ホーム

2022年4月3日日曜日

映画 「不連続殺人事件」

 1977年  日本。




戦後、日本の推理小説の傑作として、よくよく引き合いに出されるのが、この坂口安吾によって書かれた『不連続殺人事件』だ。


ある日、本屋で手にとって、パラパラと見てみる。


ダメだ、こりゃ!(~_~;)

とってもついて行けそうにないわ。


古い言い回しと、ビッシリ書かれた文章。

それに加えて改行の少なさで、目がチカチカ(⊙_◎)してきて、とても読み進めていけそうにない。


無理もない、なんせ書かれたのが昭和22年〜23年ですもん。(《紙1枚》だって貴重な時代。改行を増やして余白部分を作ろうなど「勿体ない!」時代なのだ)


それに、この登場人物の多さは何だこりゃ!(総勢、大体29名)


いくら推理小説に慣れ親しんでいる者でも、コレに取り掛かるのは、けっこう至難の技かも。


そっと本棚に直すと、これまたスルーを決めこんでしまいました。(どうしようもない奴(笑))



でも、しばらくすると閃いた事があった。

「いや待てよ …… コレも、また、もしかしたら映像化されてるかも …… 」と。


そうしたら、案の定、映画化されてましたがな。

1977年に松竹映画として。


このポスターの右上にいるのは、田村高廣(たかひろ)さん。(田村兄弟の長男さん)

その左隣りは瑳川哲朗(さがわてつろう)さんである。(この方はショーン・コネリーなどの声優としても有名)


その下に鎮座するのが夏純子さん。

私、てっきり夏樹陽子さんだとばかり勝手に思ってました。(顔も似てるし、《夏》の漢字も入ってるし、お色気あるしで。いつも混同してしまう)


そうして、その左隣りにいるのは、誰でもご存知、内田裕也氏である。(痩せていて、ガリガリ君なのに映画では常に上半身裸)



このポスターだけを見れば、てっきり田村高廣さんが主役であり、謎を解き明かす名探偵かと思いきや、ただの事件に巻き込まれた作家役。(ワトソンみたいな感じね)


ポスターにはデカい顔写真すら無いけど、小坂一也さん演じる『巨勢(こせ)博士』が名探偵なのである。(名探偵役なのに映画のクレジットでは4番手か5番手。なんでやねん?あまりにも地味だから?(笑))



まぁ、とにかく映画を観てみると …… 

ゲゲッ!コレも、また難解な(*﹏*;)!(この登場人物の多さったら)


それでも辛抱、辛抱 ……


これから初めて観られる方には、多少の手助けになれば …… と、ココに要約だけを記しておく。



山奥にある財閥の名家『歌川多門(たもん)』(金田龍之介)が、そもそもの元凶。

根っからの絶倫じいさまなのだ。


正妻、後妻 …… 結婚を繰り返しながらも、あちこちの女中たちに子供を産ませたり、関係を持ってきたのだ。(よ~やるよ)

そんな多門のトンデモないDNAは、立派に?それぞれの子供たちにも受け継がれているようで ……


歌川家の長男である『歌川一馬』(瑳川哲朗)は、奥様と離婚までして、ヨーロッパ帰りでアバンギャルドな新進画家、『土居光一(アダ名:ピカイチ)』(内田裕也)の情婦である『あやか』(夏純子)と恋愛関係になってしまう。


ピカイチに大金を支払って、やっと別れてもらい『あやか』と結婚するのだが、現在は腹違いの妹の一人『加世子』に目移りしてしまい、悶々とする日々なのだ。(生真面目そうな顔でも、やってる事は父親と同じ)


こんな歌川家は、年老いた多門と女中たち、腹違いの妹たち、一馬・あやか夫婦で、微妙な関係に折り合いをつけながら、暮らしていたのだが ……


ある日、一馬は昔ながらの知り合いで、作家である『矢代寸兵』(田村高廣)と妻・『京子』の家を訪ねていく。


「お願いだ!お二人で我が家に来て頂けないか?!京子さんも是非!!」


妻・京子は昔、歌川家の女中をしていて、あまり気乗りしなさそう。


それでも熱心にお願いしてくる一馬の頼みに夫婦は折れて、N県の山奥にあるという歌川家を目指してやってきた。


途中、駅からバスに乗りかえようとするも、同じように歌川家に招待された客人たちに遭遇する。


その中には、あやか夫人の元情夫である、あの『ピカイチ』(内田裕也)の姿もあったのだ。


「このご時世、俺もタダ飯にありつこうと思ってね」


邸の前で客人たちを出迎えるあやか夫人は、ピカイチの姿を見つけて、いかにもイヤそうである。



オマケに、一馬の元妻や、他の作家連中、弁護士までもが、ゾロゾロと集まって来ている。


「おい!あんな連中やピカイチまで本当に呼んだのか?」

矢代が一馬に問いただすも、一馬からは意外な返事。


「誰かが私の筆跡を真似て、あちこちに手紙を出してるんだ!」


矢代本人に宛てた招待状の手紙さえ、書き加えられて、誰かの手で改ざんされていた。

「私は『《巨勢(こせ)博士》もご一緒にどうぞ』なんて、ひと言も書いてないぞ!」


誰が、何の為に、こんな手のこんだ小細工をしているのか。


そんな不穏な空気の中、ひと癖も二癖もある連中が集まって、今宵、気味の悪い宴が始まってゆく ……



こんな長〜い前振りの後は、一応『…… 殺人事件』のタイトルらしく、一人一人が殺されてゆく展開なんだけど ……


この手の《殺人事件モノ》としては、あまり上手くいってないかも、この映画。


《構想5年》、《制作期間1年》の大見出しの割りには、(ハッキリ言おう!)この映画の出来、ちょっと ヘタクソである。


この映画の撮影が、大広間にいる集団全てを収めようとする為、ほぼ遠目で撮っているので、個々にまでカメラが寄る事が、ほとんど無い。


その為、セリフは喋っていても、誰が誰なのやら …… (一度観ただけでは、とても判別が出来ないのだ)


ある朝、●●が部屋で殺されているわ!」と、一人の女が大広間に駆け込んでくるのだけど、その女にしても、


「お前、いったい誰だったっけ?」ってな具合。(笑)


それに殺された●●にしても「どんな奴だっけ?●●って?!」って考え込む。(そのくらい登場人物たちの個性が薄〜いのだ)


オマケに、肝心の殺害シーンも無く、死体も顔出しさえ無いので、確認すらとれない。(本当に不親切な演出)


「誰が殺されたのやら?」

原作を知らずに初めて観ている者は、ポカ〜ン状態になってしまうのである。(完全に置いてけぼり)


こんな、殺人事件の連続で物語が進んでいくのだけど ………


なんとか上記に記載した面々だけが、かろうじて判別できているという、情けない有り様である。(今ならDVDを巻き戻して確認出来ても、当時、映画館で観た人には、サッパリ分からん映画だったろうよ)


無個性な連中の中で、内田裕也だけが、一人だけ場違いなほど目立ってる。(元情婦の『あやか』(夏純子)さんとの大喧嘩は、あまりにも壮絶過ぎる!)



それでも我慢、我慢で観続けていると、最後には我慢のかいあって、やっと霧が晴れるような驚くべき真相が ……



……… なるほどねぇ〜


結局こういう話だったのねぇ~(観てない人には何の事やらサッパリ分からんだろうが)



1:犯人は一人だけじゃない。


2:そして、人前では大袈裟過ぎるほどの過剰な《演技》をしている。


3:この連続殺人事件の動機は、全て《お金》目当てだった。



こんだけ大ヒントを書いておけば、多少、勘の良い人はお察しがつくかな?(笑)



この映画を観て、即座に思い出したのが、アガサ・クリスティーの『ナイル殺人事件』の犯人だった。


どっちの出来が良いかを比べてみれば、明らかにクリスティーの方に軍配は挙がる。


『不連続 …… 』の方は、登場人物たちの性格、背景、描写において、だいぶクリスティーに劣るのだ。(「さすがはクリスティー!」と再認識したところ)


この『不連続殺人事件』も昭和22年なら驚きでも、今の肥えたミステリー・マニアの目でみれば、だいぶ「若書き」に思えてしまうかも。


とにもかくにも、この原作を映画として、もう一度リメイクするなら、他の登場人物たちの描写を何とかせにゃ〜なるまい。(あまりにも記号的すぎる)


私には『不連続殺人事件』ならぬ、『不親切殺人事件』なのでございました。(今回、星での評価は無し。終わり方もこれじゃ〜あんまり酷すぎるわ(笑))



※あ、そうそう、この映画には、あの『ヤヌスの鏡』で有名な初井言榮さんが出てる。(ちょい役で)


やっぱり老けたお婆さん役だ。


「年寄りは昨日出来た事が、今日は出来なくなりますのでねぇ~」

こんなセリフをのたまう初井言榮さん。(まだ、この時40代ですぞ)


ほんの短いセリフに、後日、身震いした私なのでした。