1948年 アメリカ。
その昔、ビリー・ワイルダー監督の映画に夢中になって、数々の作品を追いかけていくうちに、なにかにつけて、この名前を目にしたり、耳にしたりするようになってきた。
《エルンスト・ルビッチ》……
まぁ〜、ワルそうな顔(笑)。(一見、『チキチキマシン猛レース』のケンケンにも見えてしまうルビッチ)
1918年にサイレント映画で監督デビューしてから、1947年に亡くなるまで、幾多のミュージカル映画やコメディー映画を撮ってヒットさせては、その道の《巨匠》とまで言われた、伝説のお方である。
この人の影響力はとにかく大きくて、後進で活躍した名だたる有名監督たちが、それを賛美し支持したのだという。(日本では、あの小津安二郎監督にも影響を与えたとか)
そんな、エルンスト・ルビッチ監督の家に住み込みで見習い弟子になっていたのが、まだまだ、当時無名だった『ビリー・ワイルダー監督』なのである。
こんな評判を知ってしまうと、ルビッチ映画を「俄然、観てみたい!」と思うのは当然の欲求で、私、晩年の監督作である『天国は待ってくれる(1943)』を、とうとうある日観たのだけど ……… コレがおっそろしく (ゴメンなさい)
ダメダメでした!
主演が『ローラ殺人事件』や『幽霊と未亡人』で、私が御贔屓にしている有名女優、ジーン・ティアニーだし、珍しくカラー映画なので、コレを選んだのだけど、もう一人の主演男優であるドン・アメチーの役柄に最初から最後まで感情移入どころか、虫酸が走りっぱなし。(この話に共感する人がいるのか?)
(コレが《巨匠》とまで言われた人の作品 …… ?)
これまでの世間の評価を全て疑ったくらいだった。
でも、私のこんな勝手な感想でも、ルビッチの評価はあいも変わらず。
「おっかしいなぁ~」と思っていると、ルビッチ監督を、あのヒッチコック監督と同列にして書いている記事に、たまたま出くわしたのだった。
なるほど!それで合点がいった!
ヒッチコック映画も傑作もあれば、駄作、凡作も数多い。
ルビッチ映画も、
「出来が良いモノもあれば、悪いモノもあるはずだ!」
と、良心的にそう解釈したのだった。
で、今回取り上げるルビッチ監督の遺作が、『あのアーミン毛皮の貴婦人』なのだけど、コレもまたまた、曰(いわ)く付きの映画。
クレジットには、《監督 …… エルンスト・ルビッチ》の名前はあっても、ほぼ 監督していないのだった。
なぜなら、制作段階で エルンスト・ルビッチはとっくに《亡くなってしまった》からなのである。(あらら…)
どの写真でも、大きな葉巻きをプカプカ吸ってるルビッチ。(身体に悪そう)
それもあってか、ある夜、シャワーを浴びている時、あっけなく心臓発作で亡くなってしまう。(享年55歳没である)
もう、ほとんど準備万端で、後は撮影に入るだけだった映画『あのアーミン毛皮の貴婦人』。
さぁ、誰がそれを引き継ぐのか?
本来なら、一番弟子のビリー・ワイルダーが受け継いで完成させてもよさそうだが、1945年に『失われた週末』が話題になったとはいえ、まだまだ新人。
白羽の矢が立ったのは、既に『ローラ殺人事件(1944)』や『堕ちた天使(1945)』などを成功させていたオットー・プレミンジャー監督なのでありました。(後年、『悲しみよこんにちは』や『バニーレイクは行方不明』でも超有名)
映画のクレジットには、プレミンジャーが遠慮したのか、その名前すら伺えないが、私はコレを《ルビッチの遺作》とは認めず。
オットー・プレミンジャー監督の作品だと認識している。
で、プレミンジャーが監督したとすれば、面白くならないはずがないじゃ〜ございませんか?
相変わらずの安定した出来栄えで、とっても面白かったです。(なんせ職人気質の監督さんですから)
舞台は、1861年、ヨーロッパは南東にある小さな国《ベルガモ公国》。
広い城内には、代々の君主たちの巨大な肖像画が幾つも壁を飾り、子孫たちを見守っている。
その中で、ひときわ目を惹かれるのが、300年前に国を統治していた《アーミン毛皮の貴婦人》、女伯爵『フランチェスカ』(ベティ・グレイブル)の肖像画だ。
白く大きな毛皮を纒ったフランチェスカの肖像画は、現在の女伯爵で、自分の姿に瓜二つな遠い子孫である『アンジェリーナ』(ベティ・グレイブル二役)に優しく微笑みかける。
(これからも《ベルガモ公国》に繁栄を …… )と ……
そんなフランチェスカの願いがアンジェリーナにも届いたのか …… 入り婿である『マリオ』(シーザー・ロメロ)を迎え入れると、屋敷では盛大な結婚式が執り行われた。
結婚式も無事に済んで、やっと二人きりのアンジェリーナとマリオ。
さて、いざ!初夜に挑もうという時、事件は起こる。
「大変です!ハンガリー軍が攻め入って来ました!」
執事『ルイージ』が血相を変えて、二人に報告しにやってきたのだ。
あたふた、オロオロする入り婿マリオは「ど、どうしよう…… 」と言いながら、アンジェリーナを置いてけぼりにして、とっとと一人だけ逃げ出していった。(あ〜情けなや)
それでもアンジェリーナ、毅然とした様子を崩さず。
(夫は、きっと兵を従えて戻ってくるはずだわ …… )と、どっからそんな自信が湧いてくるのか、慌てる様子もない。
そこへ、大勢の兵を従えたハンガリー軍がとうとう到着して、屋敷へとズカズカ乗り込んできた。
「この城は我々が制圧する!」
憮然とした表情で、ギロリと睨みをきかせているのは、軍の指揮官である『テグラッシュ大佐』(ダグラス・フェアバンクス・Jr.)である。
そんな大佐だが、壁に飾られているフランチェスカの肖像画を見た途端、一瞬で目がトロ〜ン。
心なしか、肖像画のフランチェスカはテグラッシュ大佐にウインクしているようである。
(あ〜、どうしたというんだ?オレは …… いかん!いかん!しっかりしなければ!!)
「ここの城主の元へ案内しろ!」
執事のルイージに伴われて、アンジェリーナの部屋へやってきた大佐。
そのアンジェリーナの姿を見て、大佐は、またもやビックリ。
(こ、これは!まるで絵から抜け出たように瓜二つじゃないか!!)
完全にアンジェリーナに一目惚れしてしまったテグラッシュ大佐。
もはや、アンジェリーナに対して、つとめて慇懃無礼に振る舞おうとしても、言葉の端々には好意的なモノがチラホラ見え隠れして、どうしようもない有り様である。
一方、アンジェリーナの方も結婚したばかりなのに、紳士的な大佐に心はユラユラ揺らいでいく。(乙女心は複雑なの)
その夜、皆が寝静まった頃、暗闇に包まれた屋敷では奇妙な話し声が ……
沢山の壁にかけられた肖像画の人物たちが、絵から抜け出てきて、皆で会議をはじめたのだ!
もちろん、アーミン毛皮の貴婦人であるフランチェスカの姿も。
「あのハンガリー人の大佐をどうしてくれようか …… 」
歌い、騒ぎながら、ベルガモ公国の先祖たちの会議は深夜まで続いていく ………
こんな冒頭で始まる『あのアーミン毛皮の貴婦人』は、お察しどおり終始かる〜いノリ。
肩の力を抜いてご覧になれます。
『フランチェスカ / アンジェリーナ』役のベティ・グレイブルがチャーミングで良いねえ~♥
大佐の夢の中に現れて、とっちめてやろうとする『フランチェスカ』だけど、『テグラッシュ大佐』(ダグラス・フェアバンクス・Jr.)の魅力に負けて、逆にミイラ取りがミイラになってしまう。
しまいには、こんな風に大佐を自ら抱き寄せて「ブチュ〜♥」って激しく迫ってみたり。(アララ …… 珍しい女性優位のラブ・シーン)
大佐をお姫様抱っこしたまま、空中までフワフワ飛んだりしてしまうフランチェスカ。(スゲ~)
まぁ、あくまでも夢の中なんで、何でもありって事で(笑)。
一方、現実世界では、逃げ去ったはずの夫マリオが、ひょっこりと帰ってくる。
それも、仲間とはぐれた《ロマ(ジプシー)》の変装までしてきて。
本来なら、夫の帰還を喜ぶはずなのに、どこか一気に熱が冷めてしまうアンジェリーナ。(だろうな、こんなヘラヘラした男、ムリだっつーの!)
「それに比べてテグラッシュ大佐の男らしい事よ ……」(もう、この辺りで恋のシーソーは、テグラッシュ大佐の方にググ〜ンと傾きかけている)
はてさて、アンジェリーナとテグラッシュ大佐の恋の行方は ……
なんか、久しぶりに日常のゴタゴタを一時でも忘れさせてくれて、楽しんだ一本でした。
もちろん恋の終幕は、皆が納得のハッピー・エンド。
結局、私の解釈は、テグラッシュ大佐に惚れてしまったフランチェスカの気持ちが、DNAとして深く刷り込まれてしまい、長い時をかけながら(ほぼ一瞬だけど)、アンジェリーナに受け継がれてしまった?のかな?(『時をかける少女』みたいな話だ)
芸達者なベティ・グレイブルとダグラス・フェアバンクス・Jr.。
それにオットー・プレミンジャー監督の職人技に感動して、星☆☆☆☆でございまする。
※そうそう、それと、エルンスト・ルビッチ監督については、今回もその真価をはかる事が出来ず。
いつかルビッチの映画で「面白い〜!」と言える日が来るのだろうか。
まぁ、それも慌てず騒がず …… 気長に観ていくとしましょうかね。
久しぶりの投稿で長くなりました。
オヤスミなさいませ~