1960年 アメリカ。
アリゾナ州フェニックス、金曜日。
午後の昼休みに、ホテルの一室で情事を楽しんだ男女がいる。
女は不動産会社で働く『マリオン』(ジャネット・リー)、男はカリフォルニアで金物店をしている『サム』(ジョン・ギャヴィン)だ。
二人は一緒になりたいのだが、サムは前妻への慰謝料などで四苦八苦。
金銭的にも余裕がないので、こんな安ホテルで、たまに会って過ごすだけなのだ。
金銭的にも余裕がないので、こんな安ホテルで、たまに会って過ごすだけなのだ。
こんな風に、ホテルで会うのも、最近では、少々嫌気がさしているマリオンなのである。
(お金さえあれば、全てが上手くいくのに…)
(お金さえあれば、全てが上手くいくのに…)
そんなマリオンが勤める不動産会社に、社長が取引相手の金持ち『キャシディ』を伴ってやってくる。
キャシディは、物件を買うための現金4万ドルを「ポン!」と、目の前に置いたのだ。
それを見た社長は、おったまげて、即座にマリオンに命令した。
「こんな大金をここに置いておけない。すぐ銀行に預けておいてくれ!」
「分かりました」
「分かりました」
4万ドルを預かると、そのまま会社を出ていくマリオン。
だが、銀行には行かずに、そのまま自分の自宅に戻って、マリオンは、しばし考えはじめる。
(このお金さえあればサムが助かる! サムと結婚できるわ!!)
まさに、魔が差した瞬間だった!!
荷物をまとめると、4万ドルを車につめこんで、ものすごい勢いで、家をでていくマリオン。
その顔は、まるで、何かに、憑りつかれたようである。
こうして、後ろめたさの良心に蓋をして、マリオンの逃亡がはじまった。
「カリフォルニアへ、早く!急ぐのよ!!」
アリゾナ州フェニックスからカリフォルニア州のロサンゼルスまでは、600キロの長い距離………道は、果てしなく遠い。
それでも血眼な表情のマリオンは、何時間も車を走らせていた。
だが、とうとう集中力が途切れるほど、疲れてしまい、マリオンは、一旦路肩に車を停めた。
だが、とうとう集中力が途切れるほど、疲れてしまい、マリオンは、一旦路肩に車を停めた。
すると、マリオンは、そのまま深い眠りについてしまったのだった。
そうして、次の朝、だれかが窓を叩いている、コン!コン!。
(誰よ、誰なの?)
眠気も吹っ飛び、ゾッとするマリオン。
パトロール中の警官だったのだ。
「免許証を見せてください」
途端に、あわてふためくマリオン。
警官の簡単な質問にも、バックの中の4万ドルが、気になって、もう冷や汗が止まらない。
やっとのことで開放されると、すぐに車をスタートさせた。
だが、(ゲゲッ!)バックミラーを見ると、あの警官のパトカーが、ずっと後ろから付いてくるではないか。
「どうしよう……どうすればいいの……」
焦るマリオンが車を走らせていると、目の前に中古車販売の店が見えてきた。
車を乗り入れ、すぐ様、ディーラーのところにいくと、
「あの車を売ってほしいのよ」と、カリフォルニア・ナンバーの車を指差した。
「あの~、まずは試乗を…」
「試乗はいいから、すぐに売ってほしいのよ。代金なら現金で、即払うから!!」
「えっ?」もう、呆気に取られるディーラー。
離れた路肩では、さっきの警官がずっとこちらを伺っている。
バックミラーに映るのは、何かをコソコソと話している警官とディーラーの姿。
『おかしいんですよ、試乗もなしに現金でお支払いなんて』
『確かに変だな……』
こんな会話を、二人はしてるかもしれない……
こんな会話を、二人はしてるかもしれない……
幻聴がマリオンの頭の中を、グルグルと駆け巡る。
もう休んでなんかいられないわ!急がなくちゃ!!
だが、マリオンの行く手を阻むように、雨がものすごい勢いで降りはじめた。
ワイパーを最大に回しても、視界すら遮ってしまう。
「これ以上、車を走らせるのは無理だわ」
その時、かすかに、視界の暗闇の先に、ホテルの看板らしきものが見えてきた。
『ベイツ・モーテル』
あまりにも有名な名作。
ヒッチコックと言えば『サイコ』言われるぐらい、代名詞になってしまった。
冒頭に書いたあらすじを見ても、お分かりように、物語は、ずっとマリオンの主観で進んでいく。
キャシディに後ろめたさを感じ、尋問する警官にビクビクして、中古車のディーラーにも、イライラするマリオン。
観る側は、ヒッチコックの策略によって、まんまと、マリオンの気持ちに同化していくのである。
それなのに、そのマリオンが、いきなり《殺されてしまう》
モーテルでシャワー浴びているときに。
いきなりシャワーカーテンを開けられ、刃物を持った黒い影の人物に!
マリオンが、浴室に倒れこんで、排水口に渦を巻きながら、流れていく血が、マリオンの見開き死んだ目に重なっていく時、観客の意識や感情も、ここで、一旦《 殺されてしまう》のである。
だが、観ている観客はホントに死んだわけではないので(当たり前だが)、もって行き場のない感情をもて余して、只、成り行きを呆然と見つめるだけ。
ホテルマンの『ノーマン』(アンソニー・パーキンス)がマリオンを発見しては、遺体を処理したり、風呂場を掃除したりするのを、ただ、ポカーンと眺めているだけなのだ。
後半になり、マリオンの妹『ライラ』(ヴェラ・マイルズ)が登場すると、やっと「ホッ!」。
行方不明の姉を探すライラの出現は、
行方不明の姉を探すライラの出現は、
「やっと感情移入できる人が現れてくれた~」
と、ひと安心させてくれるのである。
でも、それまでの数分間が、なんて宙ぶらりんで、長い時間なのだろうか。
この宙ぶらりんな時間は、観る側を、言い様のない不安にさせてしまうのである。
こんな特別な仕掛けが、映画『サイコ』を、色褪せぬ傑作にしているのだ。
そうして、驚愕のラストで、またまた鳥肌モノのどんでん返し。
初めて観る人は、「ぎゃああーーー!」の雄叫びをあげるでしょうよ。
この宙ぶらりんな時間は、観る側を、言い様のない不安にさせてしまうのである。
こんな特別な仕掛けが、映画『サイコ』を、色褪せぬ傑作にしているのだ。
そうして、驚愕のラストで、またまた鳥肌モノのどんでん返し。
初めて観る人は、「ぎゃああーーー!」の雄叫びをあげるでしょうよ。
こんなに観ている人の感情を、あっちこっちに揺さぶり続ける映画も珍しい。
それも、最後の最後まで、全く手を抜かずに。
ヒッチコックはやはり凄い!
これは文句無しの星☆☆☆☆☆なのであ~る。