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2020年9月26日土曜日

映画 「ダイヤル M 」

1998年 アメリカ。






『スティーヴン・テイラー』(マイケル・ダグラス)は、若くて美しい資産家の妻『エミリー』(グウィネス・パルトロウ)と、マンハッタンで豪華な暮らしを満喫していた。


スティーヴンも実業家だったが、もっか経営は厳しい状態。



エミリーは資産家ながらも、国連で働いているバリバリのキャリア・ウーマンである。




そんなエミリー、仕事の合間に画家の『デイヴィッド』(ヴィゴ・モーテンセン)と知り合い、不倫関係に。



デイヴィッドのアトリエのロフトで、暇をみつけては密会を繰り返すエミリー。


高圧的なスティーヴンの性格に嫌気がさしていたエミリーは、デイヴィッドに会えば会うほど惹かれていく。


でも、そんなものをおくびにも出さず、冷静にふるまおうとするエミリー。




だが、夫スティーヴンは、どこまでも抜け目のない性格。



エミリーの不倫など、全てを知っていたのだ!



そして、エミリーの留守中に、スティーヴンは自宅に、ある男を呼ぶ。

「入りたまえ!」



何と!入って来たのは、エミリーの浮気相手のデイヴィッドじゃないか!!




いったい何の用で呼び出されてきたのか、訝(いぶか)しそうにしているデイヴィッドに、スティーヴンはいきなり核心をついてきて、

「君が妻のエミリーと《デキてる》事を知っている!」と言い放った。



そして、「君には妻のエミリーを殺してもらおうか!」と、とんでもない提案をしてきたのだ。


「はぁ、何で俺がエミリーを殺さなければならないんだ?それもあんたの為に?!気は確かか?」


そう言われても、全く動じないスティーヴンは、不適な笑みをたたえると、デイヴィッドのこれまでの過去を話しはじめた。



興信所で調べさせたデイヴィッドの過去。


ペテンや詐欺は当たり前、そして投獄までされていた写真……


「新進の画家だって?笑わせる。君は根っからの犯罪者じゃないか!」


図星なのか……もう、ぐうの音も出ないスティーヴン。


「そ、それでも、もし俺が、この話をエミリーに言ったらどうなる?」


「エミリーには、君の過去をじっくりみてもらって判断してもらうさ。それに、警察に私が行けば、君にはまだまだ捕まるような余罪があるんじゃないか?」



もう、八方塞がり。まさに出口なしのデイヴィッド。


デイヴィッドが次に発した言葉は、「どうすればいいんだ……」だった。


その言葉を聞いたスティーヴンは、ニヤリと笑うと、「なぁに、悪いようにはしないさ。計画とは……」と言って話し始めるのだった…………。





今回、この『ダイヤル M』を観たのは初めて。(当時、「また、ヒッチコックの下らないリメイクか…」とスルーしていたのだ)



観てみてビックリ!



良くできてるじゃないですか!!



なんなら、こっちの『ダイヤルM』の方が、完全にヒッチコックの『ダイヤルMを廻せ!』を上回っている出来栄えと言ってもいいくらいだ。




前回にも書いたように、あれほど、妻マーゴ殺しの為に、夫トニーが、悪党『スワン』を説得するためにダラダラした会話は、この映画ではコンパクトにまとめられている。


おかげで、サクサク進むし、何よりも『スワン』の存在を省略して、妻の愛人に殺しの依頼をさせるとは……もう、ビックリな改変である。


この後もビックリは続く。





アリバイ作りの為に、スティーヴンは仲間の集まる場所に出かけていき、深夜、妻エミリーは、侵入してきた黒いマスクの暴漢に襲われる。




そうして、エミリーは、やっと掴んだ先の尖った鋭利な温度計(多分、油の温度を計る温度計じゃないかな?)を犯人の首元に突き立てるのだ。


ピクリともせず、大量の血を流して倒れる犯人。



そこへ、タイミングをはかったように夫スティーヴンが電話をしてきた。


「スティーヴン、助けて!早く!早く帰ってきてちょうだい!!」


てっきり、暴漢役のデイヴィッドが出ると思っていた電話に、エミリーが出た事でスティーヴンもビックリ。




一目散にかけつけると、台所では黒いマスクの死体と、側で泣きじゃくっているエミリーの姿が……。


やがて、警察がかけつけて、現場は騒然としてくる。

そして、現場を捜査する『カラマン警部』(名探偵ポワロのデヴィッド・スーシェ)の登場。




カラマン警部と警察官が、死んでいる男の黒マスクをはぎとると、そこに現れた顔は………




誰だ?コイツは?!



全く知らない顔だ!!死んだのはデイヴィッドじゃないのか?!



「どうかなさいましたか?」驚愕しているスティーヴンの横で、カラマン警部が目を光らせながら訊ねると、

「いえ……何でもありません……」と、なんとか平静を装ってスティーヴンは応える。






後日、デイヴィッドと会ったスティーヴン。


「どういう事なんだ?あれは?!いったいあの男は誰なんだ!」



激昂するスティーヴンに、デイヴィッドは、この間の態度とは、うってかわって落ちついた様子。


「俺も汚れ仕事はやりたくないんでね。代わりにやってもらったのさ。昔、ちょっと知り合ったくらいの関係ない男さ」


スティーヴンは、このデイヴィッドを甘くみていた。しかも、この間の会話をデイヴィッドは、ちゃんとポケットの中で、テープに録音していたのだ。


(この男は………)


「なぁ、これからどうすればいい?」

屈託なく聞いてくるデイヴィッドに、スティーヴンは「しばらくは動けない……警察も目を光らせているだろうし……」と言って去ろうとする。



後ろからは聞こえるのは、とんでもないデイヴィッドの言葉。


「じゃ、俺、しばらくはあんたのカミサンと寝ていてもいいんだな?」だった。




夫スティーヴンもクズなら、愛人デイヴィッドも最低のクズ男……

二人のクズ男に、はさまれたエミリーの運命は……。





ここまで書き出してみても、まだ映画の中盤である。



この後も、二転三転の展開が待ち受けている。


時代を現代にアレンジして、ストーリーも大胆に改変しながらも、細部まで手をぬかず、無理なく辻褄があっている。


しかも、ちゃんと面白い作品になっているんだから、これはリメイクでも立派な成功例だろう。




この監督さんは、サスペンスの舞台劇を《映画にするにはどうすればいいか?》って事を、充分にわかってらっしゃるお方だ。

一旦、バラバラに分解して、考えながら、じっくりと積み上げていく、その作業は、まるで何層にも重なる積み木のようなモノだ。

少しの隙間もないように……。




こんな作品を作り上げた監督は誰だろう……気になった。


監督はアンドリュー・デイヴィス。


聞いた事もなかったが、作品を聞けば、どれもこれも、「あ~この作品観てるし、面白かった」というのがあって、またもや納得してしまう。


『刑事ニコ/法の死角』、『沈黙の戦艦』(スティーヴン・セガール)

『逃亡者』(テレビ逃亡者のリメイクね。主演はハリソン・フォード)

『守護神』(ケビン・コストナー)などなど………。

なぜか、どれもこれも観ている私。

こりゃ、いずれ、この監督の作品を、ここへ挙げていくのもいいかもしれない。




映画は星☆☆☆☆である。


冷酷なマイケル・ダグラスの演技はいいし、不倫をしていても下品にならないグウィネス・パルトロウの存在は貴重。


色男を気取っていても、どこか変態チックなヴィゴ・モーテンセンは、充分にマイケル・ダグラスに敵対している。(顔がなんせインパクト大。おしりのような割れたケツ顎をお持ちだもん(笑) )



ただ、ひとつだけ不満があるなら、もうちょっとだけ『カラマン警部』(デヴィッド・スーシェ)に活躍してほしかったかも。


スーシェ贔屓の自分は、このあたりが物足りなかった。よって星は4つにとどめておきたいと思う。