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2018年10月19日金曜日

映画 「イヴの総て」

1950年 アメリカ。







演劇会最高の賞、『サラ・シドンス賞』の授与式の夜。(トニー賞みたいなものだろうか……)


トロフィーが、女優『イヴ・ハリントン』に渡される瞬間、劇作家のロイド・リチャーズの妻、カレン(セレステ・ホルム)は、初めてイヴに会った事を思い出していた。


8ヵ月前のあの夜のことを……。






大女優マーゴ・チャニングの舞台を見に来ていては、いつも劇場の外に立っている地味な娘、『イヴ』(アン・バクスター)。


(あの娘、また来てる……)


いつも見かける娘に、人のいいカレンは、思わず声をかけた。


「毎日来てるわね、マーゴのフアンなの?」

「はい!、だって憧れの存在ですもの。何度観ても、彼女の舞台は素敵ですわ」


(フフフッ、何て純粋で可愛いのかしら……)


目の前の娘の、ひたむきさ、真摯さは、自然にカレンの口からある言葉を引き出した。


「いいわ!決めたわ!その憧れの『マーゴ』に会わせてあげる!」


イヴはビックリした顔で、「本当ですか?、夢じゃないかしら」と素直に感動した。


その驚き方に、尚更、カレンは嬉しくなり、この娘イブを気に入ってしまった。






舞台が終わり、楽屋で『マーゴ』(ベティ・デイヴィス)は化粧をおとしている。


側では、口が悪いが旧知の中で長年の世話係『バーディ』(セルマ・リッター)が衣装をせっせと片付けていた。




「ちょっといいかしら?」



ノックとともに入ってきたカレンを、マーゴは嬉しそうに引き入れた。



しばらくは雑談しているカレンだったが、意を決めて切り出した。



「実は、あなたに会わせたいフアンがいるのよ、会ってもらえるかしら?」



マーゴは突然の申し出に戸惑ったが、他ならぬカレンの願いを無下に断るはずもなく、


「いいわよ、連れてらっしゃい」と寛大さをみせた。



そしてカレンが戸口の裏にいたイヴを引き入れると、イヴは目を輝かせて嬉しそうにした。


「まるで夢のようですわ、私、大フアンなんです!素晴らしい舞台!何度、同じ舞台を観てきた事でしょう!どれもこれも素晴らしくて!」


マーゴの目の前で、絶賛し、称賛するイヴ。


(まぁ、悪い気持ちじゃないわね……)


マーゴも照れ隠しの気持ちを抑えていても、自然に笑みを浮かべていた。






興味をもったマーゴは、イヴの恵まれなかった悲しい過去を聞くと、なおさら同情してしまった。

根っから人の良い姉御肌のマーゴ。




「決めたわ!明日から私の所にいらっしゃい!」


その場の思いつきで、付き人にする事にしたマーゴ。


これには、ビックリするイヴだったが、

「ありがとうございます、一生懸命頑張りますわ!」と、さらに嬉し顔。


それを側で聞いていたバーディは、ウンザリした顔で、奥にひっこんでいった。




それから、イヴは盲目的に、そして献身的に、マーゴにつくしていく。


最初は気が利いて気持ちのよかったマーゴなのだが、……………なんだか、だんだんと奇妙な居心地の悪さを、感じるようになってきた。




(でも、一生懸命やってくれているんだから……)


自分が決めたのだから取り消すわけにもいかず、何とか自分にそう言い聞かすマーゴ。



それでも………


「あなたイヴが嫌いよね?」なんて、バーディに聞いてみたりする。

「えぇ、嫌いですよ。何だか四六時中あなたの事ばかり考えていて、気持ちが悪いったらありゃしない!」

バーディは容赦ない。



(そう……あの娘が考えているのは、いつも私の為になる事ばかり………)




それからもイヴは気を利かせて、マーゴの恋人で舞台演出家のビルの誕生日にマーゴの知らない内に先回りして祝電を贈ったりもした。


戸惑うマーゴ……そして、段々とイライラしてくるマーゴ……。


イヴの行動に、説明など出来ない女の本能が何かを感じ取ったのだ。



そしてとうとうある日、舞台に穴をあけたマーゴの代役にイヴが代わりに舞台に立ち、大成功をおさめてしまった。


(どういうことなの?!)


いつの間にか、マーゴの台詞、歩き方、着こなし方すべてを完璧に暗記していたのだった。



この代役は、たちまちマスコミや劇評家たちに絶賛された。




新しい女優の誕生だと。



女優としてイヴは華やかなスタートをきったのだった。


そこには、もう清純そうなウブな小娘の姿はない。


ゆっくりと仮面を外せば、傲慢で邪悪に満ちた女の顔がソコにはあった。





そして、イヴの更なるターゲットはカレンの夫で劇作家のロイド。


(絶対にロイドに気に入られてみせるわ!)


イヴの野望は続いてゆく…………。








演劇会の内幕を描いた珍しい映画。



「『スター』になるためなら、どんな事でもしてやる!」なんて、ガツガツした鼻息の荒いイヴの物語である。


アン・バクスターは綺麗だが、勝ち気で下品そうなイヴを、よくやってるし、他の女性陣たちも印象的だ。




特にベティ・デイヴィスはさすが。


気をはっていて、いつもは姉御肌を装っていても、弱い本心を隠しているマーゴを上手く演じていて、感心してしまった。(アカデミー主演女優賞をもらってもいいくらいなのに、残念ながらノミネートだけに終わっている)




セルマ・リッターは、あいかわらずに名脇役でピリリとしたスパイスをきかせているし、セレステ・ホルムも上手いと思う。





こんな女性陣たちに比べて、男たちはダメダメ。





マーゴの恋人で演出家のビルや、カレンの夫で脚本家のロイドなんてのは、見た目だけに、コロリと騙される人間たちである。(ゆえに印象うすい。人を見る目がないのに演出家や脚本家なんて、チャンチャラおかしいものである)


そんな中でも、マシな男は劇評論家の『アディソン・ドゥーイット』(ジョージ・サンダース)。


イヴの嘘や色香に騙されたふりをして、さらに、その上をいく強者(つわもの)である。



後半、このアディソン・ドゥーイットが、それまでイヴがついてきた嘘を1枚1枚剥いでいき、精神的にコテンパンにしていく様子は観ていて痛快である。




「私を今までの男たちと同じように見てもらっちゃ困るよ、舐めるんじゃない!」


イヴが泣き真似をしても怒ってみせても、この男アディソンには通用しない。


マーゴやカレンたちに語って聞かせていた嘘の過去も興信所で徹底的に調べあげている。


それを聞かされて崩れ去るイヴ。

『全てはこの為にあったのだ!』と思わせてくれる、まさに爽快な瞬間なのだ。




この作品は、アカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞を授賞した。



もちろん星☆☆☆☆☆。

1度は観るべき!超オススメである。