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2020年11月23日月曜日

映画 「恐怖の岬」

1962年 アメリカ。




弁護士『サム・ボーデン』(グレゴリー・ペック)は、美人で気立てのいい妻ペギーと、一人娘ナンシーに囲まれて、幸せな暮らしを満喫していた。


だが、ある日、サムが裁判所から出て帰宅しようと車に乗り込み、キーを回そうとすると、誰かの手が横からスーッと伸びてきて、素早くキーを奪った。


「先生、お久しぶり!」


その声の先には、助手席の窓から、ニヤついた顔を出している一人の男。


パナマ帽をかぶり、ニヤニヤ笑いながら葉巻をくわえた、その男をサムは(誰だ?)と思ったが、それも一瞬。


その男が喋りだした途端、サムの記憶はすぐに蘇ってきた。


(マックス・ケイディ………)


8年前、女性に暴行し、サムの証言で刑務所送りにしたのが、今、目の前にいる『マックス・ケイディ』(ロバート・ミッチャム)なのだ。


「やっと出所したんだ。出所したら一番にあんたに会いたくてな」


白々しく語るマックス……今さら俺に何の用だ?


俺への逆恨みをはらしに来たのか?……だったら、こんな奴など相手にできるか!



サムはマックスからキーを取り返すと、エンジンをかけて車を発進させた。


後方からは、まだマックスの叫ぶ声が聞こえる。


「美人のカミサンと娘がいるんだってな!また近いうちに会おうぜー!!」


そんな事まで調べあげているのか?!

妻と娘に何をするつもりなんだ!!


サムは恐怖し、自宅に帰ると、すぐさま親友で警察署長の『ダットン』(マーティン・バルサム)に電話した。


「助けてくれ、署長!」と。


ダットンは署長の権限で、マックスを引っ張ってくると、「前科のある犯罪者は、町にとどまるには警察に報告する義務がある」と言い、マックスの持ち物検査をしたり、部下の警察官たちに、「マックスの監視をして、何かあればすぐに捕まえてこい!」と言い含めた。


だが、ダットン署長の権限もそこまで。


マックスは、さらに上をいき、自ら弁護士を雇ったのだ。


マックスの雇われ弁護士グラトンは、「警察から違法な圧力をかけられている!」と、逆に署長とサムに詰め寄ってきたのである。


「こうなりゃ、わしにはどうしようも出来ないよ、サム」


グラトンが警察から引き揚げると、もはやお手上げとばかりにダットン署長はため息をつく。


だが、飼い犬は毒殺されて(マックスが殺したに決まってる!でも証拠がない)、妻と娘は、身近でマックスの姿が見えれば、それだけで怯える日々。


とうとう、サムは私立探偵『チャーリー・シーバース』(テリー・サバラス)を個人で雇い、マックスの動向を見張らせるのだが………





やっと観た『恐怖の岬』である。


リメイク版『ケープ・フィアー』を、昔観ていたので、あらすじは知っていたし、(今さら…)感もあって、今日までズルズル観ずにいたのだ。


なんせ、このblogにも再三書いているが、真面目一辺倒なグレゴリー・ペックが、少々苦手な為である。


やっぱり、この映画でもお堅い、真面目な弁護士役のグレゴリー・ペック。(『パラダイン夫人の恋』でも弁護士役だったし、「またか……」って感じなのだ)


妻のペギーとキスしたり、抱き合ったりしても色気を全く感じさせないグレゴリー・ペック 。(生来の真面目さも、ここまでくると、段々貴重な気がしてくる (笑) )


父性愛は一応あるようで、娘のナンシーの為なら俄然張り切るのだが…。



でも、観ていくと分かってくるのだが、


「この映画のグレゴリー・ペックは何だか、いつもとひと味違うぞ!」と思わせるのだ。




それもこれも、《ロバート・ミッチャム》が出演しているからこそ。




グレゴリー・ペックも、普段の映画とは随分、勝手が違う雰囲気を感じたはずなのだ。


そのくらい、ミッチャムがはたす役割は、この映画では、とても大きいのである。



なんせ、冒頭の出だしから、ミッチャムが、画面に現れただけで、怖い雰囲気がムンムン漂う。


裁判所に現れた『マックス』(ロバート・ミッチャム)は、階段ですれ違った何冊もの本を抱えた女性にぶち当たって、本を落としてしまっても知らんぷりで通りすぎる。(監督 J・リー・トンプソンの演出なんだろうけど、ミッチャムが演じると怖さと冷酷さが、これだけで感じられる)


『サム』(グレゴリー・ペック)が妻と娘を連れて、ボーリングをして楽しんでいる時も、「ヌ~ッ!」と顔を出すだけで、恐ろしい『マックス』(ロバート・ミッチャム)の顔。( (゚ロ゚)ヒイィィーィ! )


サムも、思わず投げた玉はガーターをたたきだしちゃう。(でしょうね)




特別過剰な演技をしているわけでもないのに、この怖さは何なんだろう?



《スリーピング・アイ》(眠たそうな瞳)とアダ名されたミッチャムの目だけではないような気がする。


観ている自分には、ミッチャムの背中から羽のように、うっすら伸びる、闇のようなオーラを感じてしまうのである。



こんな雰囲気を漂わせるミッチャムに、グレゴリー・ペックも次第に影響されてくるのか、自覚してなくても芝居が変わっていくのだ。


『マックス』(ロバート・ミッチャム)に恐怖し、憎む表情は、もはや、いつもの優等生グレゴリー・ペックの表情じゃない。


「どんな手段を使っても負けてたまるか!」なのである。


チンピラに金まで払ってマックスを襲わせるサムに、話の筋書きとはいえ、意外な一面を見て、「オオッ!」と声を上げてしまった。(卑怯なグレゴリー・ペックも珍しい)


映画のラスト、ケープ・フィアー川での一対一の対決。



川につかりながら、後ろからグレゴリー・ペックの首を締め上げて殺そうとしてるロバート・ミッチャムに手加減はない。


(何がスターだ!殺してやる!殺してやるー!)と、どす黒い本気の殺意さえ感じてしまう。


もう、グレゴリー・ペックも(このままじゃ本当に殺されてしまうかも…)と本気でジタバタしてるように見える。(そのくらい真に迫っている)



何にせよ、グレゴリー・ペックの出演する映画で、初めて良いと思ったくらい、この映画は良かった。


そして、それを牽引し、自分の世界にグイグイ引き込んでいくロバート・ミッチャムは、まさに演技派。


稀な怪優と呼べるんじゃないだろうか。


星☆☆☆☆☆。



※これを観た後では、途端にリメイク版が、もの足りなく思えてしまった。

体中に刺青アートをしたデ・ニーロの怖さなんか比較にならない。

ロバート・ミッチャムの勝ちである。(『狩人の夜』も怖いぞ~!ご覧あれ)



後、まだスキンヘッドじゃないテリー・サバラスなんてのも珍しいかも。(か、か、髪の毛があるぅ~)

これまた、一見の価値ありである。