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2020年5月23日土曜日

映画 「マーティ」

1955年 アメリカ。






ニューヨークの下町、ブロンクスの精肉店で、今日も、せっせと真面目に働く『マーティ』(アーネスト・ボーグナイン)は34歳の独身男。



たくさんいた弟妹たちは、結婚して、出ていき、今は母親との二人暮らしだ。



「で、あんたはいつ結婚するんだい?マーティ!」


「弟たちは皆、結婚してるのに……」



肉を買いにくる、客の婆さんたちに笑顔で愛想よく振る舞うマーティだったが、ババァ達の一言一言は、マーティの心をえぐる、えぐる。(冒頭、このマーティの表情を観ているだけで(涙))




(分かってるさ……俺はブ男で醜いって事も……)




仕事が終わって、週末の夜、そんな仲間達が溜まり場のバーに集まると、「今夜どこに繰り出す?」かの相談で、ガヤガヤ。



親友の『アンジー』(ジョー・マンテル)も、「今夜、どうする?マーティ」と聞いてきた。(アンジーも、全くモテない)



マーティは黙ってビールを飲んでいる。



もう、ほとほと、懲りていたのだ……どこに出かけて行っても女達には相手にされないし。




アンジーや同じようにモテない仲間達との話も、堂々巡り。



暗~い週末の夜は更けていく……。





一方、その頃、マーティの実家では、マーティの母親『テレサ』が、訪ねてきた甥夫婦の相談にのっていた。



「伯母さま、聞いてください!もう酷いんです!!お義母さまったら!!」



テレサの実の妹で、甥夫婦の母親『カテリーナ』………。


夫婦は、そのカテリーナと一緒に同居していたのだが、嫁『バージニア』は、よくある嫁姑問題に、四六時中悩まされていた。(アメリカにもあるのねぇ~嫁姑問題って……)




産まれたばかりの赤ん坊の育て方から、作る料理まで、何から何まで、いちいち干渉してきては、嫌味を連発するカテリーナに、嫁のバージニアは、もはや限界点。



ヒステリックに涙するばかりだった。



甥の『トーマス』も、その板挟みで、ホトホト疲れきっていた。




「伯母さま、お願いがあるんです!この家はマーティと伯母さまの二人暮らしでしょう? お義母さんをこちらで引き取って頂けませんか?! もう、限界なんです!!」




バージニアの提案に、甥のトーマスも(もはや、これまで……)とばかりに黙っている。


甥夫婦は、とうとう、こんな提案をテレサに突きつけてきたのだった。



(昔から口やかましいカテリーナ……姉の私にもだったしね………二人とも可哀想に……… )



心底、甥夫婦に同情したテレサは、

「いいわよ、ここに連れて来なさい。新婚夫婦にもプライベートは必要よ」と承知してくれた。




途端に、晴れやかになるバージニアとトーマス。


「ありがとうございます!!ありがとうございます!!」

二人はルンルン気分。(どんだけクソババァなんだろ(笑))



「ところで、トーマス。こっちも相談があるんだけど………どこかにマーティに合うような良い人いないかしら?」







「カテリーナ叔母さんがここに来るの?」


帰宅したマーティに、テレサは説明したが、マーティは別に嫌な顔もしなかったし、「いいよ」と承諾してくれた。(テレサは「ホッ!」)



安心したテレサは、今度はマーティの恋人探しに話題を変えていく。


「トーマスが言っていたわ。ダンス・ホールに出かけるのよ!!そうしたら《 マブイ 》? そんな女性たちが、沢山いるんですって!お前にも良い相手が、きっと見つかるわよ、マーティ!!」



マーティの顔色が、どんどん暗く淀んでいく。


そして大爆発。



「いい加減にしてくれ!僕はデブで醜いんだから!!」


「まぁ、マーティ……」

母親テレサの涙ぐむ姿に、マーティも、おし黙ってしまった。



食卓に流れるイヤ~な空気。



(しょうがない……出かけてみるか………でも、きっと誰にも相手にされないに決まってる…………)



期待なんかしないで、渋々、マーティはダンス・ホールにやって来たが、案の定、やっぱり壁の花。



皆が嬉しそうに踊る姿を、何となく遠目に見ているだけだった。



そんなマーティに一人の男が声をかけてきた。



「お前、一人か?」


突然、声をかけられてマーティはビックリ。



男は連れの女性がいたのだが、ダンス・ホールで知り合いの《イケてる》女性を見つけたので、そっちに乗りかえたいらしい。(何て奴!)


「なぁ、5ドル払うからさ、あのイモっぽい女の相手をしてやってくれよ? 無理矢理押し付けられて困ってるんだからさ、こっちも!」(最低!)



こんな提案にマーティが、のるはずもなく、断ると、男は、また別の男を捕まえては、同じような提案をしていた。



マーティが見ていると、その女性は、相手の男の行動にたまらなくなり、ホールの外のベランダに走っていった。



残された男は、「やれやれ……」の顔。



マーティは気になり、その女性を追いかけてベランダにやって来た。




「あの………大丈夫?……ですか?」



その女性、『クララ』(ベッツィ・ブレア)は、マーティの声に振り向くと、目に涙を、うっすら浮かべて、マーティの懐に飛び込んできた。




泣きじゃくるクララの背中を、優しくポンポンするマーティ。




モテない男『マーティ』と冴えない女『クララ』……二人の出逢いは、こんな風に始まったのだった…………。







名脇役アーネスト・ボーグナインが、珍しく主演をつとめた映画である。




この『マーティ』は、当時、アカデミー賞を総なめした。



作品賞、監督賞、脚本賞はもとより、アーネスト・ボーグナインも主演男優賞を獲得している。


そして、カンヌ国際映画祭においても、最高賞であるパルム・ドールも受賞。



アカデミー作品賞とカンヌの最高賞を同時に受賞した作品は『失われた週末』(1945年)と『パラサイト 半地下の家族』(2019年)、そして、この『マーティ』だけなのだ。






そのくらい、もの凄い快挙を成し遂げた『マーティ』を今回、初めて観たのだけれど………もう、涙、涙、でございました。😭




本当にモテない男の悲哀というか、辛さ、それにマーティの純な気持ちが、充分に伝わってきて、この映画は涙なしには、観れません。



イタリア系アメリカ人のマーティは、6人兄弟の長男で、弟や妹たちを育てるため、亡くなった父親の代わりになるために、大学進学を諦めて、精肉店で、一生懸命、働きながら、一家を養ってきたのだ。



苦労して、弟妹たちを育てて、結婚まで送り出して、母親の世話までしているマーティ。





こんなマーティが幸せにならなくてどうするの?






せっかく、クララと知り合って、周りも喜んで祝福してやればいいのに、この周囲の人たちときたら………。






「あの人、私嫌いよ。35~40歳くらいに見えるわ。29歳?きっと嘘をついてるのよ!」




母親テレサは、妹、カテリーナの入れ知恵で、

「息子なんて結婚したら、嫁さんの言いなり。私みたいに邪険に追い出されるのさ」なんて、言葉を信じちゃったもんだから、それまでは、マーティの恋人探しに躍起になっていたのに、途端に手のひら返し。




せっかくマーティがクララと知り合ったのに、こんな難癖をつけはじめる。(本当に、こんなクソババァ、無理に引き取らなきゃいいのに)





マーティの親友たちも、マーティに先を越されるんじゃないかと思いはじめて、クララの事をボロクソにこき下ろす。


「あのイモっぽい女………」


「もっと良い女がいるぜ、マーティ!」とか。(こんな陰口を言われているクララも可哀想に)




本当に『渡る世間は鬼ばかり』である。





こんな周囲の声に、クララとの約束をすっぽかしてしまったマーティ。



でも、考えるのはクララの事ばかり。




また、ある夜も、仲間達が「なぁ、今夜どこに行く?」なんて相談しあう中で、マーティは、ジッ、と目をつぶって考えている。




そして、目を開くと、


「いい加減にしろ!どいつも、こいつも!淋しくて惨めな奴らめ!!僕はこんなのに付き合ってられない!!」と、とうとう爆発!



「マーティ、どこに行くんだ!」公衆電話に走っていくマーティを、親友アンジーが追いかけて行く。


「皆が彼女を嫌う!彼女はイモ!僕は醜い! でも僕は彼女といて楽しかったんだ!! 彼女に電話する! 彼女をデートに誘う! 結婚するかもしれない! ほっといてくれ!!」(よくぞ、言ったよ!マーティ!!)




マーティの電話を、今か、今かと待っていたクララも、すぐに電話に出た。



あ~良かったねぇ~、マーティ。



電話をかけるマーティのそばでは、アンジーが、シュンとしてうなだれた顔。(親友なら喜んでやれよ!コラ!!)




ここで、最初の冒頭で、精肉店の客達に、散々言われていたセリフを、マーティがアンジーにぶつける。


「お前も33歳だろ?しっかりしろ!情けないぞ!」と。




それまで、周囲の言葉に、耐えに耐えていたマーティの大逆転。


マーティの、こんな痛快な言葉で映画は終わる。






この映画に出るまでは、ずっと端役や悪役に甘んじていたアーネスト・ボーグナインは、これで、一挙に名声を手に入れた。



アカデミー賞のトロフィーを、美人女優グレース・ケリー(後のモナコ王妃)から手渡されるボーグナインの嬉しそうな顔よ。




それ以後、中々、主演には恵まれなかったが、死ぬまで名バイブレーヤーとして活躍したボーグナイン。



これは名優ボーグナインが残した、確かな爪痕として、もっと評価されてもいい映画なんじゃないかと思うのだが。


超オススメ!

星☆☆☆☆☆。