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2023年4月24日月曜日

映画 「越境者」

 1950年  イタリア。




イタリアはシチリアの貧しい村に、たった一つだけある鉱山。


そこが突然《閉鎖》される事になった。


働いている村の男たちにとっては、まさに死活問題。

地下400mのゴツゴツした岩場で、ストライキがはじまる。


女子供たちは地上で、そんな男たちの安否を気遣って居ても立っても居られない様子だ。




坑夫たちと長い付き合いの経理士さんがトロッコで降りてきて必死に皆を説得。


「こんなに硫黄が充満していて空気が悪いところで …… 早く上がってくるんだ! もう、一晩も持たないぞ!」


『サロ』(ラフ・ヴァローネ)や他の坑夫たちもやっと観念して地上へと戻ってくる。


(でも …… これからどうやって暮らしていったらいい? …… )


行き着く不安は、やっぱりソコヘとかえっていく。


妻が亡くなり、男やもめになったサロには幼い3人の子供たちがいるのだ。(上2人が女の子、下の男の子なんて、まだ4歳だ)


(この子らを、これからどうやって食べさせていったらいいのだ …… )


そんな折、一人の中年男『チッチョ』が村の酒場にふらりとやって来て、こんな提案を話し始めた。


「こんな土地にしがみついてるより、是非フランスへの移民をオススメするね!  私ならそれが出来るぞ! なぁ~に、それなりの金を払ってくれるなら私が道中のガイドになってやってもいいし、上手く憲兵たちにも取り計らってもやれるぞ!」←(チョー胡散臭い)



「俺はフランスへ行くぜ!」

誰かが先陣をきって言い出すと、2、3人が賛同しはじめて、しまいには酒場に居た全員が賛成する事になった。

もちろん、サロも ……


家財道具一式を売り払って、わずかな金を工面した数十名たち。


「新天地《フランス》でやり直すのだ!」

皆が命がけで明日への希望に燃えている。


そんな夜、一人の女がチッチョを訪ねてきた。


「二人分、お願いしたいの …… 」

伏し目がちで暗い表情の『バルバラ』(エレナ・ヴァルツィ)である。


彼女は村でも評判の悪い男・ヴァンニと付き合っているのだ。

母親にも反対され、村人たちからも白い目で見られているバルバラ …… でも、悪党とは分かっていても、どうしてもヴァンニとは別れられない。(女心は複雑なのね)


(新しい土地に行けば、あの人だってきっと変われるはず …… )←(根拠のない希望)



こうして、様々な事情を抱えた者たちがバスに乗り込んで出発した。

まずはシチリアから列車に乗り換えて〜ナポリまで。


だが、長い旅路はどんどん困難を極めていき ……





原案・脚本には、あの有名なフェデリコ・フェリーニが関わっている。(『道』、『青春群像』など)


監督はピエトロ・ジェルミ。(これまたイタリア映画界では有名人。監督だけではなく俳優も兼任された方。監督作では『イタリア式離婚協奏曲』を観て、ココでも取り上げました)



で、主演が『にがい米』や『アンナ』にも出演していたラフ・ヴァローネさんである。



ラフ・ヴァローネさんは元々俳優になるつもりはなかったのだけど、勧められて続けるうちに、たまたま出演する作品にも恵まれて大スターになったという稀なお人だ。(どんだけラッキー)


この映画は、そんなラフ・ヴァローネの長い映画人生においても、ある意味、特別な作品となっている。(それは最後に後述しとく)




それにしても、名だたる監督や俳優たちで、よくもまあ、こんな映画を撮りあげたものだ。



なんせ、

《イタリアがあまりにも貧乏過ぎて、絶望して、皆でフランスに行きましょうよ!》

ってのが主題。



それを当のイタリア人たちが総出で撮っているんですもんね。


普通なら逆に《イタリアの素晴らしさ》をアピールしてもよさそうなものを。(当時、この映画は検閲に引っかからなかったのかしらん?)




確かに冒頭に映し出されるシチリアには悲惨さが滲み出ている。

村には木はおろか、草一本はえていないような岩だらけの乾いた場所で、石造りの家しか並んでいない。


これじゃ、農作物なんてのも育たないし、皆が飢えや貧困にも苦しむはずだわ。(※イタリアの貧困はその後も1960年代まで続く。アメリカ経済に助けられ、やっと息をふきかえす事になる)







案の定、ガイドの男は詐欺師だった。



村人からお金だけを巻き上げてトンズラする気だったのだ。(やっぱり!)



ナポリの駅で逃げる男に、悪党ヴァンニが懐(ふところ)から《銃》を取り出して発砲。

駅周辺は大騒ぎになる。



すぐに警察が駆けつけてくるも肝心の二人は捕らえられず、代わりにサロや村人たちが逮捕されてしまう始末。


「いいか!これは恩情だぞ。三日以内に皆んな故郷のシチリアへ帰るんだ!これは警察の命令だ!!」

変な命令書を渡されて苦渋に満ちた顔の村人たち。



警察からやっと開放されると、それをサロはビリビリと破り捨てた。


「今更、家に帰れるか!家財道具も全て売り払ったんだぞ!俺は何としてもフランスへ行くぞ!!」


バルバラも(国境まで行けばヴァンニと出会えるかも ……)そんな期待でフランス行きを決意する。

でも村人の半数は警察怖さに故郷に戻ってしまった。



残りの村人たちは不安ながらも、サロを先頭にして再び歩きはじめる ……





この後も一難去って、また一難。



サロと村人たちは農場で小作人として雇われるも地元の人たちから「よそ者は出ていけー!」の罵声が飛び交う。


そんな中でサロの娘が怪我をしてしまい動けない状態。

バルバラは単身、村まで医者を呼びに行ってくれたりすると、(オヨヨ ……?)二人は何だか良いムードになってきたぞぉ~。




ヴァンニの事が気がかりでも、誠実で子供に優しい『サロ』(ラフ・ヴァローネ)にどんどん惹かれていく『バルバラ』(エレナ・ヴァルツィ)。



映画は大方の予想通り、二人は相思相愛になっていくのだが、この二人、現実世界でも、やがて本当の夫婦になるのである。(なんと!(⁠´⁠⊙⁠ω⁠⊙⁠`⁠)⁠!)



エレナ・ヴァルツィは女優を辞めてラフ・ヴァローネと結婚。

二人は死ぬまで添い遂げる事となる♥。(二人ともに2002年に亡くなっている。どんだけ仲が良かった《おしどり夫婦》だったのかしらん)



この映画の撮影は、後半、過酷過ぎるくらい過酷になり、猛吹雪の中の山越えシーンなんてのは、撮影クルーにしても、俳優たちにしても本当に命がけだ。




こんな困難な撮影を、ともに乗り越えたからこそ、妙な連帯感が生まれて、それが愛情へと変わっていったのかもしれない。




尚、この映画は第1回の《ベルリン国際映画祭》で銀熊賞(監督賞)を受賞している。(ちなみに第52回(2002年)に『千と千尋の神隠し』で宮崎駿金熊賞を受賞している)



だからこそ、ロード・ムービーとしては秀逸の出来。



果たして皆は無事、フランスへとたどり着けるのか …… を最後まで語るのは、いちいち野暮というもの。



是非、ご覧あれ。(オススメしとく)

星☆☆☆☆。


それにしても絵になるくらい格好いい夫婦だなぁ~)