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2019年1月1日火曜日

映画 「霧の旗」(1977年版)

1977年 日本。






――  北九州の片田舎。


『柳田正夫』(関口宏)と妹の『桐子(きりこ)』(山口百恵)は、幼い時に両親を亡くし、たった二人で支えあい生きてきた。



兄の正夫は、小学校の教師をしていたのだが、ある日修学旅行の積立金を全額落とし無くしてしまう。(なんてドジな)


仕方なく、高利貸しの老婆に高額な利息で借金をしてしまう正夫。(なんせ、キャッシングもクレジットもない時代なので)




だが、その老婆が殺されてしまった。


たまたま、「借金の返済を待ってくれ!」と直談判に行った正夫は、殺された老婆に遭遇してしまう。


そうして、(魔がさしてしまい)自分の借用書だけを持ち帰ってしまった正夫。




だが、これを怪しんだ警察は、正夫を、桐子の目の敵で逮捕した。



「待ってください!、兄は無実です!」

連行していくパトカーを追いかけながら、桐子は叫ぶ。(借用書を盗んだのに? (笑) )




その後、留置所に面会に行くと、

「待っていて!お兄ちゃんは絶対に私が助けるから!」と励ます桐子。




国選弁護人は頼りにならない。

有名な弁護士に頼もう。そうだ!東京の弁護士がいい!



桐子は夜行列車に乗りこみ、ひとり東京を目指した。





―― そして東京。



敏腕弁護士と名高い『大塚欽三』(三國連太郎)の事務所に乗り込んで行く桐子。



そこには、雑誌記者の『阿倍啓一』(三浦友和)が、たまたま取材で来ていた。



(あんな若い子が、こんな所に?……)




だが、はるばる訪ねていった大塚弁護士の態度は案の定、《無慈悲》なものだった。


貧乏な桐子が高額な弁護料を払えないと分かると、態度を変えて、冷酷に(とっとと)追い返したのだ。




桐子が肩をおとしながら事務所を出ていくのを、なぜか?阿倍は追いかけた。



(だが、この子になんて言葉をかけたらいい?………)


追いついても上手い言葉ひとつ思いつかないでモジモジしている阿倍に、桐子は、


「きっと、兄は死刑になります。でも見殺しにしたのは大塚弁護士だわ!」と言ってのけた。




激しい憎悪で立ち去っていく桐子に阿倍は言葉を無くした。



その後、桐子のあの表情が忘れられない阿倍は、柳田正夫の事件が気になり、こっそり調べてみると………



柳田正夫は第一審で死刑の判決をうけたのだった。



そして、刑が執行される前に、哀れ正夫は獄中で死んでしまう。



(あの子は、今、どうしているだろうか……たった一人で……)


阿倍は、遠い北九州にいる桐子に思いをはせた。(惚れたな? (笑) )





――――  それから数カ月後。



阿倍は、たまたま夜の銀座のクラブに来ていた。



そこには、あの桐子の姿が!


だが、いまや別人のように変わり果てて、ホステスとして接待している桐子に、阿倍は愕然とするのだった……





原作は、松本清張


以前、『疑惑』をとりあげたが、本当に松本清張の作品は傑作ぞろいだ。

何を読んでも、時代が変わっても風化することなく面白い。



こんなに頻繁に映像化されて、好まれる小説家もいないんじゃなかろうか。




そして、この『霧の旗』も他の作品同様、何度も映像化されている。

1965年、倍賞千恵子主演、山田洋次監督版が、傑作といわれ有名らしいが、自分は未見である。(いつか観てみたいが)




私が観たのはこの1977年版。


そう、私が、ただ、山口百恵の大フアンだったからに他ならない!!




この時、山口百恵、若干18歳。

それにしてもスーパーアイドルに、ホステス役なんて、会社(ホリプロ)もよく許したよ (笑) 。





こんな桐子が地道にホステスを続けていると、ある時、思わぬチャンスがおとずれるのだ。




桐子の客だった男が殺されて、その殺害現場のマンションに、偶然やって来たレストラン経営者の『径子(みちこ)』(小山明子)という女性。



そこへ遅れて、『桐子』(百恵ちゃん)も目撃者として現れて……


死体の側に立っている径子は、桐子相手に、急にアタフタする。


「私は無実なのよ!私が、ここに来た時は死んでいたんだから……お願い!証人になってちょうだい!!」



こんな径子の死にものぐるいの訴えに同情するかと思いきや……

この径子が大塚弁護士の愛人だと知ると、途端に態度を豹変させる桐子。




やがて逮捕された径子の供述で、警察が桐子の所へやって来て尋問すると、


「何の事でしょうか?私、そんな女性に会った事もありませんし、そんな場所に行った覚えもありません」



どこまでも知らぬ顔。

クールな表情を崩さない桐子なのである。(すっとぼけ)



こんな桐子の豹変に慌てふためく留置所の径子と、大塚弁護士😰




これは神様が私にくれたチャンス!



全ては『大塚弁護士』(三國連太郎)を、徹底的に苦しめる為なのだ。



私が兄を亡くした苦しみを味わったように、今度は大塚弁護士が苦しむ番なのよ!



あまりの冷酷さに、『阿部』(三浦友和)が「もう、許してやれよ!」と何度も言っても、一切聞く耳なし。





この怨み、はらさでおくものですか~!🔥



無表情を装っていても桐子の腹の中ではメラメラと復讐の炎が燃えているのだ。(怖っ!)




情にも流されず、妥協もしない桐子の復讐は、こうして淡々と静かに行われていく………







この非情な桐子役、周りはイメージを考慮して反対したそうだが(でしょうね)

「どうしてもやりたい!」と百恵自身が周囲を説得したという。




10代の娘が、すごい覚悟である!



この時代のアイドルと呼ばれていた人達は、10代でも、皆もう立派な大人なのだ。



今の歌手や俳優が、ただ「歌が好きだから」とか「有名になりたいから」、「華やかな芸能界に憧れて」、「街でスカウトされて」とかの理由じゃないのだ。



百恵に限らず、当時の歌手や俳優たちは、「親」や「兄弟」を養う為に芸能界に入ってきているのだ。



10代でも、

「自分が稼いで有名にならなければ家族を養っていけない!」

そんな悲愴な覚悟で芸能界に入ってきているのだ。



そんな覚悟が大きいほど、特別なオーラをまとう事ができるのかもしれない。





作曲家やプロデューサー、脚本家たちの目は、それを決して見逃さない。


有名になっていくのも当たり前なのだ。




100人いても1000人いても、その中で誰もが、その人だけに注目してしまうのが、本物のスター。



どんなに化粧しても、整形してもダメ。

ダンスや歌がうまくても絶対にまとえない、大スターだけが持っている輝き=覚悟。



この映画『霧の旗』でも、百恵の瞳の奥に、ユラユラ揺れる炎のような覚悟を、充分に堪能できると思うのであ〜る。

星☆☆☆☆。