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2022年1月26日水曜日

ドラマ 「花園の迷宮」

 1988年  3月。





「気に入らないねぇ …… そのホクロは《呪いホクロ》さ。今にきっとよくない事がおきるよ」


昭和7年(1932年)、若狭の漁村から、横浜の遊郭『福寿』に売られてきた二人の少女。


『美津』と『ふみ』(斉藤由貴)。


二人は緊張の面持ちで、女主人『多恵』(岡田茉莉子)と、女郎たちを束ねる遣り手(やりて)の『お民』(初井言榮)の前で面通しされている。


そんな二人に、無遠慮なお民はふみを見据えながら、こんな風に言い放ったのだ。


(しょうがないじゃないのよ …… 生まれつきのホクロなんだもの …… )


そこへ、とりなすように多恵が、

「まぁ、まぁ、民さん、二人とも可愛いじゃないのさ」と割って入った。


「フン!」とふてくされるお民の横で、多恵の言葉は続く。


「とにかく美津は18歳で、明日からでも《顔見せ》に出れるね。ふみは、まだ17歳か …… しばらくは下働きしてもらうよ。二人とも下がっておいで」


多恵の言葉に座敷から、そそくさ去る二人。

その奥では、まだお民の愚痴がブツブツ聞こえている。


「全く!昔なら14、5で客をとれたものを …… お役人の決めた法律で18からじゃなきゃダメだなんて。やりにくい世の中になったもんだ」



二人は自分たちの狭い部屋に戻ると、ひとまず「ホッ!」と息をはいた。


いくら覚悟して売られてきたとはいえ、まだ年端もいかない娘たち。

そんな不安をふみが言葉にすると、美津からは意外な言葉が返ってきた。


「あんな寂れた村に帰ってどうするの?私はここで立派に稼いでみせるわ!」


(お美津ちゃんは大人だ。あたしよりもしっかりしている ………なら、あたしもここで頑張って生きていかなきゃ ……… )


こんな美津の叱咤に、決意を新たにする『ふみ』。

次の日から、台所仕事、掃除、遊女の使い走りと懸命に働きはじめる。


だが、ふみは、この時まだ知らない。

この『福寿』で、この後に起こる凄惨な《殺人事件》のことを ………





原作は1985年に発表されて、翌年、江戸川乱歩賞を受賞した山崎洋子の『花園の迷宮』。


その昔、江戸川乱歩賞を受賞した作品に凝っていた時期があって(またもや)、この小説も御多分にもれず読んでみて、面白かった記憶がある。


江戸川乱歩賞を受賞すれば、作家として大々的に売り出されるし、映画化やドラマ化もされるという、なんとも優遇された時代である。(まぁ、昔は本もバカ売れしていたしね)


この小説も即、映画化がされるのだが、江戸川乱歩賞を受賞したとはいえ、まだまだ新進作家。



映像と小説は別物とはいえ、トンデモない改変 をされてしまう。(ゲゲッ)


小説の舞台、昭和7年は→昭和17年に。

主人公は遊郭に売られてきた少女『ふみ』なのに、『ふみ』から→女主人の『多恵』に変更。



その多恵を島田陽子が演じて、内田裕也とのデレデレ・シーンがながれるものだから、もはやタイトルだけは同じでも、完全な《別もの》に映画は仕上がっている。(『ふみ』役の工藤夕貴は、居ても居なくてもいいような脇役扱いである)


それに誰も彼もがドレス姿で、《遊郭》って雰囲気は全くゼロ。(やっぱり《遊郭》といえば着物でしょうよ)


昭和17年の設定すらおかしく思えて、「コレ、いったい何時代の話なの?」と、違和感だらけに思ったほどである。




オマケに、映画はコケて(当たり前だ)、島田陽子と内田裕也が現実でも公然の不倫関係。


特に内田裕也の方がメロメロ♥️♥️で、樹木希林を無視して、勝手に離婚届まで出してしまう始末。


それに、これまた、妻の樹木希林もカンカンに怒って、離婚届を無効にするよう裁判沙汰。


もうドロドロの愛憎劇で連日マスコミは大騒ぎ。(結局、二人の不倫は後に解消されるのだが💔)



当時は、こんな話題ばかりが先行されて、『花園の迷宮』のお話は、完全に置いてけぼりにされた感があったのでした。(ダメだ、こりゃ)



こんなトンデモ映画の公開が1988年1月。

それから2ヶ月遅れて、やっと原作どおりのドラマ化(日本テレビ『火曜サスペンス劇場』枠)が放送される運びとなる。


私なんか、完全に原作フアンだったので「やっとか ……」という想いと、主演が斉藤由貴という事で、放送当日は鎮座して待ち構えておりました。(今思うと、本当に後悔。なぜ?録画しとかなかったんだろう?)


一回きりの視聴ゆえ、冒頭に書いた序章は「多分、こんな風だったはず ……」と、あまり自信のだが、原作を読んでいるので大体合ってるはずである。



『ふみ』(斉藤由貴)は下働きをしながら、やがて女主人『多恵』の一人息子『陽太郎』(田中隆三)と親しくなっていく。


いつでも、ぶらりと外へ飛び出して、年中遊び歩いている陽太郎は、根っからの風来坊。


(全く働きもしないで …… いったい何考えてるのかしら)


そんな『ふみ』の視線に気づいたのか …… 陽太郎の方も、ふみの姿を見れば話しかけはじめて、自然と茶々を入れてくるようになる。

「変わった奴だ」と。



そんな生活を送る日々で、ある日、美津が客の男と一緒に亡くなってしまう。


《痴情のもつれの無理心中》 …… 誰もがそう思った事件だった。


そんな中で、

「違う!お美津ちゃんが死ぬはずがない!お美津ちゃんは誰かに殺されたんだ!」と、一人『ふみ』だけが声を荒らげて納得しない。


「うるさいね!ガタガタ言うんじゃないよ!!遊女の一人や二人が亡くなったからって遊郭じゃ、よくある話さ。お前の幼なじみが死んで損してるのはウチなんだよ!黙りな!!」



遣り手の『お民』(初井言榮)は、にべもなく、ふみを怒鳴り付ける。(あぁ、合う画像が見つからない。ゴメンなさい )


だが、誰に言われても引き下がらない『ふみ』は、素人探偵よろしく、ドロドロとした情念が渦巻く遊郭『福寿』の中で、事件にドンドン深入りしていく。


時には、陽太郎に憧れる遊女たちの嫌がらせに合ったりしながらも。(女の敵は女)


やがて起る、第2、第3の事件。

果たして《真犯人》は誰なのか?!………




こんなのが本来の『花園の迷宮』のあらましである。(本当に、あの素っ頓狂な映画は何だったんでしょう ( 笑 ) )


このドラマ、『火曜サスペンス劇場』枠の放送なれど、日本テレビ開局35周年作品と銘打たれていたので、とにかくセットが豪華。


忠実に、原作に出てくるような昭和初期の町並みを、大々的にセットを組んで、完全再現していた。(今思うと、相当お金がかかってるし、贅沢なドラマ化である)



主演の斉藤由貴にしても、この時期で久しぶりに活き活きしてるように見えた。


『スケバン刑事』、『はね駒』と立て続けに大ヒットをとばして、古巣のフジテレビに戻ってきても、ろくなドラマの主演ばかり。(『あまえないでよ!』、『遊びにおいでよ!』駄作のホーム・コメディーばかりでした)


ごく普通のホーム・ドラマ、恋愛ドラマじゃ、この人にはダメなのだ。



非現実的なキャラ設定(『スケバン刑事』、『吾輩は主婦である』)、時代モノ(『はね駒』)こそ、彼女の本領を充分に発揮できると、今じゃ確信している。(本人も浮き世離れした性格だしね)



物語のラスト、全ての事件が解決して遊郭『福寿』は店をたたむことになり、皆が散り散りに去っていく。


「お前は自由だ。これから好きな所に言って生きていくんだ」


陽太郎に言われて、町中の雑踏を歩き出す『ふみ』。


原作では、そこで足を止めて、人混みの中、陽太郎の姿を探して、後を追いかけてゆく『ふみ』の描写で終わったはずなのだが、ドラマではどうだっただろうか。(このあたり、記憶があやふやで ……… 変わり身の早い斉藤由貴ゆえ、振り返りもせず、スタコラ去っていったか?( 笑 ) )



なんにせよ、もう一度、記憶補完に見直してみたいドラマである。


DVD化希望。

星☆☆☆☆。


《 昭和初期 横浜遊郭街 》