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2019年12月15日日曜日

映画 「麗しのサブリナ」

1954年 アメリカ。






実はオードリー・ヘプバーンビリー・ワイルダーのコンビで、この『麗しのサブリナ』と『昼下りの情事』、どちらを書こうかと迷っていた。(結局、どっちもこうして書いているのだが)




自分としては、『昼下りの情事』の方が好き。



『麗しのサブリナ』は、観る前から既に有名だったし、オードリーの評判も聞いていた。
で、ある日、観たのであるが、………う~ん、あんまり大騒ぎするほどでもないかも。



確かに、オードリーは可愛いし、斬新なショート・カットやサブリナ・パンツなんてのも絵になる。


でも、物語自体は、ビリー・ワイルダーにしてはギリギリ及第点ってところかな。



大富豪ララビー家の運転手の娘『サブリナ』(オードリー・ヘプバーン)は、そのララビー家の次男『デヴィッド』(ウイリアム・ホールデン)に恋しているのだが、叶わぬ恋。


父に諭されて、パリに留学して帰国すると、洗練されて大変身。


デヴィッドは、そんなサブリナにすっかり夢中になるのだが、政略結婚が待っている。


兄の『ライナス』(ハンフリー・ボガート)は、そんな二人を引き離そうとするのだが、いつしかライナスもサブリナに夢中になってしまって………、ってのが、この映画のストーリー。




でも、昔、この映画を観た時、何だかしっくりいかない、変な雰囲気を感じた気がしてならなかった。


その時は、口では説明しにくい妙な違和感。


でも、後年、その理由も徐々に分かってきた。(やっとパズルのピースが揃ったのだ)


その理由を、ここに書きたいと思う。





実は、この長男の『ライナス』役、最初はケーリー・グラントにオファーされていた。(またもや、ケーリー・グラントである。どれだけ、当時、彼が映画関係者たちから好かれていたのか、分かるエピソードである)


でも、撮影1週間前に、グラントは急遽降板してしまう。(アララ……普通なら怨むビリー・ワイルダーだが、それでも後年、『昼下りの情事』でも熱烈なオファーをするのだから、どんだけケーリー・グラントは愛されていたのやら)



代わりに選ばれたのが、『ハンフリー・ボガート』。



それまで悪役専門にやってきた彼は、ジョン・ヒューストン監督に見出だされ、『マルタの鷹』、『黄金』、『キー・ラーゴ』、『アフリカの女王』とハードボイルドや男臭い主人公でキャリアを築いてきた。


恋愛映画『カサブランカ』なんてのもあるが、これは戦時中のドタバタの時に撮られたもので、共演のイングリッド・バーグマンは、後年まで「あれは失敗作だった」と言っていたほどである。(バーグマンの評価も後年は変わるのだが)



まぁ、そもそも恋愛映画ってのが、珍しいボガートなのだ。



そんなボガートに、オードリーの相手役『ライナス』。



ビリー・ワイルダーは、以前も、ここで書いたのだが、完璧主義者。


撮影1週間前だというのに、ボガートのキャラクターに合うように、脚本を一から書き直させたのだ。(ゲゲッ!!)



当然、撮影中に間に合うはずもなく、書いてはシーンを撮り、書いてはシーンを撮りの連続。


そんな状況下でワイルダーは、オードリーにだけ打ち明けると、オードリーはワイルダーの為に、わざと時間かせぎの為にNGを連発した。


ワイルダーは、(ありがとう!オードリー)と心の中で手を合わせた事だろう。



そんなNG連発のオードリーに、ボガートは最後まで気づく事もなく、撮り終えると、「彼女の将来の女優としてのキャリアが心配だ」と皮肉たっぷりにインタビュアーに語ったとか。(知らぬが幸せである)




こんな不協和音は、まだまだある。



ボガートはウイリアム・ホールデンと仲が悪かった。(明るい笑顔で誰からも好かれるホールデンに嫉妬していた、と言った方がいいか)


そんなホールデンとオードリーは気があっていて、休憩中も始終ベッタリ。



ワイルダーにもスタッフにも気に入られているホールデン。


そんな状況で、ひとりブスッとしているボガートは、1日の撮影が済むとさっさと帰宅する。



そんな撮影の日々で、とうとう、ボガートはワイルダーとぶつかりあった。



どんだけワイルダーの事を、ボガートは酷くなじったのか知らないが、死ぬ間際(1957年に食道癌に侵される)に、ワイルダーを呼んで、「許してくれ……」と言ったらしい。



どんな言葉でワイルダーに噛みついたのかは、分からないが、以前観た『マルタの鷹』のサム・スペードのように、怒ると早口で、機関銃のように、まくし立てるボガートが想像してならない。



こんな裏事情を知ってしまうと、自分が感じた違和感も、納得してしまう。

それに、やはり、この映画の脚本が弱いのも、これまた納得である。




それと、ボガートには悪いのだが、やはり彼はミス・キャスト。



それは《身長》の問題。



ウイリアム・ホールデン=180cm。

オードリー・ヘプバーン=170cm。(けっこう身長あるんですよ、オードリーって)



それに対して、ハンフリー・ボガートは、たった173cmなのだ。



オードリーが、ちょっとのヒールでも履けば、ボガートの身長を軽く追い抜いてしまう。


ケーリー・グラントは187cmあるし、『昼下りの情事』のゲーリー・クーパーは190cmもある。


画面に並んだ時の、オードリーとボガートを見ると、「何でこんな小男と……」と思わずにはいられない。(まぁ、173cmも普通なんだけど、当時のハリウッドでは、やや低い方)



これが違和感だったのか……。



男と女が並んで画面に映った時、女が多少、上を見上げてなければ、陶酔(恋している)って絵面にならないのだ。

特に恋愛映画では、そんな気がする。




でも、こんな自分の勝手な感想とは関係なく、この映画も名作として残ってきている。


映画とは、つくづく不思議な生き物である。

星☆☆☆。