダ・ヴァリが、いくら美人でも、こんな性格の役ばかりしていては、とても観客に好かれるとは思えない。
案の定、後年、彼女はハリウッドを去っていく。
そして、映画は大失敗する。
他にも、『チャールズ・ロートン』(情婦)や、『アン・トッド』(第七のヴェール)、『エセル・バリモア』(らせん階段)など、名優たちを揃えているのにだ。(他の人たちも、まるでアホみたいなセリフしか言わないので、どいつも、こいつも、本当にアホに見えてくる)
こんなクソ脚本を書いてしまったセルズニックも、少しは反省したのだろうか……
いや!この手のタイプがしおれて反省などするはずもない。
「お前のせいで映画は失敗したんだ!!」と、逆にヒッチコックをなじったんじゃなかろうか。(この映画、パラダイン夫人のように)
とにも、かくにも、これで1940年の『レベッカ』から続いていた、長いセルズニックとの関係は終了する。(お疲れ様でした~)
「人にあれこれ言う前に、まずは己を知れ!」
セルズニックを通して、この言葉は、周りだけじゃなく、自分にも投げかけたい言葉だと思うのであ~る。
星☆。