1985年 アメリカ。(新・ヒッチコック劇場より)
前回の百恵ちゃんのドラマ『北国から来た女』を書きながら、「あ〜、そういえば、コレと相反するようなタイトルのドラマもあったっけ …… 」と、急に思い出した。
それが、この『南から来た男』。
奇妙な味わいの短編を得意とする作家ロアルド・ダールの名作中の名作であり、これまでに何度か映像化されております。
特に『ヒッチコック劇場』では、1959年の最初に映像化がされて話題になったという。
テレビドラマなのに出演者が豪華で、あの、スティーヴ・マックィーンやピーター・ローレが出てるそうな。(マックィーンの当時の奥さま、ニール・アダムスも御出演)
いつか観てみたいものだが、残念ながら未見である。
私が観たのは、80年代にリメイクされた、『新・ヒッチコック劇場』の方。(コチラは当時ビデオ化されていた)
コチラも出演者は、中々の面子が揃っていて、なんなら1959年版よりも上かもしれない。
なんせ、『マルタの鷹』などの映画で有名な、ジョン・ヒューストン監督が、じきじき俳優として演じているのだ。(上記、写真)
他にも、
☆スティーヴン・バウアー(メラニー・グリフィスの当時の旦那さん)
☆メラニー・グリフィス
☆ティッピ・へドレン(メラニーの母親でいて、ヒッチコックの『鳥』『マーニー』に主演)
☆キム・ノバァク(ヒッチコックの『めまい』に主演)
などなど …… そうそうたるメンバーが出ている。
でも、そんな中でも、やっぱり、ジョン・ヒューストン監督の演技。
鬼気迫る迫力に圧倒されて、ビビってしまう。
そのくらい、怖い、怖〜いお話であ〜る。
眠らない街 ……… 夜のラスベガス。
カジノで負けて、スッカラカンの若い男(スティーヴン・バウアー)。
同じようにスッカランなった若い女(メラニー・グリフィス)が、オバサンのウェイトレス(ティッピ・へドレン)に嫌味を言われているのが、偶然、男の耳に入ってきた。
「あんた、あんなにボロ負けして …… ちゃんと金はあるんだろうね? 無銭飲食しようとしてるんじゃないのかい?」
若い男はなけなしの金で、若い女の食事代を払ってやると、うるさいウェイトレスを追い払ってやった。
「ありがとう」
「いや、…… 吸うかい?」
若い男は、女に煙草をさしだすと、ライターで火をつけてやった。
「立派なライターね」
「残ったのは、煙草とこのライターだけさ。」
同じようにボロ負けの境遇が二人を近づけるのか …… 同病相憐れむの感情で、二人の会話は弾みだした。
そんな二人を、さっきから遠目で伺っていた一人の老人(ジョン・ヒューストン)。
老人は近づいてくると、二人の会話に強引に割り込んできた。
「ほぉ~、こりゃ立派なライターだ。でも、ちゃんと点くのかね?」
「当たり前さ。オイルはちゃんと入ってるし消えた事もない」
「ふむ …… 大したライターだな。どうだい?私と、ひとつ《賭け》をしないか?」
「オッサン、あんたがいったい何を賭けるっていうんだ?!」
老人は表に停めてある車を見せに、二人を連れていった。
「こりゃ、立派な高級車だ!」
「乗ってみるといい」
若い男も女も座席に座って、すっかり、はしゃいで興奮している。
「君が《賭け》に勝てば、この車をあげようじゃないか。な~に、賭けは簡単だ。君の持っているライターが、10回連続で点火すれば君の勝ち。1回でも消えれば君の負けだ」
「へ〜え、そりゃイイや。で、俺の方は何を賭けるっていうんだい?」
浮かれてる若い男に、老人は思わぬ要求をしてきた。
「負ければ、君の《小指》を貰う …… 」
「えっ?貰うって?」
「もちろん、ぶった斬って貰うのさ」
トンデモない《賭け》に、若い男も女も、たちまち青ざめてくる。
「正気じゃないわ!」若い女の叫び声を無視して、老人は更に詰め寄ってくる。
「どうだ?やるか、やらないか?!」
若い男はしばらく黙っていたが、「 …… 分かった!やってやろうじゃないか!!」と、とうとう賭けに応じた。
老人は喜々として、
「そうか!やるか!なら、私の部屋に来てくれ。風が入ってこないような場所がいいからな。ついでに君は、この《賭け》の立ち会い人になってくれ」と、側にいた見知らぬ男にお願いした。
若い女は男を止めようと必死だ。
「バカよ!あなた!こんな《賭け》にのるなんて …… 無茶もいいとこだわ!!」
「なぁ~に失くしても小指の一本だけだ。それに上手くいけば、あの車が手に入るんだぜ」
男はあくまでも楽観的に考えようとする構え。
だが、いざ、老人の部屋に来ると、異様な緊張感が迫ってくる。
立ち会い人の男も、若い女も、そして賭けに応じた男もピリピリしている中、老人だけが一人浮かれて楽しそうだ。
老人はテーブルに釘を二本打つと、その釘と釘と間に男の左手を押し当てて、入念に紐で縛りあげた。
「途中で手を引き抜かれたんじゃ、困るんでね」
老人はニコヤカに話しながらも、右手には、すでに肉切り包丁を握りしめながら待ち構えている。
その光景に、またもやゾゾ〜ッとする、立ち会い人と若い女。
賭けに応じた男の顔からも、冷や汗が滴り落ちる。
「さぁ、はじめてくれ!」
1回目の点火は、カチリ!の音をして無事に点いた。
高い炎が燃えあがる。
蓋をして、そして2回目も見事に成功。
3回目、4回目、5回目 ………
もう誰も喋る者などいない。
静けさの中で、ライターのカチリ!と鳴る点火の音だけが響いている。
そうして、いよいよ、ラストの10回目!
皆が、その一点を見つめながら、カチリ!の音と、ともにライターは ……………
無事に点火したと思ったら、一瞬で、火がスーッと消えたのだ!
老人が喜々として笑いながら、高く振り上げる肉切り包丁!
その時、部屋の戸口から入ってきた女の声が、それを引き止めた。
「おやめなさい!カルロス!!」
その声に、老人の振り上げた右手は、ピタッと止まり、包丁を握る手は、力なく降ろされた。
老人は背中を向けて、しおれた首を垂れている。
若い男は紐で縛られた左手を引き抜くと、青ざめながら、右手で、左手をかばうように擦(さす)っていた。
老婦人(キム・ノヴァク)は、そんな若い男や女たちのテーブルに近づくと話しだした。
「なんて馬鹿なことを……若いからって、あなた方、無茶もいいとこだわ。この男は、今までに47人から指を奪ってきた男なのよ」
その話を聞いて、またもや青ざめはじめる面々。
「でも、そんな事は二度とさせないように、この男の財産は私が全て取り上げたわ。表に停めてある車だって私のモノよ。この男は無一文なの」
老婦人の話は淡々と続く。
「でも、おかげで、その代償は高くついたわ」
老婦人は手袋を外して、その手を静かに、テーブルに置いた。
その左手には、人差し指がポツンと、一本だけ残されていたのだった ………
ゾワワワァ~!っと、一変で身の毛のよだつような話でしょう?
コレ、けっこうインパクトのある話で、ロアルド・ダールの短編としては、かなり有名な作品。
いつもはネタバレしないけど、今回は特別に最後まで書いてみました。(何度も映像化されてるし。でも、コレも、いまだにDVD化されていないんだよなぁ~)
ロアルド・ダールの小説は、こんな捻りの効いたオチがある短編の宝庫である。(興味がある人は、是非読んでね。)
このドラマにしても、確か30分くらいだったはず。
ただ、ドラマの方は『小指切断ゲーム』なんていう、まんま内容を語るような味も素っ気もないタイトルに変えられていたのが、少々残念。(『南から来た男』の方がずっと良いので、このblogにおいては、こっちを採用しとく)
最近のダラダラ長いだけで、伏線も回収しないまま終わるようなドラマには、少々ウンザリ。
短くても、スパイスのピリリと効いたドラマ、いつまで経っても印象深いドラマ …… こんなドラマに、令和の時代もお会いしたいものである。
星☆☆☆☆。(※無謀な《賭け事》には、どうぞ、ご注意なさいませ!)