その昔、『禁酒法』なんて法律があったのをご存じだろうか?
1920~1933年の13年間、アメリカじゃ、この法律が、普通にまかり通っていた。
日本でも徳川綱吉の時代に、『生類憐れみの令』なんてのがあって、「お犬様~
」などと言って奉っていた事もある。
」などと言って奉っていた事もある。
今じゃ、考えられないくらい馬鹿馬鹿しい法律だが、どの国でも、そんな変な法律に支配される時代が、必ずある。
アメリカはシカゴの酒場で、バンドマンとして演奏をしている『ジョー』(トニー・カーティス)と『ジュリー』(ジャック・レモン)。
客は酒を楽しみながら、しばし心地よい音楽に耳を傾けている。
そんな時、
「警察の手入れだぁー!!」
誰かの声が聞こえて、店はいきなりパニック。
客たちも、あちらこちらに走り出し逃げ出した!
そんな客たちを取り締まろうと、警察の笛が鳴り響く。
「俺たちも早く逃げなきゃ!」
ジョーとジュリーは、サックスとバスを楽器ケースに収めると、一目散に逃げ出した。
そして、何とか逃げおおせたものの、真冬のシカゴの路上で、凍てつく寒さにガタガタ震える二人。
「どうするんだ?ギャラをもらい損ねたんだぞ!」ジュリーが叫ぶ。
「分かってる、何とかするさ」
二人がルームシェアで借りているアパートは、家賃を滞納し続けて、今にも追い出されそうだ。
何とかせねば!
ジョーは女友達の口利きで遠方の仕事を見つけ出した。
だが、遠方ゆえ車がいる。
「よし!車を取りに行こう!」
預けている駐車場に行くジョーとジュリー。
すると、人相の悪い団体があっちからも、こっちからもやってきた。
咄嗟に車の陰に隠れて様子をうかがっていると、鳴り響くマシンガンの銃声。
ダダダダダダーーーーーーッ!!
ジョーとジュリーの目の前で、ギャング同士の抗争が始まったのだ。
血だらけで倒れていくギャングたちに、車の陰で見ていた二人は、サーッと青ざめる。
「そこにいるのは誰だ?!」
気づかれた!
車の陰から走り去る二人に、マシンガンの轟音が追いかけてくる。(ヒィーッ!!何でこうなるの)
そして、
「ハァ、ハァ……」息も荒い二人は今度も何とか逃げおおせた。(考えてみれば運がいい二人)
だが、顔を見られた以上、もう、このシカゴにはいられない。
どうする?どないしよう?
職安で募集しているのは『女たちだけのバンドメンバー』だけ。
「よし!決めた!『女』になるんだ!」ジョーが言う。
「あぁ、そうか『女』になるのか……………エエーッ!!」ジュリーが目をむいて叫んだ。
そうして女装した二人。
ジョーが『ジョセフィン』、ジュリーが『ダフニ』と名前まで変えて、お互いを名乗り合う。
女たちだけのバンドは、フロリダで演奏するため駅で待ち合わせだ。
「おい、ガニマタになって歩いてるぞ!」
ジョセフィン(ジョー)が、『ダフニ』(ジュリー)に言うのだが、自分も、えっちら、こっちら慣れないハイヒールで、何とか歩いてる。
「こんなのを履いて、女って奴は、よく平気な顔して歩けるもんだ」
ダフニが、重たいバス・ケースや荷物を抱えながら歩くのだが、ブツクサ文句が止まらない。
そんな二人の前に、駅の構内を優雅に、闊歩していく女性がいた。
お尻をフリフリしながら、前を進んでいく女性………同じバンド仲間で、ウクレレ奏者の『シュガー』(マリリン・モンロー)。
シュガーが列車に乗り込むと、ジョーもジュリーも、女装の苦痛など忘れたかのように見とれて、
「こりゃ、たまらん!」
これも名匠ビリー・ワイルダーの傑作コメディーである。(ビリー・ワイルダーの作品を紹介するたびに、傑作、傑作と言っているのだがしょうがない。本当に傑作なんだから)
そして、マリリン・モンローにとっても、これが代表作だろう。
冒頭に書いたように、モンロー独特のお尻をふりながらの、歩き方も完成されている。
なんでもこの歩き方をするために、ハイヒールのヒールを片方だけ短くしたのだとか………。
ゆえに段違いのヒールの高さが、微妙にお尻を上下にクネクネさせているのだ。
元々の髪の色を金髪に変えたりもして(地毛はブラウン)、自分を全くの別人へと変貌させる。
大スターの仲間入りになるのもホトホト大変である。
それゆえ、虚像と現実の狭間で、本人は後年、苦しむ事になっていくのだが………。
マリリン・モンロー自体に、自分は特別な思い入れはないが、それでも、この映画のマリリンは可愛い。
例の有名な歌、『I WANNA BE LOVED BY YOU』もこの映画で披露している。(プ・プ・ピ・ドゥ)
そして、マリリンよりも気に入っているのが、トニー・カーティスとジャック・レモンのドタバタ演技。
イケメンで立派な体格のトニー・カーティスが女装をすれば………首も太いので、ゴリゴリの厳つい『オカマ』さんにしか見えないのだ。
ジャック・レモンの女装は、その姿を見るだけで笑ってしまう。
まるでコント。
しゃくれた顎で、ニンマリした口のジャック・レモンに、赤いルージュをひけば、まるでドリフのコントなのである。
最初は女装を嫌がっていたダフネ(ジャック・レモン)だが、段々馴染んでくると、
「キャッ!キャッ!あ~楽しいわね!」
なんて、仕草も口調もそれらしくなってくるのだから。
それを心配するジョセフィン(トニー・カーティス)が、
「大丈夫か?ジュリー?お前は『男』なんだぞ!」と目を覚まさせる。
(あ~そうだった!俺は『男』だ!こんちくしょう、こんな生活がいつまで続くんだー!)
でも、また、しばらくすると、
「アハ!アハ!楽しいわね、シュガー!」
、なんて元に戻ってるのだから、超オカシイ(笑)。
芸達者の二人に、全盛期のマリリン・モンロー。
ビリー・ワイルダーの作品では、個人的に、これが一番好きかもしれない。
笑えること、超請け合う。