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2019年5月18日土曜日

映画 「青の恐怖」

1946年 イギリス。






昔から、その存在を知っていたが、観る事も叶わずに数十年。とても、とても観たかった映画『青の恐怖』をやっと観れた。




原題は、green for dangerで 、直訳すれば《緑は危険》。(こっちのタイトルの方が、ずっといいのに何で?『青の恐怖』にしたんだろう?)



そう、アガサ・クリスティーと並ぶ女流ミステリー作家、クリスチアナ・ブランドの代表作の映画化なのである。




アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カーなど …… 海外の本格ミステリー作家の作品を夢中で読みあさり、

さて、「次に何を読もうか?」と思案していた時に、偶然出会ったのがクリスチアナ・ブランドだったのだ。



本格パズラーの評判はダテじゃなかった!



文庫になっていた《緑は危険》と《ジュゼベルの死》を取り合えず読んでみると、「ほぉぉ~」の声が、おもわず漏れてくる。



読んだ事がない人には、全く分からないだろうが、

「よくも、まぁ、こんな大胆で、誰も思いつかないような悪魔的なトリックを考え出したものだ!」

と、ただ感嘆してしまったのだ。



クリスティーのような、ひねりの効いた《大どんでん返し》もあるが、クリスティーよりも更にシニカルな《毒》を含んでいるブランド。



あっという間に、私は『クリスチアナ・ブランド』の虜になってしまった。


《クリスチアナ・ブランド》




こうなれば、私の性格上、あるものは全て読破しなければ済まなくなる。


文庫になっていない、ハヤカワミステリ・シリーズを買い漁っては、読みふける毎日がはじまっていく。


デビュー作《ハイヒールの死》から始まり、《切られた首》、《自宅にて急逝》、《疑惑の霧》、《はなれわざ》、《ゆがんだ光輪》、《猫とねずみ》……



ひとつ読めば、またまた驚嘆することの繰り返し。


取りつかれたように徹夜で読み進んでいったのだった。(もう、完全に中毒だ)





こんな思い出深いクリスチアナ・ブランドだが、しばらくすると、その大昔に映画にもなっている事を知ってしまう。


「観たい!観てみたい!!」

すぐに、そう思った。



だが、その願望は、今度は簡単には叶えられなかった。




叶えられないとなると、とことん調べるのが自分の性格。



この映画の事については、ありとあらゆる劇評や評論家の出す映画関連本、ミステリー映画の雑誌に書かれている数行の記事にいたるまで、片っ端から調べあげてゆく。




監督はシドニー・ギリアット


それまでヒッチコックの『バルカン超特急』や、キャロル・リードの『ミュンヘンへの夜行列車』などの脚本を書いている人物。

その人がメガホンをとって、自ら監督している。




主演のコックリル警部役には、アラステア・シム ……


なるほど、ヒッチコックの『舞台恐怖症』で主演のジェーン・ワイマンの父親役をやっている人だ。



鷲鼻で、決してハンサムと言えないが、とぼけて愛嬌のある父親役をした彼ならば、原作のコックリル警部に合っているかもしれない。(どんどん想像が膨らんでいく……)



だが、あの複雑なプロットやトリックを映画では、どう描いているのか?

全く想像もつかない。


一部のミステリーフアンからは、べた褒めされているが、映画として、キチンとまとまっているのだろうか。



あれやこれやと、想いを巡らす日々。

それもいつしか数十年が経ち、記憶の隅に押しやってしまい、忘れかけた頃 ………




元号が2つ変わり、ここにきて、やっと観る事が叶ったのだ。



そして、観た!


よく出来ていると思った!




コックリル警部役のアラステア・シムのナレーションで、映画は始まり、舞台の病院が映しだされる。


そして手術中の登場人物たちを次々と紹介していく。



映画では原作に出てくる登場人物も、少しばかり削られていたが、それでも分かりやすくまとめられていると思った。



ただ、難を言うなら、マスクをして手術着を着ている看護師たちの見分けが、日本人の自分には、1度観ただけでは判別しにくかったけど。(太った看護師さん以外は)




2度目には、それも少しずつ判別できるようになってきたけど………




爆撃で負傷して運ばれてきた郵便配達人。


治療のかいなく、手術中にあっけなく亡くなってしまう。



だが、ある一人の女性看護師が皆が集まる中でとんでもない事を言い出した。



「あれは、《ある人物》が、故意にやった《殺人》よ!!」



やがて、その看護師も殺されてしまうと、俄然、その看護師が生前に言い残した言葉は真実味を帯びてくる。



(あれは、もしかして、本当に殺人だったのかも……)と……



戦争中、死と背中合わせになりながらも、懸命な治療を続ける病院。



そんな中で起こった異様な連続殺人事件。




そして、われらの名探偵『コックリル警部』(アラステア・シム)が、やっと登場する!



空襲の飛行機が飛び交う音にビクビクしながら、ようやっと、事件のあった病院へたどり着く。(この時代の警察も大変だ。捜査するのも死ぬ覚悟なんだから)




関係者たちの所に出向いては、熱心に尋問してまわるコックリル警部。



時には、


「その日は、我々は捜査のために大忙しだった …… 」

というナレーションとは逆に、寝転がってダラダラと過ごしているコックリル警部の絵面が、映し出される。(これがイギリス流ユーモア)




でも、コックリル警部は、やっぱり名探偵!



映画も終盤になると、関係者の皆を集めて、現場となった手術室にて、華麗に謎を解いてゆくのだ。






そうして、最後のもうひとひねり。 どんでん返し。



う~ん、流石である。(シビレた~)




シドニー・ギリアットは脚本を書いていただけあって、ミステリーフアンはもとより、一般の映画フアンも退屈させないように、要所要所で盛り上げどころを作っていて、これはこれで完成度が高い作品に仕上がっていると思う。



ただ、観ている我々に対して手がかりの見せ方としては多少大雑把にも思える部分もあるのだが、当時としては、これでも充分に成功だ。



やはり、観てよかった!


そして、これからも、この映画を何度も見直す事になるだろう。



クリスチアナ・ブランドに乾杯!

コックリル警部に乾杯!

シドニー・ギリアットに乾杯!



観たい映画も願い続ければ、それは、いつか叶うものなのである。


星☆☆☆☆。