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2019年12月9日月曜日

映画 「第七のヴェール」

1945年 イギリス。






「外科医が手術をするときに服を脱がせるように、我々、精神分析医も、心の中に幾重にも覆われたヴェールを1枚、1枚剥ぎ取っていく事が仕事だ。そして、それは、恋人や親しい人にも決して見せた事のない『第七のヴェール』までもある。そこまでを今から剥ぎ取り、彼女の心の奥底にある秘密を調べなくてはならない。」



高名な精神分析医『ラーソン博士』(ハーバート・ロム)は、そう言うと、患者の『フランチェスカ・カニンガム』(アン・トッド)を診察台の椅子に座らせた。


ラーソン博士の指示で、フランチェスカに催眠剤を投与する看護師。


フランチェスカの目は、どこを見ているのか虚ろで、微動だにしない。


何度も何度も、医者や看護師の目を盗んで、病院を脱走しては、自殺を謀ろうとする彼女。


ピアニストの彼女が、なぜ?自殺を謀ろうとするのか……その根本となる原因を突き止めなくては。


薬が効いてきたのか……フランチェスカの瞼がユックリと閉じていく。


「フランチェスカ、過去に戻っていこう……君はまだ学生だ。そう、14歳くらいの少女だ。何が見える?」


ラーソンの問いかけに、フランチェスカの意識はさかのぼり、遠い昔を思い出していた。



厳しい全寮制の学校生活……。

母親は既に亡くなり、次に父親の死……。


そして、引き取られた屋敷で初めて会った、偏屈で変わり者の叔父、『ニコラス』(ジェームズ・メイソン)………。





精神分析を織りまぜた珍しいメロドラマ。



ジェームズ・メイソン主演で、以前、『霧の中の戦慄』を紹介したが、それも犯罪者の心理分析のようなお話だった。


この1940年代の当時って、よくよく考えてみると、こんな精神分析やら心理分析、犯罪者の心理に焦点をあてた映画が多い。


一種のブームみたいなものだったんだろうか?


何だか当時の世相(戦中、戦後)の状況が関係しているように思えてならない。



戦後、心に深い傷を追い、極端に人格さえも変わってしまった人々を、心理分析の力によって何とか救済しようとする試みが、特にあった時期だったのかも。




まぁ、何にせよ、これからも40年代の映画を振り返る時、この手の映画は、まだまだ出てくるかもしれないと思う。





で、ラーソン博士の催眠治療は、その後、どうなったかというと………、


次々と明らかになるフランチェスカの過去。


そこに現れるサディスティックで高圧的、暴君のニコラスをジェームズ・メイソンが演じているのだが……とても、とてもイヤ〜な野郎で、超ムカツク男。(メーソンの演技力なんだろうけど、最後まで好感が持てなかった)



足が悪くて杖をついているこの男。


身体的な障害だけじゃなく、ねじれた性格は、この男こそ精神分析や治療が必要なんじゃないかと思ったくらいだ。


フランチェスカの初恋相手ピーターとの間を無理矢理引き裂き、フランチェスカを叱咤しながら、強引にピアニストの特訓を強いるエゴイスト。



片時も自由さえ与えず、息のつまるような生活を無理強いするニコラス。(こんな男のそばにいたら、そりゃ逃げ出したくなるし、死にたくなるわな)



まるでフランチェスカを自分の持ち物のように扱うニコラスなのである。



やがて、画家のレイデンと知り合い、駆け落ちしようとするフランチェスカに、


「私を裏切るのか?!」

と、激怒するニコラスは、ピアノを弾いているフランチェスカの指を杖で滅多打ちにする。(ヒーッ! やる事がえげつない。)



悲鳴をあげて、逃げるフランチェスカとレイデン。


でも、逃亡中に自動車事故。(全くツイてない)



指に火傷を負ったフランチェスカは、「もう、ピアノが弾けないわぁ~!」と絶望する。





で、この映画が良いのはここまで。



後は、「何じゃこりゃ?!」の展開が続く。



ラーソン博士の懸命の力で何とか精神を回復したフランチェスカなのだが、そこに3人の男たちが集まる。


初恋相手のピーター。

駆け落ちの相手、レイデン。

そして、イヤな野郎、ニコラス。



彼女は誰を選ぶのか?




なんと!あの『ニコラス』(ジェームズ・メイソン)の胸に飛び込んでいくのである。(えっ?何で??)




あんな数々の仕打ちをされてきたのに?!どうして?なんで?!



このラストには、まるで納得できない。


なんなら「観客を舐めとんのか?!」の仕上がり具合だ。


それまでの境遇に同情していたフランチェスカだが、このラストで、一気に冷めてしまった。(全く愚かな女である)



それにしても、またもや、ジェームズ・メイソン。(非道、非情な役といえば、とことんメイソンである)




来る仕事を拒まず主義もいいけど、こんな役を好きで演じていたとしたら、そりゃ、アカデミー賞も遠のくはずだわ。




『フランチェスカ』を演じていたのが、前回の『恐怖』で継母ジェーンを演じていたアン・トッド。(この映画の時は、すでに36歳なのに、14歳から20代なかばまでを演じている)




ラストで、正気を取り戻した、このフランチェスカが、それまでの怨みつらみで、非道なニコラスを、階段上からピストルを構えて、一気に撃ち抜けば、この映画は傑作になったのに。



《私の考える映画のラスト》


「何をするん……だ、フランチェスカ……」と胸をおさえるニコラスに、

「私は正気に戻ったの。そして、これは当然の報いよ」と、カッコ良く言い放つフランチェスカ。

で、《the end》。




自分なら、こんなラストに絶対にする。


つくづく、残念なラストである。

星☆☆。