ホーム

2019年2月16日土曜日

映画 「マルサの女」

1987年 日本。







正直、伊丹十三の映画は苦手な方である。




『お葬式』『タンポポ』『あげまん』などなど …… 生涯11本(『伊丹一三名義1本』、『伊丹十三名義10本』)を残している。


ブームという事もあり、当時何本か観ているが、自分には、正直その面白さは中々分かりずらかった。



綿密な取材や下調べをして、自ら脚本を書いている伊丹十三。


演出は、決して無駄の無いシーン、細かいエピソードの積み重ね。


「どうだ!『完璧』だろう!!」

というようなものを見せられているような気がして、愚鈍な自分など後ずさりしそうな気さえしたものだ。



ただ、そんな伊丹映画の中でも、この『マルサの女』だけは好き。


《脱税》という特殊なテーマを扱っていても、それを暴き、取り締まるという普通のエンター・テイメントに仕上がっていて中々面白い。(それでも『 2 』は、ちょいと苦手)





『権藤秀樹』(山崎努)はラブホテルの経営者。


ラブホテルでは領収書を貰う客などいない、その盲点をついて存分に脱税をしている。


政界や暴力団蜷川(にながわ)組の『蜷川喜八郎』(芦田伸介)の後ろだてを得て、うまく外堀を埋めている。


囲う愛人までも利用している。(それでもたまる領収書をゴミの日に捨てさせたり、印鑑を預けたり)



「来るなら来い!税務署!」

権藤に向かってくる敵はいない ………… はずだった ……





港町税務署に勤める『板倉亮子』(宮本信子)のモットーは「決して脱税を見逃さない」である。



プロとして、税法に長けているのはもちろんだが、その対象者をあらゆる角度から観察し、それを暴き、正しい税を納めさせる。



今日もある老夫婦が営む、雑貨商店に出向いていた。


肉や果物、お菓子などが並ぶ棚をサーッと見て、

「これだけ揃っていれば、奥さん買い物しなくていいでしょう?」

と親身になりながら亮子が言う。



だが、次の瞬間、目は帳簿と見比べて厳しい眼差しに変わる亮子。



「そうね、買うのは魚と野菜、米くらいかしら」

商店の女将さんが気軽に答えた。


「それじゃ、おたく5人家族だから、お店のものを月に20万くらい食べてますか?」


「20万ってことはないけど …… そうだなぁ8万くらいかな」今度は店の主人が答えた。


「その8万は売り上げに入ってますか?」


「入ってるわけないだろう?自分の店の物を自分で食べて何が悪いのさ?」

亮子の言い方に、不安で段々イライラしてくる店の女将。




「この店は会社になってますね。会社になっている以上、お店の品物は会社の物であって社長個人の物では、ないですよね。自分の物でないのなら、お金を出して買うのが本当でしょう!」


亮子が、冷静に正論を言うと、老夫婦は、二の口も出てこず、ポカンとしている。


「まぁ、おたくは会社にして間もないので、社長に対する売掛金という事にしておきましょう。去年の5月からですから、8ヶ月×8万として64万円抜け落ちていたという事で、もう一度、税の申告をやり直してください」(ヒェーッ~)



税の申告をすれば、持っていかれる税金も当然上がる。



淡々と言う亮子に女将が、とうとう(カチン!)逆ギレした。


「あんた!血も涙もない女だね!我々貧乏人からむしりとるようなマネしやがって!、悪いことやってる奴らから取りゃいいだろうに!!」


「勿論、取りますよ!、誰ですか?!それは?!」亮子も立ち上がった。


「それを調べるのが、あんたら税務署の仕事だろ!」




こんなのは毎度の事だ。

長年打たれ強くなっている亮子にとっては、こんな罵声は『へ』でもないのだ。



そして、根っからの仕事人間・亮子は、息抜きのパチンコをしてても「この店の申告に誤りはないだろうか」と常にアンテナを巡らせている。(ある意味恐い)




雨宿りしているビルでも……

ビル、ラブホテルのビル、権藤秀樹のビル……


車を停める、ビルの駐車場の台数を数えながら、既に亮子の目は、新たな獲物を見つけたハンターのそれに変わっていた。


運命に導かれるように『板倉亮子(マルサ)』と『権藤秀樹』の対決は迫りつつある ……





1987年といえば、バブル全盛期。


億万単位の金が、自在に動いていた時代。(全然、自分には、その欠片さえも回ってこなかったが)



マンションではなく、オクションなんて建物もズラリ。地価はドンドン高騰して地上げ屋なんてものもあった。

金持ちたちが札束を放り投げながら、店を貸し切りやりたい放題。




そんな時代に、この映画は現れた。



金持ちでも普通の商店でも関係なし。


公平に税を納めさせる!

そして脱税にはプロのマルサが徹底して、その嘘を暴く。


税務署側を《正義の味方》と見れば、「ただ、痛快!」な物語なのである。(現実は真逆だけど(笑))



私のように伊丹映画が苦手な人間にも、全く伊丹映画を観たことがない人にも、好き嫌いなくスンナリ受け入れられるんじゃないかな?



それに、毎年やってくる確定申告。(めんどくさいですよね~自分も申告してますが)


税の事もちゃんと調べてみると、我々国民を苦しめるだけのものでもなく、抜け道も少しならある。(色々な控除)



ただ、自分で聞いたり、調べたりしなければ、お役所も親切には、あちらから進んで教えてはくれないけど……(それが素人のこちら側から見れば、あざとくて「イケズ〜」に映るのであるが)



とりあえず、何も知らない初心者が税の事を知る取っ掛かりとしては、この映画は最適なのかもしれない。

星☆☆☆☆にしときますね。