ホーム

2021年7月13日火曜日

ドラマ 「悪女(わる)」

1992年 4月~6月。




♪チャララン、チャララン、チャララララ~ ……


こんな中華めいたメロディーで始まる、デート・オブ・バースの歌『思い出の瞳』が流れ出すと、変に血が騒ぐというか、不思議な高揚感が増してくる。


そして、この音楽は直結していて、あの伝説のドラマを、すぐに思い出してしまう。


悪女』と書いて『わる』と読む。


『悪女(わる)』主演、石田ひかり……この時、19歳くらい。


他のドラマや映画に出ていても「あっ、可愛い子だな~」くらいの気持ちだった石田ひかりが、このドラマでは、特別に《ひかり》輝いているように見えた。(ダジャレか (笑) )



大手企業『近江(おうみ)物産』に三流のコネで入社してきた『田中麻理鈴(まりりん)』(石田ひかり)。


親がマリリン・モンローの大フアンで、キラキラ・ネームの最先端のような名前をつけられた『麻理鈴』だが、それ以外に特に何かが優れているというわけでもなく……


ただ、元気だけが取り柄という、ごくごく平凡な小娘である。



三流コネゆえ、配属されたのも、近江物産の中でも末端中の末端、狭い倉庫のような場所《備品管理室》だった。


それでも、明るさだけは人1倍の麻理鈴は、

「過労死するまで頑張ります!」

と、元気に挨拶する。(いや、会社は死人が出ちゃ困るって (笑) )



だが、まるでヤル気のないオジサン連中ばかりの備品管理室では、麻理鈴の元気よさも、少々空回り気味。


そんな中で一人、謎めいた先輩女性『峰岸佐和』(倍賞美津子)だけは、「変わった子…」と興味を持ち始めたようだった。



そんな折、麻理鈴は会社の中で、ある男性社員に遭遇する。


それは、まさしく一目惚れ!


運命の人との出会いだった!(…と、麻理鈴が一方的にそう思ってるだけ。相手は全く覚えがない)


キューピッドの矢が麻理鈴の胸を貫いた瞬間。💘


(誰なんだろう?あの人は……もう一度あの人に会いたい💖!!)


その日から仕事そっちのけで、運命の男性探しに、躍起になる麻理鈴。


総務課にまで、こっそり忍び込んで、やっと見つけたパスポートの顔写真には、ただイニシャルの『T・O』しか書かれていなかった。


(『T・O』さん……)



そんなある日、先輩の峰岸は麻理鈴に、こんな唐突な提案をしてきた。


「どう?《出世》に興味ない?!」と……。


「《出世》ですか? こんな私でも《出世》できますかねぇ~」


まるで夢物語。半信半疑の麻理鈴に峰岸はこうも付け加える。


「できるわよ……ただし《悪女(わる)》になれればね……」



このドラマ、当時面白くて、毎週かかさずに観ておりました。


でも、何が『悪女(わる)』なのかは、さっぱり分からなかったけど。(麻理鈴のどこに悪女らしさがある?)


麻理鈴の初恋相手T・Oさん探しには、あんまり興味なかったけど、ひとつひとつ峰岸が出す課題をクリアーしながら、出世していくさまは、とても痛快でございました。



「なんですか?、これ?」


峰岸が渡した用紙には、この近江物産で働く清掃員のオバサンたちの名前がズラズラ~と書かれてある。


「これを全部覚えて、一人一人に挨拶するようになさい」


清掃員のオバサンたちを覚えて挨拶する事が、《出世》と、どう関係あるのか?


全く分からない(???)麻理鈴だったが、取りあえずは峰岸の言う通りに実行しはじめた。


「おはようございます!●●さん!!」

清掃のオバサンたちは、突然名前で呼ばれて、目をパチクリする。



そうして、数日が過ぎると、オバサンたちは、《ある人物》を取り囲んでお茶菓子を食べながら、休憩室で井戸端会議をしていた。


その《ある人物》が、オバサンたちに質問する。


「どうですか?最近変わったことはありませんかね?」


オバサンたちは、咳を切ったように話し出した。


「あの子はトイレでも男の話ばっかり」

「あの子は、ちょいちょいサボってばかりいるわ」

社員たちは清掃員なんて気にもとめないが、オバサンたちは普段から、全てを見聞きして、何でも知っているのである。(『家政婦は見た』、もとい『清掃員は見た』ってところか)


その中で、誰かが言い出した。


「そういえば……一人だけ変わった子がいて、いつも私に挨拶してくれるのよね」


他のみんなも同じようにつられて言い出した。


「私もよ!」

「私にも挨拶してくれるわ、しかも名前でね!」


《ある人物》は、それに感心しきり。


「ほぉ~、名前を呼んで挨拶ですか……で、その子の名前は?」



ー そして次の日


《備品管理室》の課長が血相を変えて麻理鈴の元へやってきた。


「田中君、君、明日から《秘書課》に移動だよ!!」


麻理鈴ビックリ!

(本当だ!本当に出世してしまった!!)


こうして、峰岸の思惑どおり、出世街道の軌道に、上手くのった田中麻理鈴。


けど、その道は、山あり谷あり、イバラの道の始まりでもあったのでした……



当時、このドラマの舞台、《近江物産》という会社には、フィクションをこえて感心しきりだった。


こんな会社なら「自分だって働きたい!」と思ったくらいだった。


大勢いる社員たちの中で、ちゃんと下の者たちの意見を取り入れて、

「良い人材が、どこかで埋もれていないか? くすぶっていないか?」

を、巨大な網をはって、常に探しているのだから、本当に凄い会社である。


こんな会社なら、そりゃ年間22兆円なんて年商を叩き出して、どんどん発展していくに決まってるわ。


それに、こんな風に、


「自分だって頑張れば、必ず誰かが認めてくれる!」なんて信頼があれば、働きがいもあるというものである。



どっかの馬鹿な経営陣たちや、うちの会社の上役たちに、このドラマを突き付けて、今すぐに見せてやりたいものである。(そう思う人、多いんじゃない?)


会社にとって、《人を育てるという事》が、いかに大事なものかを、この『悪女(わる)』は、きちんと教えてくれて、そして諭(さと)してくれるのだから。



もちろん、主人公『麻理鈴』(石田ひかり)が、その後に出会う人々も、善い人ばかりじゃない。


いけすかない奴らが、そこらじゅうに、ウジャ、ウジャといる。(イジワルな鶴田真由や、軽い男尊女卑の布施博、若いのにお堅い頭の渡辺満里奈などなど……)


そんな人々が、麻理鈴の人柄に触れながら、徐々に良い風に変わっていくさまも、このドラマの、また、もう1つの見所である。



やっぱり、取り柄がないといっていても、そこは主人公。


田中麻理鈴には、周りの人を惹き付けるような《何か》が、最初からあるのだ。


だからこそ、「出世に興味ない?」となんて言いながら、先輩『峰岸佐和』(倍賞美津子)も、たまらず声をかけてしまう。



演じるのが石田ひかりだからなのか……

そんな麻理鈴には、人当たりの良さや、押し付けがましくない説得力を感じてしまい、皆が惹かれていくのも、妙に納得してしまうのである。(やっぱり演技派だ、石田ひかりは!)



このドラマのような、田中麻理鈴の逞しく生き抜くスキルは、数十年経った今に観ても、少しも古臭く見えない。


充分にお手本にしたいものである。


是非、是非、この名作のDVD化希望!

星☆☆☆☆。

(それにしてもオープニングのコレ、何の果物なんだろう? メッチャ美味しそう~)