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2021年7月25日日曜日

映画 「逃走迷路」

1942年 アメリカ。




カリフォルニアの軍需工場で働く『ケン』と『バリー』(ロバート・カミングス)。


二人は仕事を終えて帰ろうとするとき、ある男とぶつかると、男の持っている封筒が落ちて、中からは、紙幣の束がとびだした。


「あ、すまない」


「フン!」無愛想に立ち去ろうとする男……封筒には『フライ』という名前が書かれていた。


そんな折、突然工場で火災発生🔥


大騒ぎして逃げ惑う工員たち。


そんな中で、ケンとバリーも、懸命に消火活動に加わった。


「これを使うといい」

バリーに消火器を渡す男……さっきの愛想なしの『フライ』(ノーマン・ロイド)という男じゃないか。


バリーは、その消火器をケンに渡した。


ケンが、その消火器を噴射しても豪炎はますます激しくなるばかり🔥🔥🔥


そして、とうとう火に巻き込まれて焼死してしまうケン🔥


なんと!あの消火器には《ガソリン》が仕込まれていたのだった。



軍需工場が大火災で全焼して、おまけに死人まで出したとなると、事は大問題。

すぐさま警察が駆けつけると、案の定、ケンの友人であるバリーが真っ先に疑われた。


「お前が、ケンにガソリン入りの消火器を渡して工場全滅をはかったんじゃないのか!?」


「違う!俺じゃない!『フライ』という男が消火器を渡したんだ!!」


「そんな男は、この工場にはいないぞ!」


警察の尋問は執拗で、全面的にバリーの仕業だと決めてかかっている。

こうなれば何としても、あの『フライ』とかいう男を探しださなくては……


(確か……あの落とした封筒には『フライ』以外にも何か書かれていたはずだ……そうだ!確か住所が………『ディープ・スプリングス牧場』と書かれていたんだ!!)


警察に疑われながらも、自身の無実を晴らす為に、バリーの必死の逃走がはじまる………。


ヒッチコックお馴染みの《間違えられた男》が無実を晴らす為に逃亡するお話である。(『三十九夜』、『北北西に進路をとれ』、『泥棒成金』などなど……この手の映画はわんさとある)


ただ、この映画『逃走迷路』は、その手の映画にしては、あんまり破綻も少ないし、けっこうちゃんとしてるかも。(それに相変わらず警察はオマヌケだが、戦時中ゆえに、こんな警察でも「有り得るかも…」と思ってしまう)


もちろん、むさ苦しい男一人の逃亡劇じゃ、観ている観客は「しらけ~」になってしまうので、サービス精神にとんだヒッチコックは、逃亡の旅の道連れに、美女を用意している。


それが、この女性プリシラ・レイン嬢。(おや、『毒薬と老嬢』でケーリー・グラントと共演していたレイン嬢ではございませんか)



手錠に繋がれたまま、警察から間一髪逃れたバリーは、ある盲目の老人に助けられるが、そこへ、たまたまやって来た姪の『パット』(プリシラ・レイン)に見つかってしまう。


「彼は悪人よ!手錠をはめられているのよ!すぐに警察に突きだすべきよ!」


そんなパットをいさめるように盲人の叔父は、「この人は悪人じゃない!目は見えなくても、私にはこの人がどういう人か分かる……」と言ってのける。


あろうことか、叔父はパットに、「バリーさんに協力してあげなさい」とまで言うのだ。


(エエーッ?!なんで私がそんな事をしなけりゃならないの?!)


パットはブツブツ言いながらも、取りあえずは叔父の命令に従って、バリーを車に乗せて目的地まで送ることにした。


だが、本心では、(こんな男を信用できるもんですか……)なのである。



隙をみて、誰かに助けを呼ぼうとするパットの口をバリーが塞ぐ。


「フンガ、フンガ……ンググ……」(本当に運が悪いとしか言い様のない『パット』(プリシラ・レイン)さん)


こんな二人の逃亡は、どこに行くにも、ピッタリくっついているので、当然周りの人々は勘違いしてしまう。


「見て!片時も離れずに、あんなにくっついて……よっぽど愛しあってるのよ」なんて言われよう。


こんな二人の珍逃亡は、なぜか?皆が協力的になるのである。


サーカス団に逃げ込んでも、「愛し合う二人を助けてあげましょうよ」なのだ。(勘違いって怖い (笑) )


このバリーという男には、なんだか人の同情をひいてしまうような特殊なモノがあるらしい。



こんなパットにしても、よくよくバリーを見れば、(あら、この人……意外と整った顔をしてるのね……)なんて、思いながら変な感心をしてしまう。



やがて、バリーの言っている事が本当だと分かると、バリーにあっさり惚れてしまった♥『パット』(プリシラ・レイン)は、180度態度を変えて、俄然、協力的になる。


「一緒に、その『フライ』とかいう男を見つけるのよーー!」(女って、こうも簡単に変われるの? (笑) )



そうして、有名なクライマックス、バリーとフライの《自由の女神》での最後の対決になっていくのである。


『逃走迷路』っていうと、どんな映画評を読んでも、とかく、この《自由の女神》の場面ばかりがクローズ・アップされているが、自分はバリーとパットのカップル、二人のハート・ウォーミングな逃亡劇の方に心奪われる。


だいぶ、以前にヒッチコックが撮った『三十九夜』的な要素が多い気もするが、それもご愛敬ってところか。(警察から逃げる男と、偶然居合わせた女が反発しながら、逃亡中にラブラブになるところなんかね)



この映画が公開された1942年といえば、第二次世界対戦真っ只中の時期。


《軍需工場》やれ、《テロ》やれ、主人公『バリー』(ロバート・カミングス)も、「自国アメリカの平和を守るため!」みたいな名目やワードが、ジャン、ジャン出てくる。



時世といえば、しょうがない事なのだろうけど、それでも、そんなモノに多少の配慮はしていても、ヒッチコックが撮りたかったのは、やっぱり、ハラハラ、ドキドキ、ワクワクするような《エンターテイメントの世界》なのだ。



辛い現実から、ひとときでも逃れて、皆が楽しめる映画を作りたい!……


そんなヒッチ先生の心意気が伺われるようで、これはこれで、まぁまぁの良作なんじゃないかな?



そんな気持ちが功を奏してなのか、なぜか?この戦争中には、ヒッチ作品にも面白いものが、ズラズラ~と並んでいく。


1942年 『逃走迷路』

1943年 『疑惑の影』

1944年 『救命艇』……


これらは、どれを観ても、今でも楽しめる、粒よりぞろいなのである。



以前、何かの本で読んだ事があるが、あのアガサ・クリスティーが戦争中、昼間は奉仕活動をしていて、夜は世間の雑念を、完全にシャットダウンして、無心になって小説を書き続けていたそうな。


辛い現実から逃れるために、自身の書く物語の世界に没頭し、ひたすら書き続ける………。


この時期のクリスティーも、また、後年、傑作と呼ばれる作品を数多く書き上げているのだ。



これらは、戦争がもたらした偶然の副産物。


モノを作ろうとする、作家や映画監督、クリエーターたちの創造力を、極限状態まで高める結果になったのである。



だからこそ、この時期に作られた映画や小説には、他のものでも、あまりハズレを見かける事が少ない。


そして、この『逃走迷路』もしかり。


星☆☆☆と、しときましょうかね。