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2019年10月30日水曜日

映画 「フィフス・エレメント」

1997年 フランス・アメリカ合作。








1914年のエジプト。



ある考古学者一行が、ピラミッド神殿で、4つのエレメントと、幻といわれる『フィフス・エレメント』について、熱心な解読作業をしていた。



そこへ空から巨大UFOがやって来る。

UFOからは、奇抜な格好の宇宙人が降りてきた。




その宇宙人『モンドシャワン人』は、ピラミッドから、4つの石を運びだしはじめた。



初めて見る宇宙人に皆が(ポカ〜ン!)呆気にとられていると、同行していた一人の神父に、モンドシャワン人が語りかけはじめる。(なぜか言葉はペラペラ)



「300年後、地球の危機が来る!その時に
我々は、またやって来る」と。



「そうして、このことを代々、お前の子孫に言い伝えるのだ」

それだけ言うと、UFOは遥か宇宙へ、とっとと帰っていく。



「まさしく神のお告げだ!!」

この衝撃的な出来事は、神父の心に深く刻み込まれた。




……… そうして300年後。


《2214年の地球》では、予言どおり絶体絶命の危機が訪れていた。



巨大な暗黒球体が、想像を絶するほどの巨大化を続けながら、地球へとグイグイ!急接近していたのだ。



この球体に、どんなに攻撃してもムダ。


それどころか、球体は、その攻撃さえも栄養にして、ドンドン巨大化🌑→🌑→🌑を続けている。




このままだと、地球は木っ端微塵なのである。




この球体を破壊するには、モンドシャワン人が運んでくるという、謎の秘密兵器『フィフス・エレメント』の到着を待たねばならないのだ。



だが、それを運ぶ宇宙船は、武器商人ゾーグの攻撃で、運悪く破壊されてしまう。



モンドシャワン人の残された細胞の一部だけが、なんとか、辛うじて地球へと持ち込まれた。



(こんな残骸で、いったい何が出来るというのだ …… )



政府関係者たちが固唾をのんでいると、科学者たちは、それを再生蘇生させるため、カプセルに投入。


カプセルの中で、ソレは、みるみる人間体へと形作られていく。


あっと言う間に、ソレは、オレンジ色の髪を持つ美しい女性へと変えられていった。(あら不思議!)



科学の勝利!『リー・ルー』の誕生である。



だが、『リー・ルー』(ミラ・ジョヴォヴィッチ)は、突然の環境の変化に大パニック。



研究所の壁をぶっ壊して簡単に逃げ出すと、高層ビルからダイビングした。



そこへ、たまたま通りかかった空飛ぶタクシーが、偶然受け止める。(未来では何でもありだ)



それは主人公であり、やがて世界を救う救世主となる『コーベン・ダラス』(ブルース・ウィリス)のタクシーだったのである ………





監督はリュック・ベンソン


あの、『ニキータ』や『レオン』を観た後では、「同じ監督なの?」と、ビックリしてしまう。



そのぐらい、ふざけてて、バカバカしくて愛すべきヘンテコリンな映画が『フィフス・エレメント』なのだ。




とにかく出演者たちが、どれもこれも、1度観たら忘れられないくらい、超個性的。




ブルース・ウィリス(まだ髪が残ってる)は赤いタンクトップ姿の元軍人。今じゃ落ちぶれて、空飛ぶタクシー運転手。



ミラ・ジョヴォヴィッチは、オレンジ色の髪に、包帯巻いたような奇抜な衣装(TMレボリューション?)で再生誕生する宇宙人。




クリス・タッカー(口デカい!そしてハイテンションで、常に、超うるさい!!)は、サザエさんみたいな髪型で、オネェ言葉の人気DJ。(これが人気なの?(笑))






●武器商人役のゲイリー・オールドマン

お前の髪型も、それ、イケてるつもりなのか?(笑)





●宇宙人の歌姫なんてのは、全身青色で、まるでウルトラの母みたいだ。


ハァ〜ア〜、ハァアアア
〜 ……… 」

(コレが未来では歌姫と絶賛される人の歌なの?(大爆笑))




こんな連中が「世界を救う、救わない」で、ジタバタ右往左往するのだ。



真剣になど観れるモノですか。


バカバカしさを通り越して、ただ笑うしかない!のである。




リュック・ベッソンが、16歳の時に考えたストーリーらしいが、なかなか資金繰りがあわなくて、何度も頓挫していたらしい。



でも、その前に低予算で撮った『レオン』が思いのほか大ヒットして、やっとこさ夢が叶って作れたというのだ。



だからこそ、この映画はバカバカしいながらも、不思議と変なパワーに満ち溢れている。




マトモな大人では考えつかないような ……



半端、意味もよく分からないのに、役者たちの過剰演技と、このビジュアルで強引に押しきられたような感じである。


結局、


『モンドシャワン人』って何者?

『フィフス・エレメント』って要するに何だったの?




そんな小難しい考えを思い巡らす前に、この濃いキャラクターたちは、スクリーン狭しと大暴れして、勝手にまくし立てていく。



これを強引と言わずして何と言う。



まさに力技の勝利である。


星☆☆☆☆☆。


※マジメに観てはダメダメ! 

この手の映画は、思いっきりふざけて、ツッコミながら楽しみましょうね!

2019年10月27日日曜日

映画 「クリスタル殺人事件」

1980年 アメリカ、イギリス合作。







1974年に始まったアガサ・クリスティーの映画化シリーズは、『オリエント急行殺人事件』を皮切りにヒットしていた。



ポワロ役を、アルバート・フィニーから、ピーター・ユスチノフに変えての『ナイル殺人事件』、『地中海殺人事件』もヒットする。



クリスティーの謎解きもしかりだが、エジプトやら地中海やらの観光地、有名スターを出演させる事が、その都度、話題になっていた。




そこへ、降ってわいたように、あのエリザベス・テイラーの出演。



ピーター・ユスチノフのポワロシリーズを中断しての『ミス・マープル』もの。



これは、あくまでも自分の推測だが、エリザベス・テイラーの為に、ミス・マープルものに変更されたんじゃないだろうか。



そして、主役のミス・マープルの役をテイラーにさせるつもりではなかったのだろうか……と思うのである。




でも、今まで、美貌を武器にしてきたエリザベス・テイラーが、白髪の老女マープルを演じるはずもない。



そんな事は、テイラーのプライドが絶対に許さないのだ!



そんなわけで、マーブル役は、後に『ジェシカ・アルバおばさん』で有名になるアンジェラ・ランズベリーが引き受ける事になった(アンジェラ当時55歳で、この老けメイク!)







大女優エリザベス・テイラーには、もっと華やかで、ふさわしい役を!




ミス・マープルもので、12作ある長編の原作を調べると、何とかありました。


原作『鏡は横にひび割れて』の悲劇の大女優マリーナ・グレッグ役が。



「これがいい!これに決定!」


なんて具合の舞台裏だったんじゃなかろうかねぇ~(あくまでも推測ですけど)




でも、この原作、トリックはまぁ、まぁ、だけど舞台は、マープルの村、セント・メアリー・ミード村で、とても地味。


まだ、マープルものなら、『カリブ海の秘密』の方が映画ばえしそうな舞台だと思うのだが ……





さて、この原作『鏡は横にひび割れて』だが、後年、ある事を知ってしまってから、この原作が嫌いになってしまった。




※ここからネタバレになるので読みたくない人はスルーしてください。





ミス・マープルの村に、大女優マリーナ・グレッグがやってきて、ここで数年ぶりに映画を撮るという。

マリーナ・グレッグは、昔、妊娠中に風疹にかかり、産まれた子供が障害児だった事で、自分を責め続け、長い間、映画界から遠ざかっていた。


だが、今の夫で映画監督のジェイソン・ラッドと知り合い、再婚して立ち直るきっかけを得たのだった。


マリーナ復帰のパーティーが盛大に行われる。
そこで、マリーナの熱狂的なフアンで、地元の幹事をしている中年女性ヘザー・バドコックが死んでしまう。


ヘザーのグラスには、毒が入っていて、それはマリーナが飲むはずのものだった。


警察はマリーナを狙った犯行だと思うのだが、…………



マリーナに恨みを持つ者や、他の人物たちが現れたりするが、勘のいい人なら分かると思うが、もちろん犯人は、【マリーナ】である。


「昔、私、風疹になって、それでも白粉をつけて、あなたに会いにいったのよ!」


ヘザーは、マリーナの前でぬけぬけと、パーティーの中、昔の出会いを告白したのだ。


それもマリーナが長年、トラウマになっていた過去を嬉しそうに ………

『この女の風疹が、自分に感染した!』

『その為に産まれた子供が障害児となったのだ!』

自分のグラスに毒を入れると、ヘザーにぶつかってヘザーのグラスを、わざとこぼす。


「どうぞ、私のグラスを差し上げるわ」


それを喜んで飲んだヘザー・バドコック。
毒入りとは知らずに ………


これが、ミス・マープルが解きあかした真相である。





こんな話の『鏡は横にひび割れて』だったが、まだ若かった自分は感心して読んだ記憶がある。



でも、それから数年後、ある事を知ってしまった。




それは、有名な実在した女優、ジーン・ティアニーの生涯。



戦時中、大スターだったジーン・ティアニーは、妊娠中だったにもかかわらず、兵士を励ます為に慰問に出かけた。



そこで風疹に感染してしまう。(?)


産まれた子供は、障害児だった。(??)


それから数年後、ティアニーの元に、偶然、ある人物がやってきて、


「あの時、風疹にかかっていたけど、あなたに会う為に出かけていった」と告白されたのだ。



ジーン・ティアニーのショックは、ひどく、段々と演技をする事もかなわなくなっていったという ………





まんまやんけー!





クリスティーが書いたこの小説、まるで、そっくり、同じではないか。


この記事も、当時、有名スターのゴシップ欄をにぎわせたはず。



出版された当初、クリスティーいわく、

「偶然です、全く知らなかった」と言っていたらしいが、どうだか……(真相は闇の中)



この小説をジーン・ティアニー自身が、どう受けとめたのか、もはや知るすべもないが、まるで傷口に塩を塗るようなものである。



こんな背景がある、原作の映画化。



しかも、それをエリザベス・テイラーが、嬉々として演じたのだ。



今や年齢とともに美貌は崩れて、がっしりとドスコイ体形になったテイラーに、か弱さなんて微塵もない。



それでも、頭にはスミレ色の花をたくさん載せた帽子を被り、アイラインを濃く、お化けのように塗って、化粧はバッチリ。(これを見た時、正気か?と思ったくらい。まるで仮装である。)



エリザベス・テイラー演じるマリーナ・グレッグが、ヘザー・バドコックの話を聞いていると、段々と顔色が変わってくる。


階段の上にある、子供を抱いた母親の肖像画を見つめるマリーナ。(出たー!目を見開いてのワナワナ演技(笑))




映画は、案の定、失敗した。(それ見たことか)



クリスティーの映画化シリーズは、ここで一旦終了となる。


その後、テイラーは、『フリント・ストーン』なるコメディー映画に出演するも、パッとせず消えていった。(アカデミー賞まで取った人の最後が、これとはね)




あれから数年たって、もはや、エリザベス・テイラーの映画を語る人すらも少なくなってきた。


いくら時が過ぎようが、名作は残るが、そうでないものは消えていく。(あ~無情)



そして教訓。

風疹になったら、家でジッとしてなさい!】って事で。

おしまい。

映画 「幽霊と未亡人」

1947年 アメリカ。







「私、この家を出ていきます!」



ルーシー・ミューア(ジーン・ティアニー)は、義母と義姉の前で、そう高らかに宣言した。


夫が亡くなって1年、喪があける、この時をずっと待っていたのだ。


「まぁ、なんて事でしょう」、義母はオロオロし、いかにもイジワルそうな義姉は、「本気なの?」と聞いてきた。


「自由になりたいの!私たち無理に合わせる必要もないでしょ」


ルーシーは、ひとり娘の幼いアンナ(ナタリー・ウッド)と、ルーシーが結婚する前から一緒だった、家政婦のマーサを連れて出ていくと言う。



義母も義姉もたちまち憤慨した。(この二人に家事が出来そうもないので、家政婦を連れていかれるのは痛手なのだ)


「この裏切り者!」

「何とでも。夫が残してくれた株で、生きていくわ」



台所に行くと、マーサとアンナが立ち聞きしていたのか、嬉しそうにルーシーを迎えた。


「決心したんですね」マーサは、ルーシーの為ならどこへでも付いていく覚悟だ。



「さあ!新しい生活の始まりよ!」



家はロンドンから離れた場所がいい……そう海のそばに建つ家がいいわ。



3人で住める貸家を探そう!



ルーシーの夢は広がる。






「この家なんてどうでしょうか?」


「家賃が高すぎますわ」



はぁ~、現実は苦しい。


不動産屋クームが薦める家は、どれもこれも立派だが割高だ。



その時、ルーシーは机に置かれた、ある家の物件に目が止まった。


「これがいいわ!家賃も安いし、海のそばの家ですもの!」



クームは慌てた。

「こ、この家は紹介できません!実はある問題があって……」

下水道も完備、家具も揃っていて、2階建ての一軒家。もちろん庭付き。

こんな良い物件で家賃が安ければ、多少問題があっても構わないじゃないか。



「私、ここを見てみたいわ!」


言い出したらきかないルーシーに、不動産屋は、「やれやれ…」と言いながら、取り合えずは、その家に連れてくるのだった。






その家は立派な造りの家だった。



中に入ると、4年間誰も借り手がなかったせいか、埃をかぶっていたが、掃除をすれば何も問題はなさそうだ。

ルーシーが奥の部屋に行こうと、ドアを開くと、暗闇に男の顔が、ぼんやり浮かんできた。



ドキッ!っと一瞬したが、それは壁に飾られた肖像画だった。

「これは誰なの?」

たくわえられた見事な髭をはやし、厳しそうな顔をしている男の肖像画……クームは、前の持ち主で、この家で自殺した船長だと教えてくれた。

(こんな顔の人が自殺ねぇ~)


「あの~2階も見てみたいわ、海が見下ろせるんでしょう?」



階段を上がっていくと、これまた立派な部屋に行き着いた。

窓には、望遠鏡まで置いてある。



その時、窓が突然、バタン!と開き、風が、重いカーテンを持ち上げた。



そして部屋中に、どこからともなく男の笑い声が響き渡った。


「そら、始まった!」不動産屋クームは大慌てで、ルーシーを階段に引っ張っていくと、玄関まで走り出した。




全速力で走ってきて、荒い息を吐きながら、クームが言う。

「ハァ……ハァ………、これで分かったでしょう?、出るんですよ!ここには『幽霊』が!これがお薦めしなかった理由ですよ」



それでもルーシーは気にする事なく、


「私、決めました!ここをお借りしますわ!」といい放った。


クームは呆れて、ええぃ!後はどうなっても知らんぞ!とばかりに、ルーシーに鍵を押し付けたのだった。




引っ越しが済んで、ルーシーとマーサは、家中をピカピカに掃除した。


床も磨いて、キレイサッパリ、やっと新生活の始まりだ。


「お疲れになったでしょう、しばらく2階でお休みになってください。後でお茶の支度をしますから」


優しいマーサ……ありがとう、そういえば本当に疲れた。


ルーシーは2階に行くと、揺り椅子に腰掛けたと、同時に寝入ってしまった。



それからどれくらい時間が過ぎただろう………。

窓の外は、暗い雲で覆われている。



しばらくして、寝ているルーシーに、近づいてくる影があった。


それは、伸びるような黒い男の影………。








この映画は、そのままタイトルが示す通りである。


全然怖くない、威張っているけど、お節介な『幽霊』のグレッグ船長(レックス・ハリソン)と、世間知らずの『未亡人』ルーシー(ジーン・ティアニー)の心温まるハート・ウォーミング・コメディーである。




監督は、『イヴの総て』や『三人の妻への手紙』など傑作を残した巨匠、ジョセフ・L・マンキーウィッツ



ゆえに、この映画も、脚本から、セリフから、演出からと、まるで映画の教本にでもしていいようなくらい、全て完璧である。(これぞ、職人芸って感じなのだ)






そして、この映画にしても、有名スターで脇をキチンとかためられていることにも、改めて驚いてしまう。




レックス・ハリソン ………グレッグ船長役。髭モジャで、荒々しいが、根は善良の人のいい幽霊。


世間知らずのルーシーの生活を助ける為に、口述筆記で、自分の半生を小説に書かせたりする。


いつしか幽霊の身でありながら、ルーシーに恋してしまう不器用な船長さんである。




レックス・ハリソンは、この数年後、オードリー・ヘプバーンと共演した『マイフェア・レディー』のヒギンズ教授役が当たり役となり、たちまち有名になる。


アカデミー主演男優賞やトニー賞などを総なめにした。





ナタリー・ウッド ……この映画では、まだまだ小さな子役で、ジーン・ティアニーの娘アンナ役を、キャピキャピ演じていたが、後に、この人も、これまた有名になるとは……。



『草原の輝き』や『ウェスト・サイド物語』などなどと、看板青春スターとなってしまう。


残念ながら、不慮のヨット事故で、その生涯は短いものだったが……。(43歳没)





ジョージ・サンダース ……マイルス・フェアリー役。


船長とルーシーが共同で書き上げた本を、ロンドンの出版社に持ち込んだ時に知り合い、たちまちルーシーの美貌の虜となり、追いかけ回す児童文学の小説家。


そのジョージ・サンダースの元々の性格からきてるのか、はたまた役柄なのか、強引で有無をいわせないやり方で、ルーシーの娘アンナには嫌われ、召し使いのマーサにも嫌われる。(トホホ……まぁ、損な役回りである)



でも、このジョージ・サンダースも、この3年後、『イヴの総て』で悪女イヴをやり込める批評家アディソン・ドゥーイット役で、アカデミー助演男優賞を受賞するのだ。





前回の『ローラ殺人事件』といい、この『幽霊と未亡人』といい、監督でも、共演する俳優たちでも、ジーン・ティアニーに関わった人々は、その後必ず有名になっている。



幸運の女神だったのかも……。



本人は死ぬまで、賞とは無縁だったのだが、何か不思議な吸引力というか、魔力みたいなものを感じてならない。




ただ、ジーン・ティアニー自体は、不遇な人生に苦しみぬいた人だったのだが………………。




この『幽霊と未亡人』は、星☆☆☆☆。

これも埋もれた傑作の一つである。

映画 「ローラ殺人事件」

1944年 アメリカ。







『ローラ・ハント』が死んだ。


美貌のコピー・ライターとして業界では、有名人だった彼女が………。


顔を至近距離からショット・ガンで撃たれて、メチャクチャにされて。(もちろん、この時代に、そんなショッキングなシーンなんて見せません。語りだけです)



『マーク・マクファーソン警部』(ダナ・アンドリュース)は、捜査担当として、早速、関係者たちの元を訪ねることにする。





一人目は、『ウォルド・ライデッカー』。

著名なエッセイストで、無名のローラを引き立て、ここまでのしあげてきた影の人物だ。



マクファーソンが、家に入ってくると、部屋には豪華な調度品が並び、立派な掛け時計がある。

マクファーソンが調度品に触ろうとすると、
「それに触るな!」と奥のドアの向こうで声がした。



奥には、浴槽につかりながら入浴中の『ライデッカー』(クリフトン・ウェッブ)が板を置いて、その上でタイプライターを動かしていた。


ライデッカーは痩せた貧相な体の、神経質そうな顔をした男で、若くて逞しい、そしてハンサムなマクファーソン警部を、値踏みするように見渡した。



「ローラの件かね?その事なら昨日、別の刑事に話したがね」

金曜にレストランでローラと会う約束をしたが断られたと、もう一度マクファーソンに繰り返す。



バスルームから出て、着替えをするライデッカーは、自分がいかにローラに頼りにされていたかを自慢げに語りだした。



マクファーソンは聞いてない。


懐から取り出した、コンパクトなサイズのベースボール・ゲームを、勝手にやりだした。(これが昔の娯楽か)


そんな、とぼけたマクファーソンに、イライラするライデッカー。



マクファーソンが退散しようとすると、

「待て!君はこれから他の容疑者たちにも会いに行くんだろう?私もついていく!」と言い出した。


マクファーソンはイヤな顔もせず、ライデッカーを車に乗せた。






二人目は、『アン・トリードウェル』。

ローラの叔母で、裕福な金持ちの独り身である。



ライデッカーを伴ったマクファーソンは、『アン』(ジュディス・アンダーソン)が、遺体の確認をした事をもう一度確かめた。



「本当に恐ろしかったわ、あんな無惨な姿……」

アンは、その光景を思い描いているようだったが、マクファーソンは間髪いれず別の質問をした。



「ローラの恋人のカーペンターさんを知ってますね? 」

「ええ、知ってますわ」アンは急な質問にドギマギしている。

「あなたとも親しかった?」

「ええ、そんな特に親しいというわけでは……」




マクファーソンは手帳を開くと、

「おかしいですね……あなた、カーペンターさんに多額のお金を渡していますね?それも何度も。あなたが口座から引き落とした額と近い金額が、すぐにカーペンターさんの口座に入金されてますよ。」



アンの顔が真っ赤になった。



カーペンターは恋人ローラがいるのに、叔母のアンを虜にして二股をかけていたのだ。


アンは、若いカーペンターに夢中になり多額の小遣いをやって、「少しでも振り向いてもらおう……」と必死に繋ぎ止める、そんな特別な関係なのである。



「私のお金を誰に渡そうと、そんなの関係ないじゃないの!!」(逆ギレ)



そんな時に、アンの部屋にブラリと、当のカーペンターが入ってきた。






三人目、『シェルビー・カーペンター』の登場である。


「やぁ、どうしたんだい?」色男でジゴロ気取りの『カーペンター』(ヴィンセント・プライス)は、三人を見ても緊張もせず、どこ吹く風。


根っから遊び人風のマイペースで近づいてきた。



こんな軽薄そうなカーペンターが、叔母のアンやローラを、たらしこんで虜にしたのかと思うと、ライデッカーの怒りは頂点。



目の前のカーペンターがしゃべるのを、睨み付けるように見ている。





取り合えず、アンとカーペンターの謁見が終わると、マクファーソンはライデッカーと夕食のためにレストランに入った。



ライデッカーが語りだす………。


「………そう、私がローラと初めて会ったのも、こんな風に、ここで食事をとっている時だった………テーブルについて食事をしている私に、あの子は近づいてきたんだ………」





時間は巻き戻されて、ライデッカーは、あの日の事に思いをはせていた……ローラと初めて会った日の事を。



「あの、お食事中ごめんなさい、ちょっとよろしいかしら?」


ライデッカーが、見上げると見知らぬ女が、目の前に立っていた。



美しい娘、『ローラ』(ジーン・ティアニー)………。






オットー・プレミンジャー(『悲しみよこんにちは』、『バニー・レークは行方不明』)の初監督作品。



そして、その後、デヴィド・リンチの『ツイン・ピークス』(ローラ・パーマーは、もちろんローラ・ハントをモデルにしている)や、『ブラック・ダリア』にも影響を与えたと言われている。


サスペンス映画の古典であり、名作と言われているのが、この『ローラ殺人事件』なのだ。





出演者たちも魅力的。



●ジーン・ティアニー ……40年代に活躍した女優。キリリとした眉、整った顔のクール・ビューティーの先駆け。

この美貌で、『ローラ殺人事件』だけでなく、コーネル・ワイルドと出演した『哀愁の湖』や、ジョセフ・L・マンキーウィッツ監督の『幽霊と未亡人』なんて傑作を次々と残している。(本当に綺麗、正統派美人!)




●ダナ・アンドリュース ……この人も40年代に活躍した、端正な顔立ちと低い声が印象的な俳優さん。


ウイリアム・ワイラーの『我等の生涯の最良の年』や、エリア・カザンの『影なき殺人』が有名か。




●ヴィンセント・プライス ……以前、このblogでも紹介したように、『肉の蝋人形』やらホラー・スターとして頭角を現していきます。(この時は、まだ普通の人間役)


それにしても、ヴィンセント・プライスの軽いノリのプレイボーイ姿は貴重である。




●ジュディス・アンダーソン ………こちらも、以前blogで紹介したように、ヒッチコックの『レベッカ』の、恐ろしい召し使い頭、ダンヴァース夫人役で超有名。



●クリフトン・ウェッブ ……実はこの人、あまり知らなかったのだが、アカデミーに何度かノミネートされていて、この人も有名らしい。

ジーン・ティアニーと再共演した『剃刀の刃』が有名らしいのだが。(未見)

この『ローラ殺人事件』でも、嫌味でねちっこい、歪んだ性格の男を演じているので、演技派なのだろう。





これだけ有名な俳優たちが揃って、監督がオットー・プレミンジャー。


この映画も、面白くないはずがない。





※多少、ネタバレになるが、実は、死んだと思っていた『ローラ』が生きていたのは、勘がいい人の想像どおり。



殺されたのは、たまたまローラの屋敷にいたモデルの女性だったのだ。(犯人も、そうとうウッカリ者である)



数日ぶりに、田舎から帰宅してみれば、暗闇のソファーでウトウトまどろむ刑事マクファーソンの姿が……。


(誰?この人?!)ビックリするローラに、これまた驚き、飛び上がるマクファーソン警部。


(絵の人物が生き返った?!………)



こんな、お互い、驚くような突然の出会いは、いつしか別の感情へと変わっていく。(格好いい刑事と、目の眩むような美人さんですもんね。そりゃ、お互い恋に堕ちるわ (笑) )



でも、殺したと思っていたローラが生きていてビックリするのは真犯人も一緒。


再び、命を狙われるローラを、いまや恋人になったマクファーソン警部は、無事に守れるのか?!


この後も、最後まで、ハラハラ、ドキドキの展開が待ち受ける…………。





ここまで、さかのぼって、たまに古典といわれるものを観るのも楽しい。



後に形を変えて作られる映画の原点を発見したような特別な気分になってしまう。


モノクロ映画も、今に比べて画質が悪いとか、退屈なんて言わないでほしい。




興味をもってもらえたら、これ幸いである。

星☆☆☆☆☆。(ローラの帽子がオシャレで可愛らしいです)

2019年10月26日土曜日

映画 「素直な悪女」

1956年 フランス、イタリア合作。








南フランスはサン・トロぺの港町。



燦々とした太陽を浴びて、今日も『ジュリエット』(ブリジット・バルドー)は洗濯したシーツの蔭で全裸で日光浴だ。



町の有力者で金持ち、酒場やカジノと手広くやっている『エリック・カラディンヌ』(クルト・ユルゲンス)は、そんな奔放な娘ジュリエットにメロメロ。(オッサンのくせにね)




日光浴中のジュリエットに近づくと、

「君にプレゼントだ」


おもちゃのミニカーを手渡した。(娘におもちゃ?)



ジュリエットは「フフッ」と笑いながら受け取る。


「その可愛い唇が、私のものになるなら、本物を買ってやろう」(ヤレヤレ、まわりくどい口説き方)


「私はお金のかかる女よ」

中年紳士相手に18歳のジュリエットは、まるで怯む様子もない。




その態度は、まるで数多くの恋愛経験を積み重ねてきて、その都度つねに勝利者だった者の言い草だ。






そこへ、ジュリエットを孤児院から引き取ったモラン夫人が、もの凄い剣幕でやって来た。


「男の前で、素っ裸で平気なんて……、なんて、ふしだらな娘なんだ!!」


痛風のモラン氏とモラン夫人に子供はなく、仕方なく孤児院から、この娘ジュリエットを引き取ったのだが、今ではすっかり後悔していたモラン夫人。



何てハレンチな小娘!


「本屋の勤めもいい加減で、男の前でもふしだら。そんな態度じゃ孤児院に返してしまうよ!」

モラン夫人の言葉に、ジュリエットは慌てて洋服を着ると、自転車に乗って職場に向かった。



横で癇癪をおこしながら、まだプンプン怒っているモラン夫人の横で、エリックは笑って見送っている。


「魅力的な娘だ……」(ダメだ、コリャ)




ボリュームのある金髪の長い髪、それにポテッとした分厚い唇。


こんなジュリエットに町の男たちが、ほおっておくはずもない。



内気で気弱な『ミシェル』(ジャン・ルイ・トランティニャン)は、遠くからジュリエットを眺めながら悶々する日々。



でも、目下、ジュリエットが関心があるのは、ミシェルの兄で美青年の『アントワーヌ』(クリスチャン・マルカン)なのだ。(よくあるパターンだ)




ダンス・パーティーで精悍なアントワーヌと踊りながら、ジュリエットはうっとり。


キスしてきたアントワーヌは、「君を『ツーロン』の町に連れていきたいよ」と切り出す。



来週、仕事でツーロンに行くのだ。


突然の誘いに、驚いたジュリエットだったが、嬉しさを隠すと笑いながら化粧室に入った。



(私もアントワーヌが好き、アントワーヌも……)


そこへ隣の男子トイレから、アントワーヌが男友達と話す声が、まる聞こえ。(何て迂闊な)



「お前、あの女と本当にツーロンに行くのか?」


「冗談!あの手の女は一晩寝たら、サヨナラさ!」


ジュリエットは怒りながら、ワナワナと震えている。




すっかり女のプライドをズタズタにされたジュリエット。


たまらず化粧室を抜け出し、夜の町をさ迷うと、いつしかジュリエットの足は、エリックが所有するヨットのパーティー開場へと向かっていたのだった………。







『お熱いのがお好き』のマリリン・モンローが『M・M』。


『SOS北極…赤いテント』のクラウディア・カルディナーレが『C・C』。


ご存じ、名前と名字の頭文字が同じという、イニシャル3人娘の大トリは、ブリジット・バルドー『B・B』である。





ブリジット・バルドーの映画を何十年ぶりに観たのだが、こりゃ本当に可愛いわ。



可愛いんだけど、騙す男も、騙される方のブリジットも、どっちもどっちって感じで、全然同情する気にもなれないんだけどさ。





監督は、ブリジット・バルドーと当時、公私ともにパートナーだったロジェ・ヴァディム


監督や脚本など多才なヴァディムは、性の開発者であり解放者。


独特なエロティックな考えを持っていて、それを実践するような変わり者の男だった。





こんな男とブリジットが知り合ったのが、ブリジットが16歳の時。


ヴァディムの第1印象を見て、ブリジットの両親は「この男は危険だ…」と危惧し、交際には猛反対だった。


「イギリスに行って勉強するんだ!」

「嫌よ!」

だが、時、既に遅し。

内面まで、すっかりヴァディムに感化されたブリジットは激しく抵抗した。


そうして、ガスをひねって自殺未遂まで行ったのだ。



これには、さすがの両親もホトホトこたえて、「18歳になるまでは結婚しない事!」を条件に渋々承諾した。 



そして、18歳になると、二人はすぐに籍を入れた。



この映画の冒頭、ブリジットが全裸でうつぶせになりながら、脚をふっている映像があるが、1956年の当時は、これにフランスは大騒ぎ。


フランスでは、検閲に引っかかったが、アメリカが、逆に「画期的」だと後押ししたのだ。


そして、たちまち大ヒット!(ヒットすると、うるさ方の連中たちも、とたんにシュンと黙りこむから不思議だ)



今観ると、たいしたヌードでもなさそうだが、当時としては、度肝を抜かれるようなセンセーションを巻き起こしたのたのだろう。





でも、こんなのはブリジットにとっては、何でもない事なのだ。



だって、日常が、ほぼ全裸で過ごしているんですもん(笑)。



ロジェ・ヴァディムと暮らし始めたブリジットに、ヴァディムは下着を着けさせる事を禁じた。

「下着を着けると、女性本来のセクシーさを解放できなくなる」というのがヴァディムの一風変わった考え方だった。


洋服を着ても下着をつけない。


しまいには、家の中をブリジットは、喜んで全裸でうろつきまわって過ごすようになった。




でも、こんな生活をしていくと、いったいどうなるのか……。


人間というよりは、動物のメスに近づいていくのだ。




そして本能のままに生きて、本能のままにセックスまでしちゃう。




案の定、この映画で知り合ったミシェル役のジャン・ルイ・トランティニャンとデキちゃったブリジット。(兄役の方じゃないのか?)



恥じらいもなく、堂々とした、不倫関係 の始まりである。


そして、ブリジッドとヴァディムはあっさり離婚する。(自殺未遂までして結婚したのに)





その後……


ヴァディムはヴァディムで、離婚してからも、次々、カトリーヌ・ドヌーヴやらジェーン・フォンダなどと浮き名を流しながら映画を作っていく。




ブリジッド・バルドーも負けてない。


離婚の原因になったジャン・ルイ・トランティニャンなんか、簡単にポイ捨て。



次から次へと、男を取っ替えては捨て去る生活。



動物として目覚めたメスの本能は、『ビ、ビ、ビ!』と来たら、猪突猛進。


ただ突き進むだけなのだ。






映画の後半、アントワーヌにフラれて、ヤケクソで結婚したミシェルとの結婚生活に閉塞感を感じて、狂ったようにマンボのリズムにノッて踊りまくる『ジュリエット』(ブリジット・バルドー)。





裸足で、髪を振り乱し腰をフリフリ!


全身をつかって踊るジュリエットは、まるで何かに憑依されたようである。




そんなジュリエットを男たちは、微動だにせず、唖然とした表情で遠目に見ているだけ。




狂い踊るジュリエットは、まるで動物的なメスの本能を、すべて解放しているよう。




そして、それを見るエリック(クルト・ユルゲンス)の目には、


「無理だ!オッサンには、とてもじゃないが、ついていけない……」


と、いうように尻込みしてしまう。




こういう女性は、ガラス越しに、いや、スクリーン越しに観るに限ると思う。



げに、恐ろしや~、ブリジット・バルドー(笑)


バルドーの可愛らしさと同居する怖さを、1度はご覧あれ。

星☆☆☆。



2019年10月24日木曜日

映画 「六番目の男」

1955年 アメリカ。





リチャード・ウィドマーク主演の『六番目の男』を観た。


わずか90分弱の佳作なので、ちょいとした時間が空いた時には、ほどよい長さである。

ただ、短い映画ゆえ1度観ただけでは、この話の時代背景やあらすじを、完全に理解するのは大変かも。


補填のつもりで、ここに書いておこうと思うので、ご参考までに。






時は、南北戦争(1861~1865年)が終わった頃。


まだまだ混乱と略奪が横行する時代。

主人公『ジム・スレーター』(リチャード・ウィドマーク)は母マーサと別に暮らしていたが、マーサが亡くなり、マーサ宛の手紙が、ある日ジムに転送されてきた。


差出人は、まだ見たこともない父親からで、手紙には、

「一人息子ジムは元気だろうか?私は5人の仲間とアリゾナに行って、《ヒラ・バレー》で金を掘り当てて一儲けしたのだ。ジムにも伝えてほしい」と書かれていた。



早速、そのヒラ・バレーに向かったジム。


ヒラ・バレーの谷は、ゴツゴツした岩に囲まれていて、ポツリ、ポツリとサボテンが咲いているような閑散とした町だ。




たが、あたり一面は焼け野原。


数日前に、インディアンのアパッチ族の襲撃にあったヒラ・バレーの家々は、全て朽ちていて無人状態となっていたのだ。



そこには5人の遺体を埋めた大きな穴があった。



(死んだのは父親かもしれない……)

だが、遺体は、もはや誰かは判別出来ない状態である。




そこへ馬に乗ってやって来た一人の女性。


彼女、『キャリル・オートン』(ドナ・リード)も、夫が掘り当てたという《金》目当てにやって来たのだ。(誰もかれもが《金》目当てなのねぇ)



そして、死んだ5人の中に夫がいるのか、それを確かめるために。




美人のキャリルの登場に、ジムは「コーヒーでもどうだ?」とすすめた。(おや?優しい!)




そんな折、二人を狙って、突然!岩の高台から狙撃する者の姿が!


「誰だ?!」

(俺を狙ったのか?それとも彼女を?)



ジムは岩場をまわりこんで、間合いを徐々につめていく。

そして、何とかその狙撃者を一発で仕留めた。



死んだ、その男の胸にはシルバー・シティの保安官補の星バッジが。


《金》を狙う者を待ち構えていたのか?、それとも5人の遺体に関係のある奴なのか?……


とにかく、シルバー・シティに、この男の遺体を持っていけば、何か手がかりが掴めるかもしれない……


「あたしも一緒に行くわ!」キャリルもジムに同行する事にした。




シルバー・シティに二人が着くと、町の連中は騒然とし、

「銃を取りあげろ!」、「逮捕しろ!」と口々に言うが、キャリルの「そっちから撃ってきたんだから正当防衛よ!」の言葉で押し黙った。



ジムが撃った保安官補トムの遺体をブツブツ言いながら運んでいく人々。



ジムは町の保安官に訊ねた。

「ヒラ・バレーで死んでいる5人の身元不明の遺体を誰が埋葬したんだ?」


保安官は騎兵隊の将校レークだと教えてくれた。


「そのレーク将校は今、どこにいるんだ?」

レーク将校の居場所を聞くと、ジムは馬に乗って一目散に駆け出していった。



だが、ジムは知らない。

ジムが撃ったトムの弟二人が逆怨みして、ジムの命を狙いはじめている事を………






死んだ5人の身元と、他にもう一人いる『六番目の男』を追う、という一風変わったミステリー風の西部劇なのだが………


ちょっと短い映画にしては、やや詰め込みすぎかな。


シンプルに『六番目の男』だけを探す旅にすればよかったかも。(この5人の身元不明者が誰々なのか、で、相当こんがらがってゴチャゴチャしてるようにも思える)




監督は、あの『OK牧場の決闘』、『荒野の七人』で有名なジョン・スタージェス。


ジョン・スタージェス監督なのに、この話の複雑さで、ちょっ損している感じ。




……と、不満はここまで。



でも、この映画、主演のリチャード・ウィドマークとドナ・リードは、そんな不満を吹き飛ばすほど、すっごい素晴らしいので、是非是非、観てほしい。





1947年の『死の接吻』で悪役として、デビューしたリチャード・ウィドマーク。


演技テストでは、監督のヘンリー・ハサウェイに、「あんなに恐ろしい声で笑う男は見たことない!」とまで、言わしめたほどのインパクトをみせる。


映画の中では、車椅子の老婆を階段からつきとおして、カラカラと笑うウィドマークに全米中が凍りついた。



いきなり、こんな強烈な悪役で爪痕を残したウィドマーク。

デビュー作なれどアカデミー賞にノミネートまでされてしまう。




………でも、この悪役があまりにも印象強くて、それからもオファーは悪役ばかり。



それでもリチャード・ウィドマークは、常に最高の演技をみせる。




演技者としての名声は手に入れたものの、一方では困った事が起きた。


リチャード・ウィドマークだって、家に帰れば、愛する奥さんがいて、子供(娘)がいる。



娘が学校でイジメられるのだ。(アララ…可哀想)



「や~い!残忍な犯罪者の娘!」

(アメリカも日本と同じだ。Gメンで、残忍な殺人鬼を演じていた蟹江敬三さんの息子も、当時同じような目にあっていたらしい)



(こりゃ、娘の為にも何とかせねば!)とリチャード・ウィドマークも考え始めた。



「これからは善人の役も進んでしよう!」



そうしてイメージ脱却をはかったのが、この『六番目の男』なのである。




こんな意気込みで挑んだ、この映画、とにかくウィドマークが格好よすぎる。


馬を走らせながらのインディアンとの銃撃戦。

そして、走る馬から幌馬車に跳び移るところなんか、今観ても(危ねぇ~!)大迫力である。



ヒロイン役のドナ・リードは、この映画で初めて知ったのだが………美しい!綺麗!それに何よりキップが良くて、こちらも格好いい!


女性なのに、これまた馬を軽々乗りこなす。




狙撃で肩を撃たれたジム相手には、

「これでも噛んでなさい!」と布切れをやると、火に炙ったナイフを「ジュジュッ~!」と押し当てる。(この場面、演技とはいえ苦痛に堪えるジムに、こっちまで痛みが伝わってくる)


でも、その後は着ているブラウスを脱いで包帯がわりに巻くキャリル(ドナ・リード)。


上半身は下着1枚なので、豊満な胸の形があらわになり、巻き付ける時にジムの顔に、その胸をグイグイ押し付けるものだから、なんともはや、演じているリチャード・ウィドマークも照れ臭そうにしている。


こんな美人でグラマーで優しいキャリル。


リチャード・ウィドマークじゃなくても男なら、誰だってイチコロで惚れてしまうだろう。


話は複雑なれど、二人の魅力で、この『六番目の男』も自分のお気に入りの映画となった。(特にドナ・リード)



これからも、たまに観かえす事になるだろう。


星☆☆☆☆。


それにしても、この時代の俳優や女優たちは凄い。


こんなに馬を華麗に操れる俳優や女優たちが、現代では何人いることやら……。

本当に恐れ入る。

2019年10月20日日曜日

映画 「ブラック・エース」

1971年 アメリカ。






最近、自分がお気に入りにしていて、贔屓しているリー・マーヴィンの主演映画である。(ムシャクシャした時は、リー・マーヴィンに限る)






シカゴのギャングのボス、ジェイクは部下を引き連れて、ある酒場に『ニック』(リー・マーヴィン)を呼び出した。



ニックは名うての殺し屋である。

「仕事を依頼したい!」


ジェイクの依頼は、カンザス一帯を仕切って、牧場や精肉工場など手広くしている『メリーアン』(ジーン・ハックマン)から、ネコババされた50万ドルを取り返す事だった。




「自分の部下にやらせればいいだろう?」


ニックが知らぬ顔を決め込もうとすると、ジェイクはカウンターに、ある包み紙を置いた。


差出人はメリーアン。





開いてみると、中からはソーセージの塊が ……


「これが、先に送り込んだ俺の部下の成れの果てだ」(ゲゲーッ!人肉ソーセージ?!)

ただ事じゃない事態に、ニックの目も鋭く変わる。



「5万ドル払う、頼む!依頼をうけてくれ!」


ジェイクは、何人かの部下たちをニックの助っ人として差し出した。



「分かった……」

こうして、ニックはジェイクの部下と共に、夜のシカゴからカンザスへ向けて出発したのだった ……





何だか、冒頭から背筋が凍りつくような展開にドギマギする。


監督は、あの有名な『がんばれベアーズ』や『フレッチ / 殺人方程式』、『ゴールデン・チャイルド』のマイケル・リッチー。


『がんばれベアーズ』の監督が、こんな映画を撮っていたのに、今更ながら驚く。


でも、こんなのは、まだ序ノ口。

これから、我々は、もっと酷いジーン・ハックマンを拝む事になる。






ニックがカンザスに着いてみると、ニックは、悪党『メリーアン』の所業を見て、その鬼畜さに驚愕する。


牧場や精肉工場をしながらも、孤児院から少女たちを麻薬浸けにして、売り買いする。


そう!ここでは人身売買までやっていたのだ。




その売春のやり方が、またひどい!


牛舎の柵に牧草をしいて、少女たちを一糸いとわない丸裸で投げ込んでいる。


それをニヤニヤ顔の男たちが、柵の上から顔を出して売り買いするのである。(これを鬼畜といわずして何と言う!)





柵に入って素っ裸の二人の少女を抱き抱えながら、

「ニック、くだらねぇ~事に縛られないで、お前も楽しめよ!コイツらの相場は20ドルってとこだが、お前なら15ドルに負けてやるぜ!」なんてヘラヘラ笑いながら言ってのけるメリーアン。(本当にクソ野郎だ)




ワナワナ怒りに震えるニックに、一人の少女が朦朧としながらも、


「助けて …… お願い ……… 」と声を絞り出すようにして囁いた。


ニックは、たまらず、その少女を抱えると強引に連れ出した。




後ろからは、鬼畜のメリーアンが、「おい!15ドル払えよ!」と言ってるが、もう知ったことか!


「ツケておけ!」と叫ぶと、一緒に来たジェイクの部下の車に乗せて、とっとと連れ去った。





(こんな年端もいかない少女に …… なんて野郎だ …… 許さねぇー!、絶対に許さねぇーーー!




ニックの怒りは、ジェイクの部下たちにも充分伝わってくる。


皆が、少女に同情して怒っているのだ。





最高級のホテルに着くと、毛布にくるんだ少女を運ぶニック。


部下たちは少女の着替えを買いに向かっていった。(みんな良い人たちだ)





そうして、少女が最高級ホテルの一室で目覚めると、ベットの上には、ドレスやら何やら、数々の洋服が✨✨✨


「これを私に?着てもいいの?!」

喜ぶ少女に、ニックも嬉しそうだ。(そりゃ家畜扱いから、いきなりのお姫様扱いですものね)




ニックは、ドレスを着た少女『ポピー』(シシー・スペイセク)を伴うと、ホテルのラウンジに降りてきて、食事をする為にテーブルについた。




次々、運ばれてくる料理にマナーを知らないポピーは、うろたえるが、さりげなく親切にマナーを教えてあげるニック。(もう、ここまでくると殺し屋どころか、まるで足長おじさんである)



美味しい料理に舌鼓をうちながら、ポピーはこれまでの出来事を、ポツリポツリと、ニックに語り始めた。

「一緒にいた子は、孤児院で妹も同然に育ったバイオレットよ …… 」


ポピーの独白に、ニックは、

「そのバイオレットも、きっと救ってみせるさ!」と胸をたたく。





もうジェイクの為だけじゃない!


あのメリーアンをぶっ潰して、少女たち、皆を助け出すんだ!




【漢の男】、『ニック』(リー・マーヴィン)は、そう固く決心したのだった ………







この映画が、後に『キャリー』で有名になるシシー・スペイセクのデビュー作である。




でも、デビュー作から、いきなりオールヌードで売春させられる役なんて衝撃的過ぎる!(今ならコンプライアンス的に許されないだろうよ)


まぁ、当時だったから、こんな配役や脚本も、すんなり通っただろうが。




それにしても鬼畜や卑劣漢をやらせたら、ジーン・ハックマンは上手い。


クリント・イーストウッドの『許されざる者』もだが、本当に憎らしくて、憎らしくてやっつけたくなるくらい。


そんなジーン・ハックマンがいればこそ、映画を観ている我々は、自然に主人公リー・マーヴィンにドンドン感情移入していく。



殺し屋『ニック』(リー・マーヴィン)の人間臭さや、情愛にホロリとしたりして。


そうして、怒りのマシンガンが火をふくのだ!(ダ、ダ、ダ、ダ、ダッ!!)



格好いいねぇ~、もう、最高!





リー・マーヴィン、やっぱり好きだなぁ~


好きこそ、リー・マーヴィンに甘い自分は、もちろん、この映画に星☆☆☆☆をつけさせて頂きます。(でも邦題のタイトルは何で『ブラック・エース』に変えられたんだろう?全く意味はないんだけどね)




2019年10月18日金曜日

映画 「SOS北極…赤いテント」

1969年 ソビエト(ロシア)・イタリア合作。



『ピーター・フィンチ』は不遇の俳優である。






いきなり現れたこの名前に「誰?それ?」と思う人もいるかもしれない。





多分、現代では、その名を知る人さえも多くはないはずだ。


かくいう自分も名前だけは、頭の片隅にあっても出演作品といえば、遠い大昔に、オードリー・ヘプバーン主演の『尼僧物語』で見かけたくらいの記憶しかない。



この映画を、今回観るまでは、とんと忘れていたくらいだ。


日本では、その存在さえも無視されている気がする。



あの名優ローレンス・オリヴィエに、その演技力の才能を見いだされるも、ずっと芽が出ずに、果てはローレンスの妻のヴィヴィアン・リーと(一時の気の迷いなのか?)火遊びで不倫関係。(あらら……)


そういえば、どことなく顔立ちは、若い頃のローレンス・オリヴィエに似てなくもない。


整ったイギリス人でハンサムな顔立ちをしている。(ゆえにヴィヴィアン・リーもよろめいたのか?)


英国アカデミー賞では、何度も主演男優賞をとっているのに、その作品は興行的には、成功したとはいえず主演した『失われた地平線』は大赤字、大惨敗。


それでも後年、1976年の『ネットワーク』での熱演が認められて、やっと、アメリカのアカデミー賞にノミネートされるも、呆気なく亡くなってしまう。



ピーター・フィンチの死後に、アカデミー賞主演男優賞を贈られたらしいが、………それでも、死後の受賞とは、このうえなくツイてない人生。





そんなピーター・フィンチが出ている『SOS北極…赤いテント』を観た。





幻の作品と呼ばれていて、近年DVD化されたのだが、DVDではタイトルが『SOS北極 レッド・テント』に変えられている。



オマケに、公開された当時は国際版の120分ぐらいのもので、音楽も、あのエンニオ・モリコーネ(『ニュー・シネマ・パラダイス』の音楽を手がけた)だったのだが、DVDは、ロシア版の150分で左右がちょんぎられている4:3のスタンダード・サイズ。


音楽までもロシア用に変えられている。(国際版も観てみたいものだが……)




で、DVDパッケージを見れば、


レ・レ・レ……??


主演がショーン・コネリーになっていますぞ!?


その下に、美人女優クラウディア・カルディナーレ。


そして、3番手にやっとピーター・フィンチの名前が挙がっている。



でも映画を観れば、主演はピーター・フィンチ演じるノビレ将軍なのは、明らかなのに………。(ショーン・コネリーなんて映画が始まって1時間くらいしないと出てこないのにねぇ~)



まぁ、しょうがないか………。



1969年といえば、ショーン・コネリーの絶頂期。


1967年の『007は2度死ぬ』と1971年の『007 ダイヤモンドは永遠に』に、ちょうど挟まれている、この映画も、名前もあまり知られていないピーター・フィンチよりは、メジャーなショーン・コネリーを前に打ち出した方が、観客も呼び込めるというものだ。



そんな興行会社の思惑が、ありありと分かるようなパッケージである。



で、前置きをグダグダ書いていたが、映画は実話を下敷きにしていて、それなりに良くできてる。(でも、DVDのユラユラ揺れるような映りには、イライラさせられるが。これどうにかならなかったのか?)







1926年、最初の飛行船による横断を成功させた『ノビレ』(ピーター・フィンチ)。


そして、次なる2号目『イタリア号』と名付けられた飛行船が、将軍となったノビレと16名の乗組員を乗せて、北極点を向けて出発する。


が、案の定、飛行船は遭難し、何人かの乗組員たちは亡くなり、生き残った数名が目印になる『赤いテント』を張って救助を待つ、っていうのが大体のあらすじ。(助けに船で救助に向かうのが、『アムンゼン』(ショーン・コネリー)なのだが、ミイラ取りがミイラになってしまい、あんまり活躍しない。だからショーン・コネリー目当ての人はガックリするかも)




映画の導入部が凝っていて、いきなり、その事件から40年後の世界。




無事に生還できたノビレが、年老いた姿で、自宅のベットに横たわっている。



「裁判……裁判」と、何やら、寝床に入っていても、ノビレの耳にだけ不安をかきたてるような声が、どこからか聴こえてきて、なかなか寝付けない。



仕方なくベットから這い起きて、バルコニーが見えるリビングにやって来ると、そこには昔、あの事件で亡くなった人物たちが、その当時の姿のままで突然現れた。(幽霊?)



そして、クラウディア・カルディナーレの姿も。(とっくに死んでるの?)



そんな幽霊に怯える事なく、ピーター・フィンチ扮するノビレは、着替えをするために奥の部屋にさっさと引っ込んでいった。



そうして、奥から戻ってくると……。



な、なんと!



ノビレ自身も、当時の姿のように若返り、軍服に身を包んで現れたのであった!(ビックリ!)


こうして、時は、一気にさかのぼって、1928年の世界になるのだが……、このあたりの導入部にスル~と入っていく様子に感心しきり。



こうして映画は、リビングで死者たちに囲まれた、ノビレの証言を元に、裁判でもするかのように、当時の状況をはさみながら、進んでいくのである。




面白かった!


でも、このカメラの揺れる画質の悪さとスタンダード・サイズは何とかならなかったものか。


話は傑作なのに、視聴するにはかなりの忍耐が必要かも。



シネスコ・サイズで画質の良いBlu-rayを期待しつつ、星☆☆☆☆である。

ピーター・フィンチは、なかなかの名優ですよ。