2019年1月14日月曜日

映画「らせん階段」

1946年 アメリカ。







時は1900年代初頭。

場所は町外れの2階建てホテル。



1階では無声映画が上映されていて、集まった観客たちは、それを真剣な眼差しで観ている。(なんせ娯楽に乏しい時代)

その中には、お金持ちのウォーレン夫人の館で女中として働いている『ヘレン』(ドロシー・マクガイア)の姿もあった。

久し振りの休日を映画を観る為、遠い町までやってきたのだ。



子供の頃、火事にあって両親を亡くしてしまったヘレンは、そのショックで声が出なくなってしまった。

そんな彼女の唯一の娯楽が映画を観ることなのだ。


ちょうど同じ頃、そのホテルの2階では……


部屋の一室では足を引きずった女性が着替えをしている。クローゼットを開けると中には幾つもの服が吊るしてある。


その奥で異様に光る不気味な瞳 ……





1階の映画館に何かが倒れこむような「ドスン!」という鈍い音が響きわたった。



「何だ?何だ?!」

支配人が階段をかけ上がり、2階の部屋のドアを開けると、そこには ………

たった今、首を絞められて殺されている女性の遺体があったのだった。



しばらくして警察が来るとホテルは大騒ぎ。

観客や野次馬たちを追い払うと、残った警察たちは深い溜息をついた。

「もうこれで3件目だ。《障害者》ばかりを狙った殺人 …… 」






ヘレンも遠い道のりを屋敷に向けて帰り出した。そこへ都合よく馬車が通りかかる。


「ヘレン帰るんだろう?乗っていきなさい」

町の若い医者『バリー』だった。



馬車に揺られながら、バリーが手綱をさばく横でヘレンはソワソワと、なんだか落ち着かない様子。(バリー医師の事が好きなのがバレバレである)


バリーも、また、ヘレンの事を愛していたのだが、医者として彼女の病気のことを何とかしてやりたいと思っていた。


「諦めるのは早いよ。 今は医学が進歩しているんだ! ボストンの町に行けば、きっと良い病院が見つかるはずだよ。」


バリーは、熱心にヘレンを励ましてくれるのだが、当のヘレンは、どこか諦め顔である。




しばらく馬車が進むと、通りに男の子が一人飛び出してきた。


「バリー先生、父さんの具合が悪いんだ!お願いだから来てくれよ!」

バリーは馬車を止めて「仕方がない」と言うと、ヘレンが馬車から降りて、男の子を代わりに乗せた。


「後で屋敷に行くよ」そう言うとバリー医師は去っていった。

再び館までの帰り道を一人歩きだしたヘレン。



空は薄暗く陰鬱。何だか雲行きがおかしくなってきた様相だ。


そして、いきなり強い勢いで雨が降りだしてきた。



館まで少しの距離だったので急いで走るヘレン ……… それを離れた木々の間で、じっと見つめている不審そうな一人の男の目。(ゲゲッ!いつの間に)



ずぶ濡れで館に入ると、女中の一人がタオルを渡しながら、「急いで奥さまのところへ行ってちょうだい」と、ヘレンに言いつけた。


外では瞬く間に嵐になって、雷鳴が鳴り響いている。



そんな二人の耳にガタン!という物音が聞こえた。



行ってみると裏窓が開いていて風が木戸を揺らしている。

「変ねぇ~、ちゃんと戸締まりしたはずなのに …… 」




この広い館には年老いたウォーレン夫人と、女中以外にも様々な人々が住んでいた。


ほぼ寝たきりで始終具合の悪いウォーレン夫人の為の付き添い『看護師』。


ウォーレン夫人の息子で長男の『ウォーレン教授』。その秘書で美人の『ブランチ』。


そして、パリから帰省してきたばかりの次男『スティーヴン』。





ヘレンは大広間にでると、2階へと続く螺旋階段を登ってウォーレン夫人の部屋に上がっていった。



2階の廊下には中年の女看護師がドアの前の椅子で鎮座してプンプン怒っている。

ウォーレン夫人に「お前は下がっておいで!」と邪険に追い払われたばかりなのだ。



ヘレンは部屋に入っていく。

そうして後からこっそりと看護師も ………



案の定、『ウォーレン夫人』(エセル・バリモア)の怒声が響きわたる。

「出てお行き!!廊下にいるのがあんたの役目だよ!」


看護師は、またもやプンプン。

頭から湯気が出るような怒りの表情で即座に出ていった。


人の好き嫌いが激しいウォーレン夫人。

それでも、ベッドに横になっている夫人がヘレンを見る目は特に優しい。

素直で気立ての良いヘレンをすっかり気に入っているのだ。



そんなヘレンを側に引き寄せると夫人は途端に厳しい顔つきになった。

そうして、いきなりこう切り出したのだ。



「お前は今夜、この館を出ていきなさい!いいね?私の言うことを聞くんだよ!、私にはわかるのさ。今夜、きっとここで恐ろしい事が起こることを …… 」



突然言われた、まるで訳のわからない命令。

だが夫人の眼差しは真剣そのものだ。



障害者ばかりを殺害する事件は夫人の耳にまで入っているのだ。


そうして、病人の自分よりもヘレンの身を案じて誰よりも心配してくれているのだ。

それに、ヘレンは、素直にコクン!と頷いた。




外では雨風がどんどん激しさを増していく ………






昔、真冬の深夜に、この映画がたまたま放送されていた。


何の気なしに見始めると、ドンドンこの雰囲気に引き込まれていって、いつの間にか最後まで固唾をのんで観ておりました。

モノクロの不気味な館ミステリーなんて人を惹きつける条件としてはバッチリですもん。


白黒のハッキリ浮かび上がった陰影、らせん階段に長く伸びる影など …… まぁ怖そう。



話は大した事なくても、この映画は、その雰囲気やインパクトのある絵面で自分には強い印象を与えたし、たちまち虜にしてしまったのでした。

そして今観ても、その雰囲気を充分に感じさせてくれる。




監督は、ロバート・シオドマク

この時代に数々のミステリー映画を残したお方で『幻の女』や『暗い鏡』なんて映画も撮っている。



主演のドロシー・マクガイアは、グレゴリー・ペックの『紳士協定』にも出ていたっけ。


決して美人さんじゃないのだが日本の女優でいえば、若い頃の薬師丸ひろ子に少し似てるかな?


口が利けないけど人柄だけは良い、好感の持てるヘレンを上手く演じている。(だんだん可愛く見えてくるから不思議だ)





ふっと1人きりになると、愛するバリー医師との結婚を夢見てしまうヘレン……


ヘレンの妄想は、やがて結婚式にまでドンドン進んでいき、誓いの場面となる。(あらあら、想像力豊かな娘(笑))



でも目の前の神父に、

「さぁ、ヘレン!誓いの言葉を!」

と、言うように迫られるも全く声が出せないヘレンは途端にオロオロして狼狽してしまう。


そうして、「ハッ!」と現実に引き戻される。(「所詮、自分には叶わぬ夢か …… 」と)


だが、こんな乙女チックな妄想もここまで。




現実は、すぐそこまで恐ろしい《殺意》が迫っているのだ!



館では邪悪な殺人者が近くにいて、ずっとヘレンを殺す機会を「今か、今か!」と伺っているのである。



やがて、ヘレンの代わりに殺されてしまう館の住人。


恐怖して、助けを呼びたくても叫べないヘレン。

自分の不遇を呪うヘレン。


それでも、「今の自分に出来ることをしなければ!」と思い、身ぶり手振りで館中を駆けずり回るヘレンに、いつしか観ている方も「ガンバレ!」と応援したくなってしまう。




深夜、真っ暗闇の中で布団にもぐりこんで、モノクロ映画の鑑賞もなかなかオツなものですよ。


オススメしときますね。

星☆☆☆☆☆。


※でも、病人には螺旋階段を上がった2階の部屋よりも、1階の方が良い気がするのだけどねぇ~ (余計なお世話(笑))