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2019年3月16日土曜日

映画 「幻の女」

1944年 アメリカ。







やっと、やっと、《幻の女》に会えた。



『らせん階段』のロバート・シオドマクが監督して、もうひとつの傑作といわれている映画。




原作は、ウイリアム・アイリッシュ。(本名:コーネル・ウールリッチ)


太平洋戦争の後、「Phantom Lady」の評判を聞き付けた江戸川乱歩が原書を探しまわって、夢中になったほどの小説。


「新しい探偵小説、直ぐに日本でも訳すべし!」


乱歩が太鼓判を押して、1950年に黒沼健により翻訳された『幻の女』。



その後、稲葉明雄により改訳された冒頭の出だしは、これまた有名なフレーズではじまる。



「夜は若く、彼も若かった。が、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった………」



この叙情的な文体は、日本人の心をとらえて、熱狂的に賛美されたのだった。




そして、ミステリーのベストテンをすれば、何十年たった今でも、必ず上位にランクインする『幻の女』。




かくいう自分も若い時に、このアイリッシュ(ウールリッチ)の作品を何冊も夢中になって読んだ記憶がある。



『幻の女』、『暗闇へのワルツ』、『黒衣の花嫁』、『黒い天使』、『暁の死線』、『死刑執行人のセレナーデ』などなど………。(とにかく本のタイトルの付け方が抜群にセンスがいい。タイトルだけでも手にとりたいと思わせるのだ)



どれも楽しく読んだ記憶があるが、今、現在、この歳になって読むには、この甘い雰囲気は、ちと気恥ずかしく思うかな。(やはり、アイリッシュ(ウールリッチ)の小説は、感受性豊かな若い時に読むべき小説なのだ)




そして、これらの小説は様々な映像作家や監督たちにも愛されている。



映像化もあらゆる国でされているのだ。




有名なのは、

アルフレッド・ヒッチコックの『裏窓

フランソワ・トリュフォーの『暗くなるまでこの恋を(暗闇へのワルツ)』、『黒衣の花嫁

ポワゾン(暗くなるまでこの恋をのリメイク)』




日本でも映像化は多い。



『幻の女』なんて何度も二時間ドラマになっているし、

山口百恵の引退ドラマ『赤い死線』は、『暁の死線』が原作である。





そして、かの『らせん階段』のロバート・シオドマクもアイリッシュの映画を撮っているという。



ぜひ観てみたい!



陰影のハッキリした美しいフィルムノワールの映像を撮るシオドマクなら、さぞや名作に仕上がっているだろうと期待しないわけにはいかない。


そして、やっとこさ、念願叶って観れたのだ。




面白かった!


面白かったけど、アイリッシュの甘い文体とは違い、やはりシオドマクの独特の映像に仕上がっている。


小説を読んでいるので、粗筋は覚えていたのだが、シオドマクは中盤で犯人を早々に明かしている。(真犯人を知りたくない方は、小説からどうぞ)






夕刻、妻と喧嘩したばかりの男『スコット』(アラン・カーティス)は、不機嫌そうな様子で、ぶらりとbarにやってきた。


寂しそうにしている奇妙な帽子をかぶった女と隣り合わせに座るスコット。


妻と行くはずだった劇場のチケットは、胸元のポケットにあり、このまま、おじゃんにするには勿体ない。



おもいきって帽子の女を誘うとスコットは、タクシーを拾い、一緒に劇場見物をした。


そして、後腐れなく別れた二人。


奇妙な帽子だけの印象で顔さえも思い出せない………そんな女だった。





深夜、家に帰るスコット。

灯りをつけると、幾人もの刑事たちが待ち構えていた。



「何だ?、君たちは?人の部屋に勝手に入ってきて!!」

怒りのスコットにニヤニヤ顔の刑事たちは、事情を説明した。




妻がスコットのネクタイで《絞め殺されていた》のだ。



「事件があった時、どこにいた?」パージェス警部がアリバイを聞いてくる。

「もちろん、《帽子の女》といたさ」とスコット。




だが、刑事たちが調べても、バーテンダーやタクシーの運転手、劇場関係者たちも口をそろえて、「そんな女は知らない」という。



確かに一緒にいたんだ!帽子の女は存在するんだ!幻なんかじゃない!!




スコットの懸命の訴えも届かず……やがて裁判の日。



アリバイが証明できないスコットは、陪審員たちにも信用ゼロ。

あっけなく、裁判では《死刑》の判決を受けてしまうのだった。




そんなスコットを心配して、留置所を訪ねてきたのは、スコットが経営する土木会社の秘書である『キャロル』(エラ・レインズ)。


「この人は人殺しなんてできる人じゃない!きっと《帽子の女》はいるはず!! 私が必ず救ってみせるわ!」


かねてから陰でスコットを慕っていたキャロルは無罪を証明するために、単身、《帽子の女》=《幻の女》探しの為に、無謀な行動を開始するのだが…………









エラ・レインズ(キャロル)……


キャサリン・ヘプバーンとローレン・バコールを足して2で割ったような顔の理知的な女優さんである。

シオドマク映画では、けっこうな常連さんで、これ以外にも出演しているとか。(『ハリー叔父さんの悪夢』、『容疑者』)



切れ長の目は、意志の強さを感じさせてくれるクール・ビューティー。

でもスコットへの情愛に溢れている魅力的なキャロルを演じている。






アラン・カーティス(スコット)……


ビックリした!

現代のルーク・エヴァンスに生き写しじゃないか?43歳で早く亡くなった彼は、転生してルークに生まれ変わったのだろうか。



奥さんがいながら、幻の女と一夜のデートをしても、こんだけ『キャロル』(エラ・レインズ)に慕われる役得の『スコット』なんだけど、このアラン・カーティスのハンサム具合いなら皆、納得してしまうかもね。






フランチョット・トーン(ジャック)……


 痩せこけて長い顔してる。


おまけに、顔の半分が変な風に動かせるので、(演技?特技?)病的な不気味さが充分伝わってくる。


逮捕されたスコットの知人で、無罪を勝ち取ろうと一生懸命なキャロルにも、一見協力的なのだけど……(勘の良い人なら、これだけ書けば、誰が真犯人か分かりますよね?)





このメインとなる3人の俳優たちを、全く知らなかったので、あまり先入観もなくサクサク観れました。





犯人の殺害シーンを直接見せないのは、監督ロバート・シオドマクらしさの演出。


ここでは、この演出が、かえって効果をあげていて下品にならず、原作の持つ品の良さを残していると思う。



小説とは違い、改変されている部分もあるが、この映画『幻の女』も、なかなかの良作に仕上がっている。


それに、上映時間が87分。(90分ないのだからスゴイ!)



これもシオドマクの傑作として自分は大好きである。


星☆☆☆☆です。