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2021年2月6日土曜日

ドラマ「赤い死線」

1980年 11月7日、14日。




北海道襟裳からバレリーナを夢見て、東京に上京してきた『川浪良子』(百恵ちゃん)は、故郷の母に仕送りする為に、夜は高級ディスコ《ミルキー・ウェイ》のダンサー生活。


だが、ダンサーといっても、ディスコの音楽に合わせて、お立ち台の上でドスケベな男たちの視線に晒されながら踊るのだ。


決してマシな仕事じゃない。


そんな良子の信用できる友達は、このビルの窓辺から、向かい合わせに見えるビルの時計だけ。


踊りながら、チラチラ眼にはいる時計の針に、

「後、もう少しで、こんな嫌な仕事も終わる……あの時計だけは私を裏切らない……大切な友達……」


こんな想いで毎夜、踊り続ける良子なのである。



そんな良子をお立ち台の下で眺めながら、

「いいねぇ~若い娘は……」

なんて舌舐めずりしてるのは、このビルのオーナーで金貸しが本業の『江藤社長』(高橋昌也)。


そんな江藤を袖にして、わざと手を踏んづけたりする良子(イジワルな百恵ちゃん)。


「おい!ビルのオーナーさんなんだぞ!ちょっとは愛想よくできないのか?!」

ディスコの支配人(石立鉄男)はカンカンだ。



そんなディスコに突然、男が乱入してきた。


怒鳴りこんできた青年、『北村明夫』(三浦友和)は、「預けた1000万円を返してくれ!」と江藤に直談判にやってきたのだ。



そんな明夫の懇願に、江藤は「知らんな~」と、悪党らしくスットボケ。


チンピラの部下たちに明夫を押さえつけさせると、冷酷に「外に放り出せ!!」と言い放つ。


「江藤さん、俺を騙しやがったのか?!あんたを……あんたを殺してやる!」憎悪の言葉を残して、明夫は連れ出されていった。




そして、夜半、寂れたアパートに帰りついた良子。


良子は故郷の母に向けて嘘の手紙をサラサラ書いていた。


「バレリーナになるために頑張っているわ……」そんなデタラメな嘘をならべたてて。


もう、とっくにバレエ団からは退団させられていたのにだ。



そんな良子のアパートに突然、侵入者が現れる。


「誰?誰なの?!」


なんと!現れたのは、先ほど連れ出されていった青年、北村明夫(三浦友和だったのだ。(これ、三浦友和じゃなかったら、ただの不法侵入の変質者である)


見ると明夫の手には重そうなカバンが。

「江藤から1000万円を奪い返してきたんだ!」(友和、それ泥棒だって!(笑) )



そんな明夫、良子が書いていた手紙に目が止まったようだった。すると、


「良子ちゃん?あのうちの側に住んでいた良子ちゃんなのか?!俺も北海道の襟裳なんだ!! 覚えてないかい?近所の北村明夫だよ!!」


「明夫……さん?」


なんと!これまたビックリ。二人は同郷で幼馴染みだったのだ。(こんな偶然ある?無い!無い!これは都合のいいドラマだから)


素性が分かった二人の会話は、やがて良子の現状、バレリーナの話へと変わっていく。


「母に嘘の手紙を書いてるのよ。とっくにバレエなんてやめてるのにね……馬鹿ね、私って……」と自嘲気味に語る良子。


そんな良子に、何を思ったのか明夫は、いきなりの平手打ち。


「バカヤロウー!!」

(友和、お前が馬鹿野郎だ。不法侵入、泥棒、女性をビンタ、もう、どれだけ罪状を重ねるの?(笑) )



そんな明夫のビンタに目が覚めた良子(百恵ちゃん)は、何を思ったのか、突然こんな事を言い出した。



「故郷へ……北海道の襟裳へ帰るわ!あなたも一緒に帰らない?! そうよ!

こんな東京にオサラバして、二人で帰りましょうよ!!


たった一発のビンタで、目の前の男、明夫に惚れてしまった良子は、いきなりこんな提案をしてきたのだ。(この良子も相当、おかしな女である。)


「分かった……二人で北海道へ帰ろう」(良子も変なら、明夫も変。変な者同士で妙に気が合う二人)



だが、その前に明夫が奪ってきた1000万円は返さなくてはならない。


これに関しては頑として譲らない良子の説得に、明夫も折れて、二人は江藤商事のビルに、深夜やって来たのだった。


ビルの一階には、守衛のオジサン(べらんめえ調の松村達雄)がいるだけ。


そんなオジサンに良子(百恵ちゃん)は、「オジサン~ごめんなさい。更衣室に忘れ物しちゃって……取りに行きたいんだけどいいかしら?」の甘え声。


「しょうがないなぁ~」と守衛のオジサンも美人には甘く、鍵束を持って良子をビルに引き入れた。その後を、こっそりついていく明夫。



更衣室の前で、「どの鍵だったかなぁ~」と探るオジサンに、わざとぶつかり良子はいくつもの鍵を床に散らばらせた。


「ごめんなさい~」と言いながら、鍵を集めるフリをして、良子は最上階のオーナー室の鍵を見つけると、廊下の角に隠れた明夫の元へと、それを滑らせる。



(上手くいったわ……後は明夫さんが、あの1000万円を返しにいくだけ)


良子はオジサンを体よくあしらうと、ビルの外で明夫が戻ってくるのを、じっと待っていた。




でも、待てどくらせど明夫は現れず……。


シビレを切らした良子は、もう一度ビルに戻ってみると、オーナー室の扉の前では蒼白になった明夫がいた。


そして、その先には、包丁で背中を刺され死んでいる、あの江藤の姿が……。


「……俺が来た時は、もう殺されていたんだ!」



その言葉を即座に信じる良子。


そうよ!この人は犯人なんかじゃないわ!(愛する友和だから?もう恋は盲目である)



そんな二人の後ろから、


「ひっ!人殺しー!!」の絶叫がこだまする。


振り返ると、あの、守衛のオジサンだったのだ。



(これはマズイ)と思った二人は、オジサンを椅子にグルグル縛りあげて、口には猿ぐつわをした。(オイオイ、お前ら)


フンガ!、フンガ!と悶えるオジサンに、「ごめんなさい、オジサン。でもこの人は犯人じゃないのよ。真犯人は必ず別にいるはずなんだから…」と言う良子。


でも、そんな良子の言葉に、とても同意している様子でもない守衛のオジサンなのである。(縛られて、猿ぐつわじゃね)



ビルの外に出て、車に乗り込んだ明夫と良子は考え込んでいた。



二人は無事に疑いをはらすことが出来るのか?


深夜のビルに、あの、友達の時計が無情に針を進ませていく………。





こんな感じの『赤い死線』が百恵ちゃん最後の引退ドラマである。



ご覧のように、百恵ちゃん演じる良子も、友和演じる明夫も、相当に変だ。



友和なんて、もうやってる事は犯罪のオンパレード。


これのどこを見て、


「この人は犯人なんかじゃない!」なんて言いきる事ができるのか (笑)


そう、このドラマは、ハンサムな友和と人気絶頂の百恵ちゃんだったからこそ、ギリギリ成り立っているようなお話なのである。


二人の高い好感度と、現実に二人がこの後、「結婚する!」っていう、世間の祝福モードがあればこそ、こんなヘンテコリンなキャラクターでも、当時は違和感なく観れた奇跡のドラマだったのだ。



もう、この後もヘンテコな展開が続く続く……。


コレを昔は違和感なく観ていたんだよなぁ~(よく、これを思い出の中で美化できたよ、と我ながら不思議に思う)



このヘンテコなドラマ、「原作の小説はマトモなのか」と、私、ウイリアム・アイリッシュ(コーネル・ウールリッチ)の『暁の死線』を読んでみた事もある。


やっぱりドラマを地でいくようなお話でした。


アイリッシュの美麗なタイトルの付け方と、詩的な文体に騙されてしまいがちだが、よくよく読んでみると、この人の小説自体が、トンデモない、あり得ない展開だらけなのだ。(映像にすれば、この出来も納得なのかもしれない)



それでも、「百恵ちゃんの為なら…」と、この後も有名俳優や当時のスターたちが、軒並出演してくださっている。


アン・ルイス、ジョニー大倉、松原智恵子さん、三國連太郎さん、前田吟さん、春川ますみさん、坂上二郎さんと……(飛びます!飛びます!)



宇津井健なんて、役名すらない端役でも駆けつける始末。(まぁ、お二人の仲人だしね)



ドラマ自体は、トンデモない内容でも、当時の祝福モードは画面を観ていても伝わってくるかも。


そんなスターたちに支えられて、ギリギリ星☆☆☆としておきます。



※あっ、そうそう、真犯人ですが、「オーナー室の鍵を開けられるのは、《この人》しか出来ない」と書けば、察しのよい人にはお分かりになるかな?


長い逃亡を続けながら、あちこちと、さ迷った二人のたどり着いた真相が、結局これだったとは……トホホ (笑)