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2020年7月20日月曜日

映画 「サンセット大通り」

1950年 アメリカ。





売れない脚本家『ジョー・ギリス』(ウイリアム・ホールデン)は、今日も脚本を映画会社に持ち込むが……結果はダメだった。


ならば、

「頼む!300ドル貸してくれ!」と、ダメ元で借金の申し出をするのだが、当然、これも却下。


あちこち金策に当たっているギリス。


(どうすればいい?取り立て屋が来る……)

無理して買ってしまった新車のローン……払えなければ車は、即座に取り上げられてしまう。



帰り道、車を走らせていると、近くに取り立て屋の車が。


「いたぞ!!」

向こうも気がついたようだ。公道を猛スピードで逃げるギリスの後を、「見失ってたまるか!」と、どこまでも追いかけてくる取り立て屋の車。



どこをどう走っているのか……咄嗟にギリスは脇道を見つけると、そこへ向けてハンドルをきった。



取り立て屋は気づかずに走り去っていく。


(ホッ!)としたのも束の間、タイヤはパンクしていた。


(なんてツイてないんだ………)

パンクした車で、トボトボ前進していくと、広い屋敷が見えてきた。


広い庭先にはプールもあるが、何年も使われていないのか、泥や枯れ葉で埋まっている。


埃をかぶっていて、だいぶ使われていない様子の車の横には、かろうじて、一台分が停められるような車庫もある。


(ここに車を置かせてもらおう)


邸の主人に、一言断ろうと、ギリスは屋敷に入っていった。


屋敷の中は、くすんだ外観とは違い、豪華な調度品や家具が並んでいる。


広々した大理石のホール。


(誰もいないのか……?)人の気配がまるでない。



ギリスは勝手に部屋のドアを開けていった。



そうして、ある部屋を開けると、そこは寝室らしく、天涯ベッドのレースの陰には誰かが寝ている姿が見えた。



「あの~すいません………」


ぶしつけにレースをめくって近づくと、そこには………


(ゲゲッ!!)


《猿》が寝ていた、しかも死んでるじゃないか!!



「誰よ?!あなた?!」


声に振り向くと、そこには一人の女性。


そして、またもや驚いた。


女性は、サイレント映画の時代に活躍していた大スター『ノーマ・デズモンド』(グロリア・スワンソン)である。


ぶしつけな突然の来訪者を、驚きもせずにノーマはジロジロ、上から下まで値踏みするように見はじめた。


ギリスが自己紹介して、脚本家である事を言うと、ノーマの目の色が途端に変わる。


「これを読んでちょうだい!!私が書いたのよ」

ノーマは厚手の原稿用紙の束をいくつも、ポン!とギリスの目の前に投げてきた。


「『サロメ』の物語。私はこの作品で、また映画界に華々しくカムバックするのよ!!」


そういうと、ノーマの瞳は、目の前のギリスを通り抜けて、どこか現実世界とは違う場所、まるで夢の世界を見ているようになっていった。




(まぁ、いいか……時間はたっぷりあるし、家に帰れば取り立て屋も待ち伏せているだろう………それにしても酷い悪筆だな……)


ギリスはソファにドカッ!と座ると原稿を読み始めた。一時間、二時間、三時間……長い時がたっても、まだ読み終えない。



(今日で、全部を読み終えるのは無理だ)と立ち上がろうとすると、


「離れの客間に部屋をご用意しました」と、どこからか、執事と思われる男が現れた。




この寂れた屋敷にたった二人……老いた大スター『ノーマ』と献身的に仕える執事『マックス』(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)。



夜半になって、案内された離れの部屋に、やっと落ち着いたギリス。



窓を開くと、暗い庭先には、ノーマと執事のマックスが、先程死んでいた猿を埋めようと、葬儀を行っていた。


(不気味な………)


だが、これも、たった一晩の滞在になるだろう。


そう、安易に考えていたギリスだったのだが……………。





監督はビリー・ワイルダー 。


このワイルダーの名前が出れば、もう、これも傑作と思えるはず。(毎回言ってますけど)




しかも、この『サンセット大通り』は、1950年度のアカデミー賞で数多くノミネートされた。


だが、この年は強力なライバル、ジョセフ・L・マンキーウィッツの『イヴの総て』が立ちふさがる。


『サンセット大通り』は、映画の内幕を描いたモノで、

『イヴの総て』は、舞台の内幕を描いたモノ。




似て否なるような両者の作品……。


はたして、どちらに軍配があがったかというと、………



『イヴの総て』が勝った!



作品賞、監督賞など6部門で最多受賞(『サンセット大通り』は、美術監督・装置賞、脚本賞、作曲賞の3部門にとどまる)



自分は、どちらも好きなので、W受賞でもいい気もするのだが………ん~、これが勝負の世界なら、当時の選考委員たちも頭を抱えたはずである。




だが、出演者たちにとっても、この映画は、ひとつのターニング・ポイントになったはずだ。




特に、ウイリアム・ホールデンの躍進は、この映画から始まったと言ってもいい。



戦前、『ゴールデン・ボーイ』でデビューしても、その後は泣かず飛ばず。


だが、この『サンセット大通り』で、アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされてからは、あきらかに、それまでの向かい風が、追い風に変わった風に思える。(その後、『麗しのサブリナ』、『第17捕虜収容所』など傑作が続けば、ご納得でしょ?)




執事役のエリッヒ・フォン・シュトロハイムは、元々サイレント映画を監督していたお方。

俳優としても有名で、こんな人物を、この映画に引っ張ってこれるのも、ビリー・ワイルダーの名声や実力の成せるワザだろう。


助演賞で、こちらもノミネート(受賞は出来なかったが、確実に爪痕は残した気がする)





そして、忘れ去られたサイレント女優の大スター、『ノーマ・デズモンド』役だけは、最後まで難航したらしい。


老いて、若い男に夢中になって、果ては、現実と虚構の世界で、とうとう気がおかしくなってしまう、そんな『ノーマ』………誰も手を上げて、「やりたい!」なんて人はいなかった。



グレタ・ガルボやらメイ・ウェストなど……サイレント時代の女優たちには、ことごとく断られる。



最後に、いちかバチかで、グロリア・スワンソンにオファーすると、やっと「O.K!」の返事が返ってきたと言う。



そんな、人が嫌がる役を、全身全霊で、やり遂げたスワンソン。



こちらもノミネートでだけで、アカデミー賞は取れなかったが、誰もがその英断を讃えた。(怪演である)




ビリー・ワイルダーにしても、この映画は、ターニング・ポイントだったはず。



この後、怒濤の傑作を産み出すスタートになるのだから。

星☆☆☆☆☆。

こうやって、半世紀以上経った今も、語り継がれているんだから、誰も文句ないでしょ?